かまいたち

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松本人志が活動休止

 TBSでは2020年から毎年「お笑いの日」という大型特番を放送している。人気の芸人が大勢集まって、さまざまな形でネタを披露していく。この番組の最後を飾っているのが、コント日本一を決める大会「キングオブコント」である。

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 いわば、「お笑いの日」とは、もともとあった「キングオブコント」を軸にして、その枠を押し広げたような形の長時間番組なのだ。TBSとしては、「オールスター感謝祭」に匹敵するほどの大きな規模の番組である。

「お笑いの日」では、昨年まではダウンタウンが総合司会を務めていた。言わずと知れたお笑い界の盟主であり、この大型番組を仕切るのにふさわしい人材である。

かまいたち

 しかし、今年は松本が活動休止しているため、ダウンタウンに代わって、同じ吉本興業所属のかまいたちがMCを務めることになった。「お笑いの日」を仕切る芸人は、お笑い界全体を統括する存在と言っても過言ではない。

 そこにかまいたちが抜擢されたというのは、かまいたちがダウンタウンの次の天下人となる前触れなのではないか、という見方もできる。その点について考えてみることにする。

 今のテレビバラエティ界で最も勢いがある吉本芸人と言えば、千鳥とかまいたちの2組である。もちろん、今田耕司、東野幸治を筆頭に、彼らより長くテレビで活躍している先輩もたくさんいるが、今のトレンドの最先端にいるのがその2組であるのは間違いない。

 現状では、かまいたちよりも千鳥の方が「天下人」に近い位置にあると言える。民放で複数のレギュラー番組を持っていて、それぞれに根強いファンがついている。「千鳥のクセスゴ!」「千鳥の鬼レンチャン」(いずれもフジテレビ系)のようなゴールデンタイムの大衆的な番組もあれば、「テレビ千鳥」(テレビ朝日系)、「相席食堂」(朝日放送)、「いろはに千鳥」(テレビ埼玉)のようにディープな笑いを追求する深夜番組もある。

 最近では「FNS27時間テレビ」(フジテレビ系)の総合司会を担当したり、「酒のツマミになる話」(フジテレビ系)で松本に代わって大悟が司会を務めたり、「トークサバイバー!」(Netflix)でメインキャストを任されたり、大きい仕事も増えてきている。

品の良さと大衆性

 それに比べると、かまいたちはレギュラー本数では負けていないものの、深夜番組も多く、まだ一般的な視聴者層に十分食い込んでいるとは言えない。確実に結果を出しているのは間違いないが、代表作と言えるような大ヒット番組にはまだ出会っていない。鳴り物入りで始まった「ジョンソン」(TBS系)も今年9月で終わってしまった。

 ただ、かまいたちには千鳥にはない強みがある。それは品の良さと大衆性である。彼らは良い意味で落ち着きがあり、品の良いところがあるので、波風立てずにどんな場所にも馴染むことができる。特に、濱家隆一は見た目もこぎれいで女性からの支持もある。

 また、かまいたちの2人は、良くも悪くも芸人としては俗っぽいところがあり、お金のために仕事をしていると公言している。山内健司は「十分なお金を稼いだら仕事を辞めたい」と語っている。2人とも子持ちの既婚者であり、テレビやラジオで子育ての話をすることもある。芸人にしては地に足のついた生活感のある生き方を見せている。

 彼らのYouTubeチャンネルは登録者数230万人を超える人気チャンネルである。その人気の秘密は、大衆向けの手堅い企画を割り切ってできる彼らの「一般人目線」にある。

 ほとんどの芸人には「奇抜なことをやりたい」というプライドのようなものがあって、ほかでもやっているようなことを自分でやるのは嫌だという感覚がある。

 でも、かまいたちの2人には「受け手が求めているものを提供する」という良い意味での割り切りがあり、どこかで見たことがあるような企画も堂々とやることができる。テレビの仕事で多忙を極める中でも、YouTubeを更新し続けて、そちらでも着実にファンを増やしている。

 かまいたちが「お笑いの日」の司会を任されたのは、これでかまいたちが天下人になるというよりは、そうなれるかどうかの試金石という意味合いが強い。ここで結果を出せれば、今後こういう大きな仕事が増えていき、徐々に格が上がっていくことになるだろう。

 かまいたちの品の良さと大衆性という強みは、活躍する舞台が大きくなればなるほど、生かされることになる。今後の活躍に期待しよう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部