増税でも物価への影響はさほどなし

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■1997年の増税時とどう違うか

2014年4月の消費税率引き上げを見据えて、いまのうちに欲しいものを買っておこうと考えている人は多いだろう。ただ、必ずしも税率引き上げ前の買い物が有利とはいえない。消費者の多くがそう考えて駆け込みが発生すると、増税後に反動で売れなくなり、値引きされるケースがあるからだ。

駆け込みはどのような商品で発生しやすいのか。参考になるのは、97年4月の消費税率引き上げだ。このときは税率が3%から5%へ引き上げられ、住宅投資と個人消費に駆け込みが発生した。

住宅投資から見ていこう。97年の税率引き上げ前は、3四半期前から「貸家」と「持ち家」(注文住宅)を中心に駆け込みが発生した。このときは「分譲」(戸建て・マンション)の駆け込みは大きくなかった。売買のしやすさを考えると、本来は分譲のほうが駆け込みは発生しやすい。それにもかかわらず統計に表れなかったのは、当時は分譲の在庫がだぶついていたため。ハウスメーカーは持っている在庫をさばけばよかったので、駆け込みで着工をする必要がなかったからだ。

現在は、分譲の在庫がそう多くない。そのため今回は分譲でも駆け込みが発生するだろう。

ただし、13年度税制改正大綱で住宅ローン減税が拡充され、14年4月から17年末までに住宅を取得した場合、住宅ローン控除の上限額が1年間40万円と、それまでの上限額20万円の倍になると決まった。この優遇措置である程度の駆け込みが抑えられる可能性はある。

個人消費は、97年の税率引き上げの2四半期前から駆け込みが発生した。中心になったのは一般家具やテレビ、エアコン、自動車などの耐久財と、下着類や和服などの半耐久財だ。あたりまえだが、生鮮食品は早く買っても腐ってしまう。駆け込み需要は、保存が利きやすいものほど起きやすい。97年の税率引き上げ前は、非耐久財でも、買いだめしやすいたばこは駆け込みが発生した。今回も同じように、保存の利きやすいものほど駆け込みが見られるだろう。

前回とは状況が異なる面もある。08年以降、政府は経済対策として「家電エコポイント」「エコカー補助金」などの消費喚起策を行った。これで需要が先食いされたため、税率引き上げを前にしても、家電や自動車の駆け込みはそれほど起きない可能性がある。

97年当時とは、可処分所得の推移も異なる。当時は所得が上昇していたが、いまは下落傾向にある。いくら買いだめしておきたくても、お金がなければ前倒しして買い物することは難しい。これも駆け込みを抑制する要因になる。

このように、今回は駆け込みとその反動を和らげる要因が多い。

そもそも長い目で見れば、消費税率引き上げは物価のトレンドにほとんど影響を与えない。図の6つの品目の消費者物価指数を見てみよう。いずれの品目も97年4月の税率引き上げ時に価格が上がっているが、興味深いのは、その後のトレンドだ。もともと横ばいで推移していた自動車や外食は、税率引き上げ後もほぼ横ばい。一方、もともと下落傾向にあった冷蔵庫、エアコン、テレビなどの家電は、いったん税率引き上げで高くなった後、ふたたび下落に転じている。つまり税率引き上げが物価に与える影響は一時的にすぎず、結局はそれまでのトレンドに収斂していく可能性が高いことを97年の経験は示している。

消費税率がどうであろうと、時代とともに価格が高くなるものは高くなるし、安くなるものは安くなる。そう考えると、消費税率を気にして買い物をする必要はないと思うが、いかがだろうか。

(日本経済研究センター 愛宕伸康 構成=村上 敬)