約150万円で「賢くて背の高い赤ちゃん」が買える!?アメリカの企業が始めた衝撃的な“遺伝子選別サービス”に期待と批判の声〉から続く

 奇跡を起こして、生き返らせて――。愛するペットを失った悲しみの中で、誰もが一度は考える願いだが、お金で叶えることができるとしたら……?

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 1932年にオルダス・ハクスリーによって書かれたディストピア小説『すばらしい新世界』のように、生や死が制御可能なものとして扱われる時代が、すでに訪れているのかもしれない。


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 ここでは国際ジャーナリストである堤未果氏の『堤未果の『すばらしい新世界』 スマホで赤ちゃんを注文する日』(集英社新書)より一部を抜粋して、アメリカの企業がはじめた「ペットの復活」という驚きのサービスを紹介する。(全4回の2回目/最初から読む)

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亡くなったペット、700万円で復活させます

「僕と最愛のルアに、二度目のチャンスが与えられたんです。僕は心から興奮しています」

 元アメリカンフットボール(NFL)選手のトム・ブレイディが、飼っているピットブルのミックス犬ジニーが、実は2年前に亡くなった愛犬ルアのクローンであることを公表したのは、2025年11月のことだった。

 日本円で700万円ほど払えばペットの犬や猫を復活させてくれるサービスを提供したのは、クローン作製大手ビアジェン社。多くのハリウッドセレブやトムのような有名スポーツ選手といった、裕福な顧客に支えられている。

 この話をCBSニュースが取り上げると、SNSにはさまざまなコメントが溢れた。

〈〈命は神がつくったもの。人間が複製するのは間違っている〉

〈たったの5万ドルか。愛犬を連れ戻すためなら、そのくらいは出してもいい〉

〈トムは頭が沸いてるのか? クローンをつくれることと、つくるべきかどうかは天と地ほど違うだろう〉

〈なんてこった! うちのジッピーは永遠に生きられるぞ!〉〉

 同社のウェブサイトには、こう書いてある。

〈〈あなたと大切な相棒との絆や愛を、一度のさよならで、終わらせる必要はありません。諦めるにはあまりにも強い絆が存在し、そこには再び生きる価値があるのです……〉〉

 この文章を見た時思い出したのは、17年ずっと私のそばにいた愛猫を心臓発作で亡くした日のことだ。ショックと悲しみで放心状態の私は、動かなくなった小さななきがらを抱きしめ、泣きながらこう繰り返していた。

「奇跡を起こして、私のレオを生き返らせて」

 もしあの時自分がビアジェン社の存在を知っていたら?

亡くなったペットのクローンをつくるには

 同社のサイトには、こんなQ&Aがある。

〈Q 私のペットが今亡くなったばかりなのですが、御社のクローン技術による複製を注文するには、どうすれば良いですか?

A ペットが亡くなったばかりの時、遺伝子の保存、またはクローニングプロセスを成功させるためには、タイミングと適切な手順が重要です。まずは、今すぐ(866)770−7503に電話してください。弊社のカウンセラーが、具体的な情報と手続きについてのサポートをいたします。〉

 亡くなったペットのクローンをつくるには、死んだ後絶対に凍らせないこと。

 速やかに冷蔵庫に入れて、できるだけ早く組織生検サンプルを採取しなければならない。添付してある「組織生検サンプルの採取方法」の手引きを印刷し、急いで獣医師に見せてクローン作製のための細胞を採取できれば、120日ほどで、亡くなったペットの生き写しのような犬や猫に再会できる。

悲しみを最新テクノロジーが塗りつぶしてゆく

 ニューヨーク北部でセラピストをしている米国人の友人は、子犬の頃から可愛がっているゴールデンリトリバーのマックスが、いつか自分より先にこの世を去ることを想像するだけで呼吸が苦しくなると、しょっちゅうため息をついていた。

 ゴールデンリトリバーの平均寿命は10年から12年だ。

 ふと思いついて久しぶりに連絡を取ったところ、マックスは10歳になっていた。

 だが電話口の彼女の声は、以前とはすっかり変わっていた。

「マックスはおじいちゃんだけど、もう手を打ったのよ。実は死んだ後にそっくりなクローンをつくってくれるすごいサービスがあってね……」

 その明るい声を聞いた時の、得体の知れない寒気が忘れられない。

 愛する存在を失う悲しみを、最新テクノロジーが「再生産」という解決策で塗りつぶしてゆく。

 ハクスリーの「新世界」の中で、死が悲劇ではなく、単なる「生理的プロセスの停止」として、効率的に処理される「日常の出来事」になっていたように。

 誰かが欠ければ、代わりの誰かが補充される。

 そこには「二度と会えない」という絶望も、取り返しのつかない喪失感もない。

 ビアジェン社が提供する「絆の継続サービス」を、愛犬のクローンを予約した友人は「愛の救済」と呼んでいた。

 だが本当にそうだろうか。

 世界でたった一つ、唯一無二だった存在の複製が、お金で手に入るようになった時、その数百万円で私たちが失うものとは何か。

「痛み」を通じてしか触れることのできない、命への畏怖と尊厳は、一体どこにゆくのだろう。

〈「若い肉体を再び手に入れる」億万長者が17歳息子の血を自分に輸血…年間200万ドルかけた“不老長寿”作戦の効果はあったのか?〉へ続く

(堤 未果/Webオリジナル(外部転載))