働く目的が「欲する物の獲得」に向うのか、「望むべきことの発見・創造」に向かうのか───私たちの心の中は、この2つの複雑微妙な混合である。働く意識が成熟化するにしたがって……。

  「私たちは仕事によって、望むものを手に入れるのではなく、
   仕事をしていくなかで、何を望むべきかを学んでいく」。

   ───ジョシュア・ハルバースタム 『仕事と幸福そして人生について』


 私が研修の中でよくやるディスカッションテーマの1つが───

 「お金を得ることは、働くこと(仕事)の目的か?」である。

 ありふれたテーマのようだが、実際、このことについてしっかりと討論をする機会は日常ほとんどないように思う。だから、研修でじっくり時間をとってグループでやってみると、実に熱くなるし、さまざまな考え方が出るので面白い。各グループに結論を発表させるのだが、おおかた、グループで統一の見解は形成されず、「こんな意見も出ましたが、一方でこんな意見もあり、なかなかまとまらず……」のような発表になる。いや、それでいいのだ。このテーマについて、もしすんなり統一見解が出せるようなら、この人間社会はそれだけ薄っぺらなものだという証拠になってしまう。金に対する意識や欲の度合いが人により千差万別だからこそ、この人間社会は複雑で奥が深いとも言える。

 だからこの問いに唯一無二の正解はない。講師である私ができることは、古今東西、人は労働とお金(金銭的報酬)、あるいは金欲についてどう考えてきたかを、偉人や賢人たちの言葉を紹介しながら、個々の受講者が自分にもっとも腹落ちする答えを見つけてもらうことだ。各自が「きょうからもっと働こう」「もっと稼ごう」と思える解釈を引き出せたなら、このディスカッションは成功だ。

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