(※写真はイメージです/PIXTA)

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父親の財産の大部分を相続した光子さんは、資産を毎月家賃収入が入ってくるマンションに変えました。自分が亡くなった後は、それを代襲相続人である姪たちに残すといって相続手続きを終えましたが、ふたを開けてみると、姪たちも予想もしなかった事態に陥っていました。本記事では、十分な財産を相続して老後も安泰だったはずのおひとりさま女性が陥ってしまった経緯について、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。

父親の相続で財産を取得

光子さん(74歳・女性)は2人姉妹の長女。独身で50代半ばまで会社勤めをしてきましたが、1人暮らしの父親の介護のため、仕事を辞めざるを得ない状況になりました。

妹は結婚して専業主婦でしたが、まだこどもがふたりとも小学生で、父親の介護などできる状況にはありませんでした。また、妹は40代で体調を崩して他界してしまい、ふたりの子どもが残され、父親の代襲相続人となりました。

父親の財産と遺言書

妹が亡くなった後、妹の夫は一人で子どもたちを育てていたため、とても父親の介護まで頼める状況ではありませんでした。結果、長女で独身だった光子さんが父親の面倒を看ることになりました。

父親が80代後半になると日常的なことができなくなりましたので光子さんは致し方なく仕事を辞めて、父親の介護のために実家に通うようになりました。そのころから、光子さんは相続のことが気になり、仕事も辞めて父親の介護を担当するからには、父親の財産は自分が引き受けると言い、父親に遺言書を作成してもらうようにしました。父親がまだ健在の頃、光子さんは夢相続に相談に来られましたので、夢相続で父親の公正証書遺言の作成をサポートしました。

そのころも父親は自宅で生活をしていて、公証役場に出かけるのは大変ということで、公証人と夢相続が担当した証人2人が父親の家に出向いて、公正証書遺言はできあがりました。父親の自宅不動産は光子さんが相続、金融資産を光子さんと妹の子、2人が法定割合で相続するという内容です。

父親の相続では公正証書遺言で手続きをした

公正証書遺言を作成した5年後に父親が亡くなりました。相続手続きは、遺言執行者で長女の光子さんが行いました。亡妹の子が代襲相続人ですが、ふたりともまだ20代前半で、相続の経験もありません。

父親の財産は自宅が180坪と広く、評価は6,000万円、預金と株で3,000万円ありました。遺言書は光子さんが8,000万円相続し、代襲相続人は1人500万円の現金を相続するという内容でしたが、独身の光子さんには配偶者、子どもがいないため、光子さんが亡くなった後に残る財産はふたりの姪に渡すということで、相続手続きは終わりました。

家賃収入で生活できるように提案、サポートした

父親が亡くなって実家が空家になりましたが、光子さんは父親の家に住むつもりはないとのいうこと。それでは財産の価値がないため、夢相続で売却して、自分の住む家を持つ、または家賃が入る賃貸物件を持つほうがよいと提案しました。

評価が6,000万円の家でしたが、最寄駅から徒歩5分程度で近く、東と西に道路がある二方道路に面した区角割しやすい土地でしたので、建売住宅用地として8,000万円で不動産会社に売却が完了しました。

その後、賃貸物件となる区分マンション2,000万円と4,000万円を2室購入し、毎月の家賃は2部屋で25万円入る資産に変わりました。

相続税は基礎控除がまだ多い時で200万円程度、売却のときの譲渡税が1,000万円ほどかかりましたが、まだ金融資産は2,000万円ほどありました。家賃が入るうえに、仕事にも復帰していましたので、困ることはなく、マンションを二人の姪に残すということで合意していました。

その後の10年で状況が激変。マンションは売ってしまっていた

最近になり、代襲相続人の姪より、「光子さんが借りているマンションのオーナーの代理人となる弁護士より、光子さんが家賃を滞納しているので連帯保証人である姪の父親に請求がきたが何か事情を知っていますか?」という問い合わせが来ました。

夢相続では区分マンション購入の仲介はしたものの、その後の管理は別会社が担当していました。その管理会社に確認してみると2室とも、すでに売却をしてしまっているといいます。

さらに事情を確認すると、光子さんは以前よりある宗教の熱心な信者であり、自分の財産ができてからは頻繁に寄付をしたようで、手元のお金が無くなった時点で購入した区分マンションを売却していたようです。当然、管理会社は考え直したほうがいいとアドバイスをしたといいますが、本人の意思が固く、止められなかったようです。

残すと言った財産を勝手に売ってしまった

父親の相続後、10年以上が経ち、2人の姪は自分たちの生活や子育てで手いっぱいの時期ですから、伯母にあたる光子さんとの交流を持てずにいました。光子さんからも二人にはとくに連絡などもなかったといいます。父親が光子さんの賃貸の連帯保証人になっていることも聞いていなかったため、9か月も家賃を滞納しているということで父親に家賃を支払うようにという請求書が届いたため、驚いて問い合わせをしてこられたという事情でした。

姪にすれば、祖父の相続時には光子さんの介護の貢献度を評価して、また、光子さんが財産は二人に遺すからという話もしていたことから、遺留分請求もせずに光子さんに譲ったのでした。けれども残るはずの不動産がなくなり、それどころか家賃滞納の借金まで請求されるという現実には愕然とするばかり。

感覚的には、「不動産は共有となっていて光子さん1人が自由にできないはず」と思っていたといい、「なぜ、勝手に売却できたのだろうか?」と思ったといいます。

遺言書では不動産は単独に指定されていた

遺言書では亡くなった父親の不動産は、光子さんが単独で相続するという内容になっていました。よって、遺言書によって、父親から光子さんの名義に相続登記することができたのです。

その後、光子さん名義の不動産は、光子さんが単独で売却し、売れたお金で次の区分マンションを購入したときも光子さんの単独名義ですから、その売却も光子さん単独で決断、手続きができたということになります。

おひとりさまは狙われやすい?

光子さんのように、配偶者、子どもがいないおひとりさまの場合、光子さん一人の決断や判断で物事が進んでいきます。今回の光子さんのように、もうマンションも売り払い、お金も使い果たして、家賃も払えないという状況になってからでは取り返しがつかないと言えるでしょう。父親の相続の段階で、おひとりさまの光子さんと姪たちの間で、財産について、方向性や将来像をすり合わせておく必要があったと言えます。

この光子さんの例から、身内と疎遠になっているうちに、宗教などの他人が入り込み、過度の寄付などから、残るはずだった財産を失う可能性があることを、これからのおひとりさまも教訓にしていく必要があるでしょう。
 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。