ワールドカップへの道のりは険しい。歓迎ムード一色の報道とカズが直面する現実には、まだ大きな隔たりがある。

　９月24日から行なわれたフットサル日本代表の候補合宿に、カズが初めて参加した。今日26日午前も練習は行なわれたが、彼はすでにチームを離れていた。所属する横浜ＦＣの練習に合流するためだ。

　カズにはふたつの問題がある。フットサルならではの戦術を身体に刻むことと、トップフォームを取り戻すことだ。

「システムとか守り方、基本的な守り方はサッカーと大きな違いはないですけれど、スペースが狭くて切り替えの部分が速いので、判断をひとつ間違うと一気にゴールへ直結してしまう。基本的な部分は同じですが、やっぱり慣れというものが必要だなと思います」

　緻密なパターンが攻守を下支えするフットサルは、アメフトやラグビーのような要素を含む。全員が呼吸を合わせて用意したパターンへ対戦相手を誘い込み、得点機を作り出し、失点を防がなければならない。カズ自身が話しているように、ひとりの判断ミスや遅れが致命傷となりかねないのだ。

　３年に及ぶ強化を積んできたチームに入ると、カズの戸惑いがどうしても目についてしまう。そもそも彼はフットサル選手ではないし、ミゲル・ロドリゴ監督のもとで練習をしたのはわずかに３回だ。動きのテンポが周囲と合わないのは、ある意味で当然ではある。

　それでも、タイでのワールドカップまで１か月強という限られたなかで、どこまでチームにフィットできるのか。時間がかかるのは分かっていても、不安は付きまとう。

　コンディションはどうか。
　24日、25日の練習はすべてこなしたものの、用意されたメニューは実戦に即した強度のものばかりではなかった。激しいコンタクトプレーが続く強豪とのゲームに、回復途上の首や肩の痛みが耐えられるのか。

　横浜ＦＣと並行してフットサル日本代表候補合宿に参加していくだけに、疲労の蓄積も気になる。身体の声にきわめて敏感な選手だけに、コンディション調整には細心の注意を払っていくだろうが……。

　ロドリゴ監督の招集に応えたチャレンジ精神は、大いなる敬意を持って迎えられるべきだ。ワールドカップの舞台に立つカズの姿を、ぜひとも見たいと思う。ただ、我々が見たいのは、確かな戦力としてワールドカップのコートに立つ姿である。少なくとも僕はそう思っている。
　
　他ならぬカズ自身も、シンボル的存在としての代表入りは望んでいないはすだ。代表選手の誇りと責任を、彼ほど胸に刻む選手を僕は知らない。安易に持ちあげるのはカズのプライドにそぐわない気がするし、だからこそ、さらなる奮起を期待したいのである。