成長を続ける オープンハウス のマーケットイン戦略。鍵は営業チームとの連携による一気通貫した顧客体験の提供
創業26年で不動産業界4位まで躍進し、2023年には売上一兆円を超えたオープンハウス。その成長の基盤には「お客様に合わせたマーケットイン」の考え方がある。「全ファネルを俯瞰で見ると、成長の余地が見えてくる」と話すのは、オープンハウスグループのデジタルマーケティング部門を統括する川島佑太氏だ。企業の成長につながった施策や事業を切り口に、そこに秘めたマーケターの想いや思考を追っていくDIGIDAY JAPANのインタビューシリーズ「look inside!―マーケターの思考をのぞく―」。今回は、2桁成長を続ける同社の秘策について、マーケティング視点から川島氏に話を聞いた。
DD:具体的に数字を牽引した施策があるのでしょうか?川島:大きな要因といえる施策がひとつあるわけではなく、施策の掛け合わせですね。デジタルマーケティングの役割としては広告で認知を上げ、サイトに誘引して会員登録、資料請求、お問い合わせまでの反響を最大化し、営業につなげるのがミッションです。反響を取るにはある程度の投資も必要ですが、ここで重要なのは費用対効果。会員登録数が伸びても、成約がゼロでは意味がありません。ではどうするかというと、ひとつはマーケティング業務をインハウス化し、コスト効率を上げること。もうひとつは熱量の高いお客様を獲得することです。DD:専門性が要求されるなど、インハウス化の実現は簡単ではないようにみえます。また、インハウスのメリットをどのように感じていますか?川島:これまでお付き合いの深かった代理店様もインハウス化に向けて協力的に支援して下さったという背景があり、スムーズに進めることができました。インハウス化を進めることで、社内メンバーの責任感の醸成できたことは大きなメリットです。これまでは代理店さんが課題を咀嚼して提案をしてくれたわけですが、これからは自分たちでそれをしなければなりません。現場が「もっと細かく知らなければならない」という意識が高まったこと、そして何より現場が目標に向かって頑張れたということが、もっとも大きな成果だと思います。DD:運用していく上での障壁やリテラシーなどの認識も上がっていったということですね。川島:そのとおりです。もうひとつ、費用対効果を上げるための「熱量の高いお客様を獲得すること」ですが、どの媒体にどのメニューで出稿するか、ポートフォリオをすべて見直しました。過去のWeb広告は数字至上主義でしたが、今はCPAが多少高くなっても角度が高いメニューだけを出しています。入り口(会員登録)の部分は、まずその見直しを行い、次にコンバージョンポイントにつながる戦略を考えていきました。とくに会員登録後、お問い合わせまでつなげるためにABテストなどの施策を練り上げ、会員登録から資料請求までの転換率を上げましたね。お問い合わせのあったお客様については、どこの店舗にご案内するかも重要です。希望に沿った提案ができる店舗にご案内することで、成約率が大きく変わるからです。こうしたお客様とのコミュニケーションを「科学」して、すべてのチャネルにおいて少しずつチューニングしていったことが、2桁成長におけるマーケティングの貢献だと感じています。
コミュニケーションを科学する
DIGIDAY編集部(以下、DD):オープンハウスといえば、不動産業界内における突出した売上成長率が注目されていますね。また、営業力の高さも話題になっています。川島佑太(以下、川島):不動産業界の成長率は2.9%と言われるなか、当社は2013年の上場以降、平均成長率が29%で推移しています。2桁成長の数字を支えている要因はさまざまありますが、お客様のニーズを吸い上げる、マーケットインの考え方がまずベースにあります。「都心に戸建ての家を持つ」ことを諦めていたお客様に、個々のニーズに合わせたご提案をすることで、ご購入に至る成約率が上がっているのです。それは営業の力だけで実現することではなく、マーケティングの戦略も大きいと考えます。川島 佑太(かわしま ゆうた)/オープンハウスグループ マーケティング本部デジタル戦略部 部長。新卒でオープンハウスに入社し、営業職として戸建仲介販売を経験後、マーケティング部へ異動。契約管理システムのPM、自社独自のCRMツールの改善に加え、リードナーチャリング、マーケティングオートメーションなどの業務も担当した。WEB広告運用マネージャー、事業推進グループ長を経て、現在はデジタル戦略部にてデジタルマーケティングを統括する。プライベートでは子どもの幼稚園の運動会で「走れるかっこいいパパでいたい」と、ジム通いを続けている。