【SOCCERZINE】『FREE』移籍がJリーグにもたらすものとは
欧州へ、日本代表クラスの選手が「FREE」で移籍するケースが目立っている。香川真司を筆頭に、最近では家長昭博、槙野智章、さらに岡崎慎司もそのケースに名前を連ねそうだ(暗礁に乗り上げるという話だが、実際は2月1日以降は契約なし選手になるのだから、清水が移籍金を勝ち取る可能性は低い)。
ここで『FREE』という言葉を使っているのは、もちろんクリス・アンダーソンの同名著作を意識してのことだ。要約すると、「コピー可能なコンテンツはすべてフリー(無料)になる」という話なので、コピー不可能なサッカー選手とは完全に同じではない。それでも、無料でポンポン引きぬかれていくことは、無償コピーによりシュリンクしているコンテンツ業界との共通性をなんとなく感じる。
誰が、という話ではないが、タダで選手を持って行かれていることについて肯定的な意見もあるようだ。それらの話を聞いていると「コンテンツ業界の話と似ているなあ」と思った。具体的には、以下の点だ。
■類似点1:コンテンツ(選手)がタダで持って行かれている
■類似点2:「コンテンツ(選手)をタダで配れば宣伝(≒日本代表の強化)になり、結果的に損をしない」的な観点
■類似点3:「コンテンツ(選手)をタダで持って行かれる(DRMを適切にかけていない)ほうがバカ」という主張
■類似点4:「コンテンツ(選手)にDRM(移籍金)をかけすぎるのもバカ」という主張
まあちょっと強引に持って行っている感は否めないが、いずれにせよここで言いたいのは、タダでコンテンツがコピーされまくる業界に未来はないということだ。どこかで適切なDRMをかける必要がある。
コンテンツの価格には下方硬直性があり、つまり「タダで読めるものを何で金払わないといけないの?」という心理が働く。これをサッカー選手に応用すれば、日本代表クラスの選手を獲得しようというのに「ビタ一文払うつもりはねえ」とモメているシュツットガルトの心理がわかりそうな気がする。
思い出すのは、2005年にマルセイユへ移籍した中田浩二(鹿島)のケースだ。このときもマルセイユ側は1ヶ月程度残っていた契約期間をもとに極めて低い移籍金を提示。実際の額は知る由もないが、報道では3,000万円程度とされた。中田浩二はこのシーズン、負傷でほとんどを棒に振っており、夏場に移籍交渉をした際には「シーズン終了後に話をしたい」という理由で契約延長をしなかった。このことが相まって、未だに僕の友人の鹿島サポは当時のことを怒っている。
中田浩のケースでは、端金とはいえ移籍金が発生しているからまだマシ(鹿島が実際に受け取ったかどうかは不明)とはいえる。しかし家長、槙野のケースでは、所属元のG大阪・広島に一銭も入っていない。シュツットガルトが移籍金を出すとしても、おそらくは中田浩と同様の端金に収まるだろう。そういう意味で、この1年で日本代表選手は「タダ(同然)で買えるローリスク物件」という評価が固まってしまった。
これを手放しで「良いこと」だと考える人は、正直相当おめでたいと思う。これが続けば、ただでさえ一般人への訴求力が落ちているJリーグの魅力低下は明白だ。こういうことを、「残った選手でやればいい」という美しい思考停止で論じてはならない。タダで売るべきでないものが、タダ(同然)で売られているという現状を直視すべきだ。
コンテンツをタダ(同然)でむしられているJリーグがやることは、適切なDRMの設定に他ならない。しかし、それは「違約金設定」では厳しい。まず金がないし、複数年契約を結ばない選手を干すといったことも感情的に(≒クラブ、選手、ファン、さらに選手の家族やユース、その家族、彼らを輩出した小学校、中学校、高校との関係的に)難しい。
しかし、どうすればいいのかはよくわからない。なんせ一番の解決策である「金を積む」ができないし、次善策である「応じない選手を干す」も難しい。次善策以下の手しか打てない状況で、ゲームとしては相当に不利だ。
「選手が自由に移籍できること」自体は素晴らしい。だが、その結果Jリーグは死ぬ。実際、コンテンツ業界はシュリンクしまくってるし、Jリーグも早晩経営破綻するクラブが出る。Jリーグを愛するファンは、そのことを認識すべきだろう。「FREE」の横行は、コンテンツ業界とJリーグの類似性を際立たせる。
【関連記事】
・【SOCCERZINE】書評:サッカーダイジェスト2011.01.25号
・【SOCCERZINE】書評:『小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」』
・【SOCCERZINE】書評:『エルゴラッソ イヤーブック2010』
・【SOCCERZINE】書評:遠藤保仁『信頼する力――ジャパン躍進の真実と課題』
・【SOCCERZINE】日本、2011年アジアカップの予想サイトで1番人気
ここで『FREE』という言葉を使っているのは、もちろんクリス・アンダーソンの同名著作を意識してのことだ。要約すると、「コピー可能なコンテンツはすべてフリー(無料)になる」という話なので、コピー不可能なサッカー選手とは完全に同じではない。それでも、無料でポンポン引きぬかれていくことは、無償コピーによりシュリンクしているコンテンツ業界との共通性をなんとなく感じる。
