たかがニキビで「救急搬送」女子大生を襲った悲劇
ニキビを治そうと思った女子大生を襲った悲劇とは……(写真:Taka/PIXTA)
医者からもらったニキビの薬を服用後、全身のかゆみや吐き気に襲われた20代の女性。救急車を呼ぶことを決意し救急で治療を受けるまでの、緊迫の約4時間のできごとを振り返る――。
女性の名前を飯島早苗さん(仮名)としよう。
早苗さんは関東近郊に住む大学4年生。両親と暮らしている。今回は早苗さんが、薬によるアナフィラキシー症状で苦しんだ、貴重な経験を紹介したい。
早苗さんに起きた異変
早苗さんに異変が起きたのは、7月のことだった。
その日は時々ひどくなるニキビを診てもらおうと、午前中に近隣の皮膚科を受診。そこでミノサイクリンという抗菌薬(飲み薬)を処方してもらった。
本連載では、「『これくらいの症状ならば大丈夫』と思っていたら、実は大変だった」という病気の体験談を募集しています(プライバシーには配慮いたします)。具体的なお話をお持ちの方は、こちらのフォームにお送りください。
「肌あれとかよく起こすんです。だから、いつも診てもらっている皮膚科の先生のところに行きました」と早苗さん。
帰宅したのは昼ごろ。
食事をとったあと、薬を服用。部屋に戻ると眠気が襲ってきた。大学はその日は夏休みで、アルバイトもなかったため、「疲れたし、ちょっと昼寝をしよう」と、横になったという。そのとき手のあたりにわずかなかゆみを感じたが、あまり気にせず、そのまま寝てしまった。
目が覚めると予想外のできごとが…
それから小1時間――。
目が覚めると予想外のできごとが体に起こっていた。全身がかゆくてたまらないのだ。
「手や足先までかゆくて、体を見ると、全体が赤くなっていました。同時に少し息苦しさもあるような気がしました」(早苗さん)
体に起こった異変に驚いた早苗さんは、すぐに隣の部屋にいる母親に状況を伝えた。母親は「服用した薬の影響かもしれない」と、薬を購入した調剤薬局に相談するように助言。薬局に電話をすると薬剤師からも「薬の影響かもしれない」と言われ、「すぐに主治医と相談するように」とうながされた。
クリニックに電話をすると、診てもらった医師からはこう告げられた。
「薬をまずはストップして、様子を見てください」
「わかりました」と返事をして、電話を切った直後のことだった。早苗さんの体は、さらにとんでもない状況に陥った。
そのときの状況を早苗さんはこう話す。
「まず手足が動かせなくなり、立ち上がることもできなくなりました。ソファに横たわっていないと、耐えられない状態という感じでした」
しばらくすると、全身の異変に加えて、猛烈な吐き気と腹痛が襲ってきた。早苗さんは這いつくばってトイレに行き、お腹の中のものをすべて出したという。
吐くと少し気分はよくなったが、起き上がれない状態に変わりはない。
その頃、母親からの連絡を受けて急遽、父親が帰宅。娘の異変を目の当たりにしてことの深刻さを察知し、「すぐに救急車を呼ばないと!」と119番に電話した。
救急隊がやってきたのは17時30分頃。症状を告げると「アナフィラキシーの疑い」を指摘され、近くの総合病院に搬送された。対応した救急医も、「薬を服用後すぐに症状が出ているので、薬によるアナフィラキシーに間違いない」と診断をつけた。
幸い、お腹の中のものをすべて出しつくしたせいか、病院に着く頃には症状はかなり治まっていた。残っていた不快な症状も、病院でアナフィラキシーの治療を受けると、すぐに治まった。
早苗さんはこのとき、医師から「アナフィラキシーが重篤化すると気道がふさがれ、窒息してしまうこともある」と説明され、「救急車を呼んで正解だった」と言われたそうだ。
まさか自分がアナフィラキシーに
アナフィラキシーとは、アレルギーがある食べ物や薬を口にしたり、ハチに刺されたりしたあとに皮膚のかゆみや赤み、じんましんなどの皮膚症状、唇や舌のむくみ、呼吸困難や下痢、嘔吐などが表れるものをいう。
重症の場合には血圧が急低下したり意識を失ったりすることもあり、これを「アナフィラキシーショック」という。
「まさか自分がアナフィラキシーになるなんて、と驚きました」と早苗さん振り返ってこう話す。
原因となったのは、ニキビの治療でもらった抗菌薬だったが、半年ほど前に同じ抗菌薬を処方されて飲んだときは、何も症状が出なかったそうだ。
「ただ、関連があるかわらないんですけれど……」
