『トップガン』© 2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

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 11月8日の日本テレビ系『金曜ロードショー』で、みんな大好き『トップガン』が放送される。

参考:『トップガン マーヴェリック』11月に地上波初放送 『金ロー』で『トップガン』と2週連続

 オレンジ色に染まった朝焼けのなか、ハンドサインを送るデッキクルー。ギラギラ照りつける太陽の下で、ビーチバレーに興じるマッチョガイたち。カワサキのバイクでF14トムキャットと並走する、トム・クルーズの勇姿。この映画はすべてのシーンがキメキメで、とにかくカッコいいショットのオンパレードだ。

 『トップガン』が世紀の傑作かと言われたら、正直言って言葉に窮してしまう。だが、大きな社会現象を巻き起こした作品であることは間違いない。全世界の興行収入は、3億5000万ドル以上。トム・クルーズが着ていたフライト・ジャケットMA-1はバカ売れし、ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」やベルリンの「愛は吐息のように」を収録したサントラは、全米だけでも700万枚を越えるベストセラー。映画の大ヒットで、海軍への志望者が急増したとも言われている。

 そして何よりも、当時24歳だったトム・クルーズの溌剌とした魅力! オファーを受け取ったのは、リドリー・スコット監督によるファンタジー映画『レジェンド/光と闇の伝説』の撮影中。その時点ではあまり前向きではなかったが、リドリー・スコットのとりなしもあって出演を決意する。『トップガン』の監督を務めたトニー・スコットはリドリーの実の弟であり、1980年に設立された製作会社スコット・フリー・プロダクションズ(当時の名称はパーシー・メイン・プロダクションズ)の共同創始者。弟の出世作を、兄がアシストしたのだ。

 トム・クルーズにとっても、本作はスターダムへとステップアップする重要な作品となった。向こうみずで自信満々なパイロット“マーヴェリック”は、まさにハマり役。ケリー・マクギリス演じる女性教官シャーロットとの情熱的な恋、アンソニー・エドワーズ演じる親友グースとのアツい友情、ヴァル・キルマー演じるライバルのアイスマンとの切磋琢磨。眩しいくらいに瑞々しい感性で、トム・クルーズはこの役を演じきる。

 1986年の公開当時、みんな『トップガン』に夢中だった。さまざまなポップカルチャーを生み出したというよりも、この映画そのものが巨大なポップカルチャーだったのだ。イケイケでノリノリだったあの時代のアメリカが、このフィルムにはしっかりと焼きついている。

 にわかに信じ難いことだが、当初『トップガン』の監督を務める予定だったのはデヴィッド・クローネンバーグだった。『ビデオドローム』や『ザ・フライ』で知られるカナダの鬼才。まるで臨床検査技師のような手つきで、倒錯的なオブセッションを描いてきたこの暗黒系フィルムメーカーに、この題材はミスマッチすぎる。本人も「確かに私は機械が好きだし、車も飛行機も好きだ。だけど、私が監督したいと思うような作品ではなかった」と述懐しているくらいだから、その自覚はあったのだろう。クローネンバーグは謹んでこのオファーを辞退する。

 さらに信じ難いことだが、あのジョン・カーペンターも監督候補に名前も挙がっていた。『ニューヨーク1997』や『遊星からの物体X』で知られるマスター・オブ・ホラー。低予算のカルト的傑作を次々に放ってきた彼に、『トップガン』はあまりに不釣り合いだ。彼もまた、謹んでこのオファーを辞退する。さっきから誰も彼も断りっ放しだが、パラマウントの重役デビッド・カークパトリック曰く、「『トップガン』についてトニーと会ったのは、すでに35人の監督がこのプロジェクトを断った後だった」という。フラれ続けた末に行き着いたのが、トニー・スコットだったのだ。

 兄リドリーはすでに『エイリアン』や『ブレードランナー』で名声を博していたが、トニーは1983年に『ハンガー』を発表したばかり。その評価も決して芳しいものではなかった。ある意味で『トップガン』との出会いが、80年代、90年代、そしてゼロ年代と、猛烈な勢いでハリウッドを疾走し続けるターニングポイントになったといえる。

 せわしなく動き続けるカメラ、細かなカット割り、大仰な演出。そのPV的映像感覚は、80年代アクション映画の雛形ともなった。何よりもトニー・スコットはビジュアルの強度で、観る者を圧倒する。そしてその表現手法は、『トップガン』にもう一つの作用を生み出している。

 映画が公開された1986年は、ロナルド・レーガン大統領の2期目。ソ連との冷戦が激化し、愛国心がもてはやされた時代だった。そのような時代背景もあってか、この映画はあまりにも国粋主義的すぎるとの批判も受けた。本編に登場する敵が何者かは周到に隠されてはいるのだが(そのスタンスは続編の『トップガン マーヴェリック』でも受け継がれている)、改めて見直すと非常に好戦的な内容なのである。

 だがトニー・スコットの過剰な映像表現によって、その政治性は漂白されている。いい意味でも悪い意味でも、明快な娯楽性がすべてを上書きしてしまう。だからこそ『トップガン』は、巨大なポップカルチャーとなりえたのだ。あらゆる意味で、この映画は80年代的。公開から38年が経ったいま、『トップガン』を見返すことには非常に意義があるはずだ。

参考https://screenrant.com/top-gun-director-david-cronenberg-almost/https://screenrant.com/top-gun-original-ending-john-carpenter/https://ew.com/article/2016/05/10/top-gun-30th-anniversary-tom-cruise-maverick/https://aframe.oscars.org/news/post/remembering-top-gun-director-tony-scotts-daring-careerhttps://www.washingtonpost.com/history/2022/05/27/top-gun-maverick-us-military/(文=竹島ルイ)