■類似点1:コンテンツ(選手)がタダで持って行かれている
■類似点2:「コンテンツ(選手)をタダで配れば宣伝(≒日本代表の強化)になり、結果的に損をしない」的な観点
■類似点3:「コンテンツ(選手)をタダで持って行かれる(DRMを適切にかけていない)ほうがバカ」という主張
■類似点4:「コンテンツ(選手)にDRM(移籍金)をかけすぎるのもバカ」という主張
まあちょっと強引に持って行っている感は否めないが、いずれにせよここで言いたいのは、タダでコンテンツがコピーされまくる業界に未来はないということだ。どこかで適切なDRMをかける必要がある。
コンテンツの価格には下方硬直性があり、つまり「タダで読めるものを何で金払わないといけないの?」という心理が働く。これをサッカー選手に応用すれば、日本代表クラスの選手を獲得しようというのに「ビタ一文払うつもりはねえ」とモメているシュツットガルトの心理がわかりそうな気がする。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0118&f=national_0118_056.shtml
> ドイツ・シュツットガルトと移籍交渉中の清水・岡崎慎司だが、移籍金の問題で交渉が暗礁に乗り上げているという。清水と岡崎の契約は今年1月31日で満了となる。ドイツの移籍市場も1月末まで。シュツットガルト側は移籍金ゼロでの移籍を主張するが、清水側は数日でも契約期間が残っている以上、移籍金が発生すると主張しているようだ。この件についてFIFAに問い合わせをしたところ、「移籍金は『必ずもらってください』」という回答がきた」と清水の早川会長はコメントしている。代表クラスの選手をタダで放出してしまうJリーグ、移籍金ゼロでの選手流出が問題になっている中で、今後の交渉の行方が注目される。なお、フランス『レキップ』は17日に行われたサウジアラビア戦のことについて述べ、「シュツットガルトの岡崎がハットトリックを達成」と紹介している。(情報提供:TotalFootball)
思い出すのは、2005年にマルセイユへ移籍した中田浩二(鹿島)のケースだ。このときもマルセイユ側は1ヶ月程度残っていた契約期間をもとに極めて低い移籍金を提示。実際の額は知る由もないが、報道では3,000万円程度とされた。中田浩二はこのシーズン、負傷でほとんどを棒に振っており、夏場に移籍交渉をした際には「シーズン終了後に話をしたい」という理由で契約延長をしなかった。このことが相まって、未だに僕の友人の鹿島サポは当時のことを怒っている。
中田浩のケースでは、端金とはいえ移籍金が発生しているからまだマシ(鹿島が実際に受け取ったかどうかは不明)とはいえる。しかし家長、槙野のケースでは、所属元のG大阪・広島に一銭も入っていない。シュツットガルトが移籍金を出すとしても、おそらくは中田浩と同様の端金に収まるだろう。そういう意味で、この1年で日本代表選手は「タダ(同然)で買えるローリスク物件」という評価が固まってしまった。
これを手放しで「良いこと」だと考える人は、正直相当おめでたいと思う。これが続けば、ただでさえ一般人への訴求力が落ちているJリーグの魅力低下は明白だ。こういうことを、「残った選手でやればいい」という美しい思考停止で論じてはならない。タダで売るべきでないものが、タダ(同然)で売られているという現状を直視すべきだ。
コンテンツをタダ(同然)でむしられているJリーグがやることは、適切なDRMの設定に他ならない。しかし、それは「違約金設定」では厳しい。まず金がないし、複数年契約を結ばない選手を干すといったことも感情的に(≒クラブ、選手、ファン、さらに選手の家族やユース、その家族、彼らを輩出した小学校、中学校、高校との関係的に)難しい。
しかし、どうすればいいのかはよくわからない。なんせ一番の解決策である「金を積む」ができないし、次善策である「応じない選手を干す」も難しい。次善策以下の手しか打てない状況で、ゲームとしては相当に不利だ。
「選手が自由に移籍できること」自体は素晴らしい。だが、その結果Jリーグは死ぬ。実際、コンテンツ業界はシュリンクしまくってるし、Jリーグも早晩経営破綻するクラブが出る。Jリーグを愛するファンは、そのことを認識すべきだろう。「FREE」の横行は、コンテンツ業界とJリーグの類似性を際立たせる。
【関連記事】
・【SOCCERZINE】書評:サッカーダイジェスト2011.01.25号
・【SOCCERZINE】書評:『小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」』
・【SOCCERZINE】書評:『エルゴラッソ イヤーブック2010』
・【SOCCERZINE】書評:遠藤保仁『信頼する力――ジャパン躍進の真実と課題』
・【SOCCERZINE】日本、2011年アジアカップの予想サイトで1番人気
関連情報(BiZ PAGE+)
世界のサッカー情報を「日本で紹介されない日本」を軸に紹介するblog