1.ビリオネアとミリオネアの比較

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富裕層=ミリオネアとはまったく異なる生活スタイルを持つという超富裕層=ビリオネア。巨額の資産を代々受け継ぎながら、表に一切姿を見せない真の富豪たちの素顔は──。ナゾに包まれた「日本人の0.02%、2万6386人」の完全プロファイリング。

■保有資産の合計が国家予算に匹敵

全世界にどれくらいの数の「富豪」がいるのか? その目安として、ほぼ毎年発表されるデータがあります。

メリルリンチ・グローバル・ウェルス・マネジメントとコンサルティング会社のキャップジェミニは昨年6月、「第15回ワールド・ウェルス・レポート」(2011年版、調査対象71カ国)を発表しました。それによれば、投資可能な個人資産を100万米ドル(約8000万円)以上保有する富裕層人口は世界に1090万人(前年比8.3%増)存在し、その保有資産も約42兆7000億米ドル(同9.7%増)と増加中で、08年のリーマン・ショック以前の水準を上回りました。

地域別に眺めると、アジア・太平洋地域の伸びが大きく、人口・保有資産額で初めて欧州を抜き、北米に次ぐ2位に。ただし国別では富裕層の53%がアメリカ・日本・ドイツの上位3国に集中。以下は中国、英国、フランス、カナダ、スイス、オーストラリア、イタリア、ブラジル、インドと続きます。

同レポートによれば、日本の富裕層人口は約174万人。金融資産1億〜5億円の金融資産を持つ「ニューリッチ層」「プチ富裕層」といわれている方々がこれに該当すると思われます。起業して財をなす、あるいはストックオプションである日資産が急増という、1代で財を築かれた方が多いですね。

しかし、私はコンサルティング業務を通じて多くの富裕層の方々と接してきて、同じ富裕層でも考え方や趣味・趣向、お金の使い方などに大きな違いのある層の存在に気がつきました。1代ではちょっと稼げない10億円以上の金融資産を保有。自分の祖父の代か、もっと前のご先祖から続く事業を受け継ぎ、それを維持・拡大させながら資産を増やしている。自宅や事業資産のほか、マンション投資は1棟買いが普通……というビリオネアの方々です。

私はこうした次元の違う富裕層の価値観、ライフスタイル、行動様式の研究が大きなビジネスチャンスを生む契機になると考え、09年4月、船井総合研究所に「富裕層ビジネス研究会」を立ち上げました。いわゆるお金持ちを対象とする社交クラブではなく、国内外で富裕層ビジネスを手掛ける方や志向する方、富裕層のコミュニティを持つ方々とタイアップして新しいビジネスをつくり、さらに従来のビジネスを活性化させるためのコンサルティングを提供することがこの会の主旨です。

この研究会を通じて「富裕層=ミリオネア」の中に、資産10億円を超す「超富裕層=ビリオネア」と定義しなおすべきお金持ちが存在する、と確信を持って言えるようになりました。

このビリオネアとは、どんな属性を持った人たちなのでしょうか。

私は富裕層のデータベースを持つランドスケイプ社に分析を依頼、同社が持つ約9500万人の個人情報を基に職業・居住地・その他の3項目について独自の手法で点数化し、その獲得ポイント上位の人数を集計しました。

その結果、ビリオネアは日本に2万6386人存在することがわかりました。日本の全人口のわずか0.02%ですが、その保有金融資産(預貯金・有価証券など)を合計すると、日本の年間税収に匹敵する約50兆円。約1400兆円とされる国内の個人金融資産残高の約3%に当たります。

ビリオネアの平均年齢は、72.6歳。現役を退いている可能性の高い70代が中心ということは、ほぼ全員が不動産を保有していると考えられます。これら収益性の高い不動産が、その子や孫に引き継がれていくことは容易に推測できます。相続の際に売却・分割される可能性が高いとはいえ、ビリオネアの子は、やはりビリオネアとなるのでしょう。

では、ビリオネアはどんな職業に就いているのでしょうか。

1位が経営者、2位が医師。点数が高くなるにつれて、経営者兼医師・歯科医、つまり開業医が多いという顕著な傾向が見られます。

研究会の会員に、医療法人を立ち上げた歯科医の方がいますが、普段は本当に自由を謳歌した生活を送られています。高級ホテル内のクリニックで治療をしながら、都内に10以上のグループネットワークを構築。同時に、医院をより機能的な組織とし、自由に効率よくビジネスができるよう医師の方々に日々、情報発信しています。

