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 2018年に「紀州のドン・ファン」こと野粼幸助さん(当時77)を殺害した罪に問われている、当時の妻・須藤早貴被告(28)。被告人質問の2日目、覚醒剤をめぐる供述の変遷を追及された被告は “当時から殺人者扱いで、怖くて本当のことを言えなかった”と説明した。野粼さんが亡くなった当日の、多数回の階層上昇=野粼さんがいる2階への移動について、検察官が粘り強く質問すると、被告が返答に窮する場面もあった。

葬儀での不誠実な態度を否定 “他の参列者が笑わせてきた”

11月11日の被告人質問2日目は、弁護人の質問で再開した。

野粼さんのお通夜や葬儀で、須藤被告が礼節を欠いた態度を取っていたと指摘されている点について、弁護人が問う。

弁護人「スマホをいじっていたとか、笑っていたとか、実際にそういうことはあった?」
被告 「Mさん(10月24日の公判に証人出廷。野粼さんが経営していた会社の元従業員)の、証言の時の態度とか見て分かると思うんですけど、ふざけてて、社長(野粼さん)が死んだことを悼んでないんですよね。私が見た時に、白目を剥いてきたりとか、肩を落として『疲れた〜』とか言って笑わせてきた」

葬儀中にスマートフォンを操作していたことも、須藤被告は否定。“葬儀社の職員の供述調書にも、被告は自由時間は触っていたが、葬儀本番の間は触っていなかったと記載がある”と反論した。

「切り裂きジャック」「猟奇殺人」「サイコパス」 異様な検索履歴

疑惑の目が向けられている、犯罪などに関する多数の検索履歴についても、弁護人はたずねた。

弁護人「平成30年(2018年)2月28日に『完全犯罪』と検索していますが、それについては?」
被告 「不気味な事件とか切り裂きジャックとか、未解決事件とか、猟奇殺人とか、サイコパスとか、そういうのが好きで調べてました」
弁護人「その後(同年3月下旬に)『老人』や『完全犯罪』と連続して検索していますが、それについては何か説明できますか?」
被告 「直前に見ていた動画と関係しています」
弁護人「といいますと?」
被告 「『老人 死亡』は、直前に老人ホームで3人を転落死させて、殺害を認めた男のインタビュー動画を見ていたので、直前に見た動画の内容を検索していました」

弁護人「最後に。あなたは、あなたが用意した覚醒剤を野粼さんに口から摂取させて殺したと言われているんですけど、そうした事実があるのかないのか、最後に言ってください」
被告 「一切ありません」

野粼さんの“覚醒剤購入依頼”に応じたワケ「ただお金くれるからいいやって」

11日午後、検察側の質問がスタートした。派手さはなくとも、被告の説明の信用性にひとつひとつ疑義を呈していく。

まず、2018年5月に愛犬が死んだ後、野粼さんが憔悴し「死にたい」と口にしていたという説明について。被告は8日の被告人質問で、インターネットで「死にたいっていう人」「死にたいと言われたら」と検索したと述べたが、検察官は、“検索のきっかけは野粼さんではなく、その頃被告がお金を渡し、後日返済を強く迫っていた女性とのやり取りだったのでは?”と問う。

検察官「『死にたい…』の検索は、(被告からの取り立てを受けて)女性が言ったから調べたのではないんですか? 時間的にも近接している」
被告 「その女性の心配はしません」

そして、“野粼さんが覚醒剤購入を頼み、催促までしてきた”と被告が主張している、4月上旬について。

検察官の質問に対し被告は、野粼さんに覚醒剤を渡したとする日(2018年4月8日)と野粼さんから「ニセモノで使い物にならない」と言われた日(翌4月9日)は、“野粼さんと性的な行為をしたことはない”と答えた。“性的な行為がなかったとすれば、野粼さんはなぜ覚醒剤が偽物だと分かったのだろう…?”という疑問を筆者は覚えた。

検察官「野粼さんから覚醒剤を頼まれたときの話ですが、あなたは“この人は覚醒剤を何のために使うんだろう”と思っていましたか?」
被告 「(3秒ほど沈黙)特に何も思ってなかったです」「ただお金くれるからいいやって」
検察官「あなたとしてはね。ただ野粼さんは何に使うと思いましたか?」

