TBSラジオの新番組「Session-22」でメインパーソナリティを務める荻上チキ/1981年生まれ。評論家。学生時代から「成城トランスカレッジ」などのブログで、アルファブロガーとして注目を集め、メディア論を中心に、政治経済、社会問題、文化現象まで幅広く論じる。「シノドス」など、複数のウェブメディアの運営に携わる。著書『ウェブ炎上』『ネットいじめ』『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』『彼女たちの売春』など。2010年から「ニュース探求ラジオ Dig」曜日別パーソナリティを担当し、4月から「発信型ニュースプロジェクト 荻上チキ Session22」(月〜金:午後10:00〜深夜0:55 ※金曜日のみ11:55まで)でメインパーソナリティを務める。

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TBSラジオの新番組「発信型ニュース・プロジェクト 荻上チキ Session-22」でメインパーソナリティを務める評論家・荻上チキへのインタビュー、後編です。
(前編はこちら)


《やりながら進化できる余地を残した強み》
─── TBSラジオ・夜の10時と言えば「バトルトークラジオ・アクセス」「ニュース探究ラジオDig」と続く、“ニュース系討論番組”の枠だと思います。だからこそ継承したいこと、反対に、変えていきたいことは何でしょうか?

荻上 ひとつは、「マスメディアではできない議論。でも、ここでなら聴ける」という期待感ですよね。実は僕、ラジオって「マスメディア」とは位置づけていなくて、「メゾメディア」と勝手に呼んでいるんです。

─── メゾメディア?

荻上 中くらいのメディアってことですね。規模が違うんです。新聞であれば、一時期「1千万部」とうたってましたけど、数百万人単位に届くメディア。テレビもそうですよね。例えば「サッカー中継が40%」となったら、もう数千万人が見ているわけですよ。でも、ラジオや雑誌ではそんなこと絶対ないんですよね。新書で「ベストセラー100万部、スゲー!」と言ったって、いわばたかだか100万部。テレビや新聞であれば、常に数百万人相手に勝負をし続けているわけです。だからこそ、「中規模なメディア」として、マスのテレビや新聞ではない発信の仕方を考えなきゃいけない。ラジオ、雑誌、それから大手のウェブメディアは、そういう課題を持っています。それともうひとつは、やっぱりインタラクティブ性です。

─── 「アクセス」は電話参加、「Dig」はTwitter参加が特徴的でした。

荻上 「Dig」が始まった2010年当時、Twitter連動のガチ番組ってほとんどなかった。Twitter連動を唱っていながら、タイムラインはほとんど動いていなかったり。もっとも今ではNHKの「NEWS WEB」のようなTwitter連動の番組がどんどん増えてきて、それなりにタイムラインも動くようになってきています。つまり、Twitter連動まではデフォになっていると思うんです。だからこそ「Dig」の後を受けるこの番組では、それ以上のインタラクティブ性を用意しなくちゃいかんだろう、と。そこで考えついたのが、タイトル通り「Session」という番組形式。要は、あるものは全部使う。電話も使うしFAXも使うし、もちろんハガキ、メール、Twitter、Facebookも使う。その他にも津田(大介)さんが立ち上げたインターネット国民投票「ゼゼヒヒ」の活用とか。

─── 番組中に津田さんに使用許可を取っていましたね。

荻上 この先、他にもいろんなツールやメディアが出てくると思うので、出てきたらすぐ使う、とにかく使う。まっさきに番組に活かそうと。だから、もはや「Twitter連動番組」をうたうのはやめて、単に「参加の<モード>がたくさんある」と言っておけば、今後どんなメディアが出てきても、それにあわせたモードが作れるわけですよね。そういう風に、やりながら進化できる余地を残したっていうのが、ある意味強みなのかなっていう気がしますね。


《変身に変身を重ねるヒーローが好き》
─── 新番組のひとつの特徴がいま話にも挙がった<モード制>です。<バトルモード><探求モード><直電モード><レクチャーモード>などなど、個々のテーマやゲストに応じて毎回、番組のフォーマットまでも変わるような自由度があって面白いです。

荻上 当初の番組企画にはなかったんですが、このままじゃ「アクセス」「Dig」は超えられない、と考えついたのが<モード制>です。番組の形式を縛りすぎて、取り上げられないニュースや呼べないゲストが出てくるということに結構ジレンマを感じていたんです。というのも、どうしてもこの人の話を聞きたい、と思っても「電話でリスナーと喋るのは苦手」という人もいらっしゃいます。逆に、「Dig」ではリスナーとの電話をつなげなかったけど、ここはやっぱり電話でしょ! という場合があってもいいわけですね。その意味で、幅は広がったかなぁという風に感じてはいます。

─── この<モード制>って、「最近の仮面ライダーみたいだな」って思ったんです。いろんなモードを組み合わせることで、強さや見た目、特徴が変わるという。

荻上 僕は「仮面ライダーBlack」が好きで育った少年だったので、変身に変身を重ねるヒーローが好きなんですよ。「獣神ライガー」とか「NG騎士ラムネ&40」の戦士たちもそうだったんですが、状況にあわせて形態を変えるっていうのが僕は好きで。タイムラインで「ライダーに謝れっ!」っていうのが来ましたけどね。

─── そんなコメントが?