■名前だけの名刺、質素で地味な装い

では、彼らはどんなところに住んでいるのでしょうか。ビリオネアが住む地域を都道府県別で見ると、東京都、神奈川県など首都圏や愛知県、大阪府、兵庫県に集中しています。愛知はトヨタや三菱重工業、兵庫は神戸製鋼といった大手企業の拠点があり、昔から何代もそこに住んでいる方々が多いことが数字にも表れています。

市町村別で見ていくと、都内ではウオーターフロントや六本木ヒルズ、麻布といった特定の地域には集まらず、比較的広い地域に分布しています。ダントツ1位の世田谷区は戦前から財閥系・旧皇族の方々が、2位の大田区は高級住宅地の田園調布だけでなく、2代、3代と続く優れた技術を持つ中小企業経営者が多く住んでおられることが要素としてあるようです。

これは、ビリオネアが代々大事にしている先祖の土地で事業を展開していることの裏返しではないかと思います。麻布のマンション等を買われている方もいますが、あくまで投資用や仕事上必要とされる仮の宿泊拠点であって、家庭生活の本拠地としてそこに住んでいる方は比較的少ないようです。

さて、ビリオネアに共通する行動様式や価値観を探っていきましょう。

1つキーワードを挙げるとすれば、それは「自由」だと思います。金銭面での自由。時間の自由。そして、抽象的ですが心の自由。ビリオネアは、最低限この3つの自由を持っている方々だと私は考えています。

実はこの3点については、超富裕層=ビリオネアには及ばない富裕層=ミリオネアの方々は様相を異にしています。日々の仕事に追われて自分の時間を持てないとか、高額な報酬を得ているにもかかわらず、交際費等でお金を使ってしまい、毎月数万円の貯金すらままならない方もいらっしゃいます。

一方、ビリオネアの方々は、ちょっと隣近所に行く感覚で海外に行ける、ボーダーレスな環境で生活しています。たとえば、寒い時期はハワイ、暖かくなれば日本、真夏にはカナダに行って、友人のいるモナコでクルージングを楽しみ、またカナダに寄ってから帰国する……という具合に、まさに神出鬼没で(笑)行動範囲が非常に広い。また、そういうところにはお金を出し惜しみしませんから、地道に自分の事業を回す一方、好きなところで、好きな人と会って、好きな時間を過ごすストレスフリーの生活を送っているようです。

装い、ファッションはむしろ質素で地味な方が多いですね。普通にユニクロを着るし、その辺ですれ違ってもお金持ちだとはまったくわからない。無理に質素にしているのではなく、他人から注目されることに興味・関心がなく、自分を大きく見せる必要もないのでしょう。毎日いいものを食べているわけでもなく、吉野家を好む方もおられます。もう1つ特徴的なのは、名刺を出したがらないこと。その名刺も肩書はなく、自分の名前だけ記してあって、連絡先はせいぜいメルアドくらい。それすらない方もいます。

さまざまなセールスや投資、寄付などの勧誘・攻勢が煩わしいのでしょうが、ビリオネアのコミュニティの中だけで生きていけるのも、名刺を配らない一因でしょう。コミュニティに顔を出す、名乗るだけで「△△地域で□□をやっておられる○○さん」とわかる狭い世界です。そして、そこには魅力的な情報、世間に影響力のあるナマの情報が集まってくるのかもしれません。

ビリオネアほど、意思決定に必要な確度の高い情報のソースを持っています。彼らにとってマスメディア情報は遅いか、あるいはマスメディアそのものを信用していない方も多いですね。

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船井総合研究所 富裕層ビジネス研究会主宰 小林昇太郎
立教大学大学院修了(経営管理学修士)。大手商社、非鉄金属メーカーを経て船井総合研究所に入社、経営コンサルタントとして活躍。2009年4月「富裕層ビジネス研究会」を立ち上げる。同会には国内だけでなく東南アジア、香港、中東など海外からの入会も多く、複数の新規事業を実現。著書に『ビリオネアビジネスの極意』『絶対に断れない営業提案』(共著)など。

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(船井総合研究所 富裕層ビジネス研究会主宰 小林昇太郎 構成=西川修一 撮影=向井 渉)