近年は、物件のオーナーや管理会社などの利益を守ることを重視しており、入居者のことはあまり考えられてないのが実情だ。昔、テレビで見た「売れない若手時代に、大家さんに謝って、家賃を何カ月も滞納させてもらっていた」という人情話は、今の都心では、もうない。

また、基本的には審査を通るまでチャレンジするが、審査に通りにくい人や落ち続けている人に対しては、通りやすい保証会社を利用している物件を紹介するなどの工夫もしているという。

◆新たな問題「違法メンズエステ営業」の取り締まり

どうしようもない人や変わった人が多い業界をメインにしている不動産屋なので、ニュースで報道されるような事件や事故はつきものだ。最近のホットな事件といえば、風営法違反の摘発が多い違法メンズエステ営業(以下、メンズエステ)だ。

「ある日、30代くらいの男性が引っ越しをするのにアリバイ屋を使いたいとやって来ました。無職で引っ越しされることも不思議ですし、自らアリバイ屋を利用したいという方はとても珍しいので、何となく怪しみながら契約を進めました」

無事に郊外の1Kタイプの部屋を契約できたが、数カ月後に突然管理会社から連絡が入った。

「『お宅が紹介してくれたお客様が、メンズエステをやってた』と。やはり、そういうことをしていた人だったかと思いました」

メンズエステ営業に気づいたきっかけは防犯カメラだった。不特定多数の出入りを確認したオーナーが立ち入った際に、ほぼ裸に近い姿の女性がいて、問い詰めたところメンズエステ営業をしていたと判明した。

「退去日に立会ったんですが、管理会社とオーナーさんが大変ご立腹で……。お客様の方も荷物を出す時にわざと壁にぶつけるといった嫌がらせをされて、それでまたオーナーさんがお怒りになったりして、見ているこっちはヒヤヒヤものでした。後日談として、退去日にオーナーさんがスタッフから売り上げを取り上げたために、お客様がわざと子どもじみたことをしたと聞きました。本当かどうかはわかりませんけどね(苦笑)」

◆メンズエステ店に場所を貸した不動産屋も逮捕された

メンズエステについては、「最近増えている」程度の認識しか持っていない人も多いだろう。しかし実際には、不動産屋生命を脅かす危険性の高い犯罪なのだとA氏はいう。

「今年の夏に、メンズエステ店の経営者が逮捕される事件がありましたが、その後に、メンズエステの営業目的と知りながら、住居目的と偽って賃貸契約をしたということで不動産屋の社長が逮捕されました。実はこの流れって、特殊詐欺事件と同じなんですよ」

特殊詐欺事件がニュースになった当初は、内情が不鮮明だったために違反者を取り締まるだけだった。やがて内情が明るみになり、社会問題に発展すると、「アジトとなる場所を貸し出した不動産屋も悪いのではないか」、「もしかしたら、不動産屋も犯罪組織とグルなのではないか」という憶測が飛び交いはじめた。

「社会問題を背景とする間口の縮小化は仕方ないです。この事件以降、メンズエステ営業が目的の場合は物件の紹介を断るようしました。ただ、お客様から虚偽の申告をされても見抜くことはなかなか難しいですし、追求もしにくいので、これといった対策ができないまま間口を狭めないといけないのは、経営者としてとてもツライですね」

◆捜査一課からの電話に冷や汗

メンズエステ以外にも、行方不明者の情報提供依頼などで月に1度は警察から連絡が来るという。

「組織犯罪対策課と捜査二課からの連絡が多いのですが、一度、捜査一課から呼び出されたことがあります。捜査一課といえば、殺人などの強行犯捜査や誘拐などの特殊犯捜査を担当している課です。めちゃくちゃ焦りましたね」