アメリカの銃乱射事件から生き延びるサバイバルゲーム『The Final Exam』を紹介。単なる怖いゲームではなく、現実と隣接しているのがポイントだ(画像:ゲームより撮影)

日本に住んでいてもアメリカの銃乱射事件のニュースはしばしば耳にする。銃が身近にないわれわれにとってはそれこそ遠い国の話のように感じられるかもしれないが、それを体験できるゲームが登場したのだ。

2024年9月にリリースされたPC向け無料ゲーム『The Final Exam』は、マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件の被害者、ホアキン・オリバー氏の両親がゲーム開発会社と協力して制作したゲームである。

ただ学校に通っていただけなのに、いきなり銃乱射事件に巻き込まれ、場合によっては命を奪われる可能性すらある。アメリカのシリアスな現状を描いたゲームといえよう。

「10分間」で銃乱射事件から生き延びる


ゲームの舞台はとある高校。銃撃犯が学内を歩き回っており、見つかったらすぐに撃たれるような状況になっている(画像:ゲームより撮影)

プレイヤーは、突如発生した銃乱射事件から生き延びるために、“10分間の地獄”から逃げなければならない。

なぜ10分間なのかというと、これは銃乱射事件における平均的な時間とのこと。その10分間の行動によって生き残れるか否かが変わるわけで、そこまで厳しい現実が学生たちにいきなり訪れるわけだ。


息を潜めて銃撃犯をやり過ごすシーン。こういったシーンでは画面に表示されたボタンをタイミングよく押す、いわゆるQTEシステムが採用されている(画像:ゲームより撮影)

ゲームは主観視点で進行し、銃撃犯から逃れるために学校のさまざまな場所を進むことになる。あるときは体育館でベンチの裏に隠れて犯人をやり過ごし、あるいは机でバリケードを作り、もしくは銃弾が飛び交うなかで姿勢を低くしながら先へ進む必要もある。

銃撃音や叫び声は聞こえるが、銃や血、そして死体といった直接的な表現は存在しない。操作でミスをすると死亡扱いになるものの、そのときも「あなたはもう学校へ行けない。パークランドの虐殺で亡くなった17人の子供と同じように」とメッセージが出る程度になっている。


銃規制に関する法のひとつ。ゲームが進行するたびにこのような法に関する情報が表示される(画像:ゲームより撮影)

また、ゲームを進めるなかで、アメリカにおける銃規制の法律の重要性が説かれる。たとえば「BAN OF ASSAULT WEAPONS」は軍用に設計された武器の販売を禁止するもので、これを採用すれば銃乱射事件で使われる武器の販売を禁止でき、11件の事件を阻止できたとされている。

しかし、アメリカにおいてこの法律を採用しているのは9州のみにとどまっているという。

政治的主張がゲームで行われる時代


ゲーム内には、銃乱射事件が発生した学校の地図もある(画像:ゲームより撮影)

ドナルド・トランプは、アメリカで相次ぐ銃乱射事件の一因がゲームにあると主張していた。つまり、銃を規制するのではなく、ゲームを規制すれば凶悪な事件が減ると言っていると解釈せざるを得ない。

その現状を鑑みて制作されたのが『The Final Exam』である。ゲームによって銃乱射事件の恐ろしさを人々に伝えることができるのならば、それこそ規制すべきは銃そのものではないか。そういった被害者遺族の政治的主張が多分に含まれているのである。


「毎年、1万5000人以上の学生が銃乱射事件から生き延びるために戦っている」というシンプルながら力強いメッセージ(画像:ゲームより撮影)

『The Final Exam』はそれこそ10分以内に終わる短いゲームで、フィクションらしさも強い。特に銃を持った犯人に追われながら外へ逃げ出すシーンはそれこそ映画のようだが、現実ではそこまでうまく逃げられるとは考えづらい。

もし助かる道があるとするのであれば、そもそも銃乱射事件を発生させないことにある。ゲームによって事件の悲惨さを伝え、本当に生き延びる手段を提示することによって現実を変えよう、といった意図の作品なのだ。

戦時下の過酷な状況を生き残る『This War of Mine』

昨今のゲームは多用な表現が採用されている。もちろん銃を撃って敵を倒すゲームもたくさんあるのだが、一方で、民間人が戦時下の過酷な状況を生き残る『This War of Mine』といった作品も存在する。


一般人から見た戦争を描いたゲーム『This War of Mine』。NHKなどでも取り上げられている作品だ(画像:Steamより)

『This War of Mine』はポーランド教育省の学生向け推薦図書リストに入っており、ゲームを遊ぶことで現実の一部を学ぶことができると証明されている。銃乱射事件も、ただその悲惨さを伝えるよりも、「生き残りをかけてあがくゲームだ」としたほうが多くの人に訴えかけられるだろう。

「ゲームは娯楽である」というのは間違っていないが、しかし着実に進歩を続けており、小説・映画・漫画のようにフィクションを通じて現実の一部を描くようになってきている。ニュースでは対岸の火事を遠巻きに眺めるだけだが、ゲームではその過酷さをいくらか体験できるのだ。

『The Final Exam』は公式サイトで無料配布中。寄付も受け付けている。

(渡邉 卓也 : ゲームライター)