「かまいたち」に”松本人志不在の穴”は埋められるのか…『お笑いの日』に向けられる「厳しい視線」と「期待」
業界内の注目度は最高レベル
12日（土）14時から8時間生放送の『お笑いの日2024』（TBS系）が放送される。同特番は2020年のスタートから秋の風物詩となっていたが、今回も100人を超える芸人が赤坂のTBSに集結。お笑いにフィーチャーした番組としては、長さも熱気も国内トップと言っていいだろう。
今回最大のトピックスは、これまで総合司会を務めてきたダウンタウン・松本人志の不在。これによって出演者や特番そのものにどんな影響が考えられるのか。特にメインコンテンツである『キングオブコント2024』の審査はどう変わるのか。
この1週間あまり、業界内で「ついに審査員・松本人志が不在の賞レースがはじまる」という不安と期待が入り混じったような声を何度か聞いた。業界内の注目度は近年でも最高レベルであり、年末の『M-1グランプリ2024』（ABC・テレビ朝日系）にも影響を及ぼすことは間違いないだけに、どこにも忖度せずシビアな現実をあげていきたい。
「リーダー」かまいたちの起用意図
今回の放送も例年通りの4部構成。3番目の『ザ・ベストワン』（17時15分ごろ〜）と最後の『キングオブコント2024』（18時30分ごろ〜）は例年通りだが、最初の『ラヴィット！出会い頭−1グランプリ』と2番目の『最強スポーツ男子頂上決戦』（15時45分ごろ〜）は初めて放送される。
まず注目すべきは、松本の不在によってダウンタウンが務めてきた“総合司会”が消え、代わりに“リーダー”というポジションで、かまいたちが起用されること。最後の『キングオブコント2024』のみ浜田雅功がMCを務める。
番組のメインイラストも、Tシャツ、ブルゾン、キーホルダーの番組グッズもすべて、かまいたちに一新。かまいたちは事実上のリーダーを務めた『ジョンソン』（TBS系）が1年で終了したばかりだが、TBSにおける2人の評価は不変ということだろう。
ちなみに、かまいたちは『キングオブコント2017』の王者に輝いたが、大会後は「松本人志が称えた準優勝のにゃんこスターがブレイクする」という憂き目に遭っていた。2年後の『M-1グランプリ2019』で準優勝したことでブレイクしたという点も含め、TBSとの相性の悪さを感じてしまう。
逆にTBSにしてみれば、フジテレビが『千鳥の鬼レンチャン』『千鳥のクセスゴ！』『すぽると！』『酒のツマミになる話』で千鳥を押さえているだけに、彼らに匹敵する実力と知名度のかまいたちを押さえておきたいのではないか。
あらためて『お笑いの日』のメインコンテンツである『キングオブコント』の歴代優勝者を順にあげいくと、バッファロー吾郎、東京03、キングオブコメディ、ロバート、バイきんぐ、かもめんたる、シソンヌ、コロコロチキチキペッパーズ、ライス、かまいたち、ハナコ、ジャルジャル、空気階段、ビスケットブラザーズ、サルゴリラ……。こうして見ていくとダウンタウンの代役は、かまいたち以外に選択肢がなかったように見える。
しかし、「かまいたちが松本人志不在の穴を埋め、視聴率やネット上の反響などを取れるか」と言えば、業界内では厳しい見方のほうが多い。
注目はコント職人・じろうの審査
かまいたちの起用や『キングオブコント2024』の審査員が発表されたとき、ネット上には「松ちゃん、マジで出ないの？」「マッチャンがいないのは寂しい」「松本さんにも出てほしいです」「松本さんがいないのに 笑えと？」「きっとここにいる芸人皆さんが何よりも松ちゃんの帰りをまってますよね」「カリスマがいない」「ダウンタウンがいなきゃお笑いの日って意味があるの？」などの声が続出していた。
つまり毎年『お笑いの日』を楽しんできた人々にとって「松本人志は必要」ということなのかもしれない。その意味で、かまいたちは自分たちの力を発揮できればいいというわけではなく、「松本人志と比べてどうだったのか」という見方は避けられないだろう。各局のテレビマンは「生放送でどれだけ笑いの手数と質を追求できるのか」を見ているはずだ。
そのシビアな視線は『キングオブコント2024』の審査員に起用されたシソンヌ・じろうも同様。その他の審査員は、東京03・飯塚悟志、バイきんぐ・小峠英二、ロバート・秋山竜次、かまいたち・山内健司と例年通りだけに、注目はおのずとじろうに向けられる。
飯塚、小峠、秋山、山内の4人は2021年から4回連続で審査員を務めるだけに、生放送での審査や採点についてそれなりのノウハウを持っているだろう。しかし、それはあくまで松本人志という重鎮がいる場での審査や採点であり、これまで通りのやり方では松本不在の分、「物足りない」という印象を与えかねない。
今回は「松本さんの審査基準に合わせてコメントしよう」というスタンスや、「松本さんがこういうことを言うから別のことを言おう」という配慮が不要になる。また、松本の審査は時に厳しい指摘をすることがあり、それが緊張感や説得力につながっていただけに、今回は誰がその役割を担うのか。