荻上 だから、恥じないようにやっていきたいなと。


《本は出したいというよりも「出さなきゃいけない」》
─── 月〜金でこの番組をやることで、「シノドス」だったり、日々の評論活動っていうのは制限されませんか?

荻上 「Session」を始めるにあたって、いくつか仕事は減らしました。元々僕は、本を書くために1年間取材を続ける、というスタンスでやっていたので、取材のタイミングも減るでしょう。そして、インプットの形とアウトプットの形も徐々に変わっていくかなと思います。だけど、1年に1冊だったのを2年に1冊にするとか、やり方によって取材は続けられるし、番組を持っていることでようやくできる取材っていうのもあるわけですよ。プラス・マイナス両面ありますから何とも言えないですけども、去年出した『彼女たちの売春』みたいな本をコンスタントに出すっていうのは難しいかもしれないですね。

─── なるほど。

荻上 だけど、それでも本を出さなきゃいけない……そう、本は出したいというよりも「出さなきゃいけない」と思っていつも書いているので、出さなきゃいけないテーマがあって、それが僕しか書けないならば書く。一応アイデンティティとしてずっと「物書き」のつもりなので、これからも書くんじゃないでしょうか。

─── 今の肩書きは何だと考えていますか?

荻上 評論家。

─── それは変わらないと。

荻上 「そんな若いのに評論家を名乗るな!」とよく怒られるんですけどね(笑)。そういう人には「すみません」と言いつつ、他に名のりようがないんですよ、僕の仕事。ジャーナリストじゃないしライターでもないし、編集者というほど編集に専念するわけじゃないし。

─── 職業としてのラジオパーソナリティと、肩書きとしてのラジオパーソナリティっていうのはどう考えていますか?

荻上 どうなんでしょうね。パーソナリティという役割は果たしても、職業としてではないと思います。もともと、物書きを目指したことだって1秒足りともないわけです。

─── そうなんですか?

荻上 はい。同様に、ラジオパーソナリティになりたいなんて一秒足りとも思ったことがなくて。でも、役割として与えられた。「ラジオパーソナリティ」という肩書きは名乗らないと思いますけども、ラジオの仕事が続くのであれば、そこでできることの可能性をちゃんと追求して、手を抜かずにやっていくと。だから、今まで以上に頑張って成長しようと。


《中規模なメディアだからこその「参加感」》
─── 荻上さん自身が「ラジオ」というものに対してイメージしていたもの、もしくはよく聴いていた番組って何かありますか?

荻上 中学生の頃はアニメにはまっていたので、深夜放送でやっていた声優のラジオドラマとかを聴いていました。中学時代にあかほりさとる作品は全部読んでいて、角川スニーカー文庫で本棚が真っ赤だったんですけど、あかほりさとるもラジオやってましたからね、聴いてました。学校には全然、スニーカー文庫を読んでいる人間も声優に興味がある人間もいなかったんですが、そういう「特定のファン」が、ラジオでなら繋がれる。中規模なメディアだからこその「参加感」を演出してくれるのがラジオだったなぁっていうのが、子供の頃から思っていましたね。

─── 結構、濃いラジオリスナーですね。

荻上 「少年ジャンプ」に『ジャンプ放送局』ってありましたよね。あれ、単行本も全巻持っていたんですよ。あれも「放送局」と付いているように、ラジオ感がすごく出ている。「ハガキ職人」っていうラジオ文化と根っこが同じ。僕もラジオにハガキを送って読まれたことがあるんですが、やっぱり喜ばしいわけですよ。そういう「コミュニケーションの別なチャンネル」というのがラジオにはあって、それは、ネットが登場しても失われないどころか、むしろネットとは違うコミュニケーション回路としての長所として浮き彫りになっている。だから、ある種、コミュニティの受け皿であり、制作の場であり、生成変化の場であり、新陳代謝の場である……そういったものがネットだけでは味わえない、ラジオの魅力なんだと思いますけどね。

─── 今後やっていきたいこと、会いたい人は誰かいますか?

荻上 それ、よく質問されることなんですけど、一番困るんです。会いたい人がいれば、聞かれる前にもう会ってるし、やりたいことがあればもう来週あたりの企画になっているハズなので、その都度その都度実現していると考えていただければ。

─── すみません。じゃあ、最後に、番組の今後の聴きどころを。

荻上 色々とチャレンジングなこともやっているんですけど、まだまだ番組の自己紹介的な部分もあるので、実はまだ「時期尚早」と止められている企画とかもあったりするんですよ。これがたぶん田原(総一朗)の御大であれば、許される部分もあると思うんです。でも僕はまだ31の若造ですから、うんと言われない場合もある。実績を残さないと次の段階にはいけないものですからね。成果を出して、リスナーからも「あいつにやらせろよ!」と言ってもらえる状況を早く作りたいですね。

◆TBSラジオ「発信型ニュース・プロジェクト 荻上チキ Session-22」
(月〜金:午後10:00〜深夜0:55 ※金曜日のみ11:55まで)

(オグマナオト)