被告は5秒ほど沈黙し、覚醒剤を使用して行う性交渉を指す単語を口にした。

検察官「あなたと?」
被告 「いや私とは(性交渉は)しない約束だったので」
検察官「覚醒剤を買ってきて、“私に性的な行為をするのではないか”ということは考えなかったんですか?」
被告 「可能性はあると思います」
検察官「あなたと性行為をしたくて覚醒剤を頼んだとは思わなかったんですか?」
被告 「(野粼さんの)まわりに女はいっぱいいますから」
検察官「なぜ(野粼さんは)そこまで急いで覚醒剤を買ったのかなと思ったんですが?」
被告 「私と使うわけではないですし、頻繁に女性と会っているから」

「購入を頼まれた」は起訴前にはなかった説明…検察官「なぜ言わなかった?」

おそらく最後に取っておいたのだろう。検察官は切り札として、そもそも “野粼さんから覚醒剤購入を頼まれた” という説明を、起訴前の取り調べで須藤被告が一切していなかった点を突いた。

検察官「野粼さんから頼まれたと言わなかったのはなぜ?」
被告 「言ったらどうなるか分からないから」
検察官「というのは?」
被告 「現にいまこうして、(覚醒剤の本物ではなく結果的に)氷砂糖を買っても逮捕・起訴されているわけですから。当時から殺人者扱いでしたし、怖くて言えませんでした」
「検事の中にストーリーがあるから、何を言ってもダメだなって」

野粼さん死亡当日の「8回の階層上昇」被告が答えに窮する場面も…

野粼さんが亡くなった2018年5月24日の午後4時50分〜午後8時00分、つまり「被告が覚醒剤を摂取させたと検察側がみている時間帯」の行動をめぐり、アプリの分析で「8回の階層上昇」が確認された点も追及された。弁護人の質問の際にも、被告の説明が、やや曖昧さを帯びた部分である。

検察官は、前月の4月までさかのぼって、1日ずつ「午後4時50分〜午後8時00分の階層上昇回数」を読み上げた。「0」〜「3」が並ぶ中、「5」と「6」が1日ずつだけあった。

検察官「基本的に1とか0とか、2、3なんです。8というのは、だいぶ不自然だと思いますが?」
被告  「4月21日とかも同じことがあったと思います」
検察官「6は、8に近いと?」
被告 「はい」

検察官としては “罠にかかってくれた”と思ったかもしれない。確かに、4月21日の当該時間帯には6回、4月20日の当該時間帯は5回の階層上昇が確認されているが、それぞれの時間帯に、被告は田辺市内の自動車教習所にも行っていた。そうした野粼さん宅の外にいた時間の階層上昇を差し引くと、階層上昇は「3」「2」に減るのである。

検察官「あなたの指摘した5回や6回は、すべてが自宅(野粼さん宅)ではないということで、事件前の1ヵ月で(午後4時50分〜午後8時00分の階層上昇は)最大3回であるのに対し、事件当日は8回ということになります。あらためて、不自然ではないですか?」
被告 「多いなって思います」
検察官「なぜ多いと思いますか?」
被告 「うーん...(5秒ほど沈黙)わかんないです」
検察官「明らかに8回ものぼるのは日常ではないと思うんです。なので(野粼さん死亡当日の)午後4時50分から午後8時の間に8回のぼった理由を、頑張って思い出してもらえませんか?」

“日常的に午後7時台や午後8時台は、頻繁に上り下りしていたという感覚”と答えるなど、被告の説明が苦しくなった。

検察官「(普段の回数に)1とか2を足したとしても、8にはならないと思うんです。不自然な理由を、何か説明できますか?」
被告 「犯行時刻ですよね、午後4時50分…。それって、特殊なカプセルを使った場合ですよね…」
検察官「(5月24日は)午後6時から午後8時に(区切ったとして)も7回あるので、結局同じことです。不自然ではないですか?」
被告 「多いなって思いました」
検察官「何か説明できませんか、不自然さ(の理由)を」
被告 「たとえば当日、説明したように、2階にバスローブを取りに、取りに行こうとして、持っていこうとして、1回戻って取りに行くって、そういう場合で(階層上昇が)カウントされちゃうことがあるので、当日はバッグを2階に置いていた状況だったので。普段は1階に置いているんですけど、たまに2階に置いているので…」
検察官「だとしても他に多い日はないですが、何か理由はありますか。なかったらないでいいですが?」
被告 「ないです」

最後は、須藤被告は説得力のある説明をあきらめたかのようだった。

被告人質問は3日目に続いていく。

(MBS報道センター 松本陸・宮腰友理)