さらに、より技術的な分析でネタを掘り下げるなどのこれまで見られなかった角度からの審査が求められるだろう。事実ネット上には、お笑い好きの人ほど、コント職人のじろうにそれを求めるような声があがっている。
「松本人志のコント」に対する賛否
「日本の2大お笑い賞レース」と言われる『キングオブコント』と『M-1グランプリ』のエンタメ性は、生放送の臨場感によるところが大きく、審査員は芸人たちの明暗をしっかり分けることが重要な役割となっている。
しかし、これまで飯塚、小峠、秋山、山内の4人は、『M-1グランプリ』の審査員よりも称賛のコメントが多く、「採点が似ている」などと疑問視する声もあった。もし松本不在の今回も同様のコメントや採点なら審査員に批判が集まり、「松本人志待望論」が高まるかもしれない。
これは裏を返せば、今回はコメントや採点の説得力やインパクト次第で、「コントにおける審査員のトップ」として認識されるチャンスということ。うまくいけば“コントの第一人者”という王者に輝くこと以上のステイタスを得られるのではないか。
松本がお笑いのトップであることは間違いないが、業界内では「しゃべり」に関する評価が高い。特に浜田との漫才では他の追随を許さず、バラエティなどの平場における対応力もズバ抜けた存在とみなされてきた。
ただその一方でコントに関しては時に疑問符が付けられている。2021年にコント特番『キングオブコントの会』が放送されたとき、「松本が民放で20年ぶりにコントを披露する」ことが話題になったが、業界内では評価が分かれ、ネット上には厳しい声が目立っていた。
さらに2022年、2023年の同特番における評価もほぼ同様。松本のファン以外は厳しい声が目立ったほか、そもそも「松本のコント」はあまり話題になっていなかった。引いては、2011年〜2012年に月1ペースで放送された『松本人志のコントMHK』（NHK総合）や、1991年〜1997年まで放送された『ダウンタウンのごっつええ感じ』（フジテレビ系）。さらに監督・脚本を手がけた映画『大日本人』などを引き合いに出して、「松本の漫才やバラエティはいいけど、コントは……」などとネガティブな声をあげる人は少なくない。
これまで業界内でも、視聴者の中にも、そういう見方があっただけに、松本不在の今回は、飯塚、小峠、秋山、山内、じろうがコントのシンボリックな存在に一歩近づけるかもしれない。
「松本＋後輩芸人」の印象は最悪
次に、人生を懸けて本番に挑むコント師たちに、松本不在のどんな影響があるのか。
これまで『キングオブコント』と『M-1グランプリ』の出場者は、優勝することと同じくらい「松本人志から称賛を受けること」が重要だった。
「ダウンタウンに憧れて芸人になった」という人だけでなく、劇場関係者やテレビマンなどにアピールできることから、「松本人志に評価されそうなネタを選ぶ」という芸人もいたという。逆に「松本に評価されなければ優勝にケチがつく」と言い切るテレビマンに会ったこともある。
ただ、「後輩芸人に女性を上納させていた」などと報じられて落ちた松本のイメージは、いまだ下がったまま。事の真偽はさておき、“松本と後輩芸人”という組み合わせの印象は悪く、「仮に芸能界復帰しても、賞レースの審査員を務めるのは難しい」という見方も存在する。なかには「『もはや若者を審査する立場にない』と言うスポンサーがいる」という話も耳にした。
この半年あまり何組かの若手芸人に「松本に審査されたいか？」と尋ねたところ、その返事は「イエス」と「ノー」の真っ二つ。さらに「ノー」の理由を尋ねると、「現役でコントをやっている人や、コントを作り続けている人に審査されたい」「『M-1』の松本さんや山田邦子さんみたいなレジェンドより現役世代のほうが笑いの感覚が近い」などがあがった。
彼らにとっては歴代王者のみで固めた今回の5人はやりがいがあるのかもしれない。
放送中「松本」トレンド入り確実か
漫才に目もくれずコントに集中する芸人にとっては、誰が審査員でも関係なく、一年でも早く優勝したいのだろう。さらに、「審査員を歴代王者で固める」という方針を続けたら『M-1グランプリ』との差別化になり、「優勝できたらいつか自分も審査員を務められる」という希望にもつながる。
コントに注力している芸人ほど『M-1グランプリ』に比べて『キングオブコント』の盛り上がりやステイタスが低いことを悔しがっているという。そんな彼らの本音は「漫才はそのイメージが強い松本に担ってもらい、コントはスペシャリストが盛り上げていきたい」のではないか。その意味で松本不在の今年はコント師たちにとって千載一遇のチャンスに見える。
最後に、『キングオブコント2024』以外の『ラヴィット！出会い頭−1グランプリ』『最強スポーツ男子頂上決戦』『ザ・ベストワン』に「松本不在の影響はあるか」と言えば、間違いなくあるだろう。
昨年までは各コーナーにダウンタウンが絡むことで特別感が醸し出され、『お笑いの日』そのもののスケールにつながっていた。その消えた特別感をどのような形で補っていくのか。
放送中から終了後にかけて、「松本」というフレーズがXでどれだけつぶやかれるのか。来年の同特番だけでなく、年末の『M-1グランプリ2024』にも、その声の数と内容が影響を与えるのではないか。