今回の件で、母親と話しているときに思い出した“心当たり”が1つあったという。高校1年生のときに、扁桃炎で別の抗菌薬を飲んだときにじんましんが出て、3週間ほど入院したことがあったのだ(のちに扁桃腺は、EBウイルス感染症によるものと判明)。
そのときも服用後、すぐに全身にじんましんが表れた。皮膚科で診てもらったら「薬の副作用の可能性がある」と言われ、大学病院を紹介された。
「あれから7年あまり経っていたし、あのときのできごとはすっかり忘れてしまっていたんです」(早苗さん)
ただ今回、アナフィラキシーを発症したことで、「自分の体は自分で守るしかない」と実感したという。これからはどの診療科に行くときも、初診時に書く問診票のアレルギー欄には「○」を付け、抗菌薬で起こったことを詳しく書いて、自分の口からも医師に話すようにするつもりだ。
■総合診療かかりつけ医・菊池医師の見解
総合診療かかりつけ医で、きくち総合診療クリニック院長の菊池大和医師によれば、「薬によるアナフィラキシーを起こす人はときどきいます。早苗さんのケースと同様、抗菌薬によるものが多いです」とのこと。
抗菌薬にはいくつか種類があるが、その中でもとくに「セフェム系」「ペニシリン系」で起こりやすいことがわかっているという(参考までに、早苗さんが今回服用した『ミノサイクリン』は、テトラサイクリン系抗菌薬の仲間)。
アレルギー体質の人は要注意
アナフィラキシーは、特定の物質に対して免疫が過剰に働くことで起こる。そのスタートは原因物質(アレルゲン)が体内に入り、それに対する免疫が構築される「感作(かんさ)」だ。感作が成立したあと、次に原因物質が体内に入るとアレルギー反応が引き起こされる。
「このため、初回の服用でアレルギー反応が起こることはなく、出る場合は2回目ということが多いのです」(菊池医師)
また、過去に薬によるアレルギーを起こした人は、別の薬でも起こりやすいので注意が必要だ。花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を持っている人も、薬によるアレルギーが起こりやすい可能性があると菊池医師は感じている。
ちなみに、早苗さんが7年前に感染したEBウイルスに使われることが多いペニシリン系の抗菌薬も、前述したようにアレルギーが出やすいことが知られている。早苗さんが高校1年のときに経験したじんましんも、おそらく、このケースだと考えられるそうだ。
市販薬も含め、薬の種類は多岐にわたり、誰もが何かの薬でアナフィラキシーを起こすことはあり得る。しかし、予期することは難しいため、まずは症状が出たときの対処法を知っておくことが大切だ。
万が一、症状が起こったら?
菊池医師によれば、薬によるアレルギーは服用後、30分〜1時間以内に出ることがほとんどだが、なかには2〜3日後に出る人もいる。
軽度のじんましんや、唇の腫れ程度の場合は受診先の医療機関にすぐに電話をして、指示を仰ぐ。場合によっては受診を指示されることもある。
調剤薬局に相談をする人が多いが、症状が出ている場合、薬剤師では患者さんに指示ができないので、医療機関が相談先として適切だという。そして、早苗さんのように苦しさや気持ち悪さが出ている場合は、血圧低下で重症のサインなので、救急車を呼ぶのが正解だ。
「再発防止策としては、お薬手帳にどの薬にアレルギーが出るかを明記し、受診の際は伝えること。なお、お酒と一緒に薬を飲むと症状が出やすいので禁忌です」と菊池医師。
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また、診療科にかかわらず、さまざまな病気を診てくれる、かかりつけ医が身近にいるとなおよい。
「薬にアレルギーのある患者さんにはどの医師も、処方に慎重になります。初めての患者さんに対してはなおさらそうですから、かかりつけ医がいいのです」(菊池医師)
なお、菊池医師が最近、よく遭遇するのが、サプリメントなどの健康食品が原因と思われるアレルギー症状の患者だ。高齢患者に多いという。
「『友達にすすめられて飲み始めた』という人が多いのですが、とくに持病がある人はトラブルが起こりやすい。服用前にかかりつけ医に相談をするのがベストです」(菊池医師)
サプリはもちろん、薬にはメリット、デメリットがある。そのことを理解の上、服用することを肝に銘じたい。
(菊池 大和 : きくち総合診療クリニック)
(狩生 聖子 : 医療ライター)