アイドルグループtimeleszによる、新メンバー募集オーディションに密着したNetflix番組『タイプロ』が話題を呼んでいる(画像:timelesz [タイムレス]/YouTubeより)

今年4月にSexy Zoneから改名したアイドルグループtimelesz(タイムレス)による、新メンバー募集オーディションに密着したNetflix番組『timelesz project -AUDITION-』(以下、『タイプロ』)が話題を呼んでいる。

先月から始まった同番組は、これまでに配信されたepisode01・02が配信直後にどちらもNetflix国内ランキングで1位を獲得。今後も勢いが増すことが予想される。

このNetflix1位の結果から見ても、『タイプロ』がtimeleszファンや男性アイドルファンのみならず、幅広い層から注目を集めていることは明らかだ。

筆者の周囲でも、話題につられて見たらハマってしまった、という声をちらほら耳にする。この『タイプロ』の圧倒的ヒットを支える要因はどこにあったのだろうか。

過去ヒットした「サバ番」の共通点

近年人気の高かったサバイバル形式のオーディション番組を思い浮かべると、『タイプロ』のようにアイドル界隈のファンダムを超えてヒットした事例はいくつかある。中でも、コロナ禍の2020年に社会現象を巻き起こした『Nizi Project』(通称、虹プロ)は、その代表例だろう。

また昨年は、視聴者投票型の韓国発オーディションシリーズ『PRODUCE 101』の日本版ガールズグループオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』(通称、日プガールズ)が話題を集めていたことも記憶に新しい。同番組はデビューメンバーが決定する最終回を地上波(TBS系列)で生放送し、かつてのAKB総選挙のような熱狂的な盛り上がりを見せていた。

これらの人気オーディション番組に共通するのが、カリスマ的な魅力を放つ審査員のプロデューサーやパフォーマンストレーナーの存在である。たとえば『虹プロ』では、総合プロデューサーのJ.Y. Parkが番組内で数々の名言を残し、“理想のメンター像”としてメディアから注目された。

『日プガールズ』の場合は、視聴者投票制のため審査員は不在だが、歌唱・ダンス・ラップの各専門分野でトレーナーを務めた青山テルマ、イ・ホンギ、KEN THE 390、仲宗根梨乃、YUMEKIによる熱い指導が見どころに。個性豊かなトレーナー陣の活躍に「○○(トレーナー)が推し」という視聴者が出るほど、それぞれのキャラクターが好感度を集め、番組人気を押し上げた。

フィーチャーされる候補生が配信回によって異なるオーディション企画において、プロデューサーやトレーナーは視聴者を導くみちしるべ的な役割も果たしている。その分、見る側のモチベーションを左右する重要な存在でもあり、ある意味、視聴者から最も“推される”必要があるともいえる。

過去のオーディション番組と違う点は…

そんな他番組と比較して『タイプロ』は、現役アイドルのtimeleszメンバーが審査員を務めるため、元々の知名度も手伝って視聴者の関心は集まりやすい。

一方で、審査員としての実力は未知数だったが、蓋を開けてみると彼らの堂々たる審査員ぶりが視聴者を虜にしている。

特に、候補生との質疑応答の場面におけるメンバー・菊池風磨の鋭く的確なコメントは、まるで一般企業の採用面接のようだとSNS上でも話題に。ときにハラハラするような緊張感漂うやりとりもあり、ドキュメンタリーならではの見ごたえのあるシーンが続く。

『タイプロ』中の菊池の発言「歌詞忘れてるようじゃ無理か。歌詞はね、入れとかないと」が菊池風磨構文としてネットでミーム化したのも、この指摘のヒリッとしたインパクトが多くの視聴者の心に刺さったからこそだろう。

そんなtimeleszメンバーの審査員ぶりには、同じく幅広い視聴者層から支持を得た『虹プロ』『日プ』とも共通する“審査者・指導者としての求心力”を感じずにはいられない。ステージ上の明るく華やかな姿とはまた違う、オーディションでの様子がファン以外の視聴者をも引き込む魅力を放っている。

「現役メンバーによる審査」が絶大な効果を発揮

先ほども少し触れたように、『タイプロ』と他の人気オーディション番組との大きな違いは、「timeleszメンバー自身がオーディション審査員を務めている」ことだ。そしてこの違いこそが、『タイプロ』独自のおもしろさを生む一因にもなっている。

通常、オーディション番組を見たあとの視聴者心理としては「候補生の努力や成長の過程を知り、デビュー後もグループを応援したくなる」のが王道の流れである。『タイプロ』の場合は、ここにもう1つ加わって「現メンバーと現グループのマインドを知り、これからのtimeleszを応援したくなる」という効果も期待できる。これはアイドルたちが自ら審査員を務めるからこそ生まれた、オーディション番組の新しい楽しみ方である。

2つ目に記述した「現メンバーと現グループのマインド」がどんな内容を指すかというと、たとえばepisode02の2次審査では、こんな場面が印象的だった。


笑顔あふれるパフォーマンスの印象とは異なり、終始真剣な表情でオーディション参加者と向き合う佐藤勝利。職業としてのアイドルの実態がよくわかるやり取りになった(画像:timelesz [タイムレス]/YouTubeより)

審査中の質疑応答で、メンバーの佐藤勝利から応募理由を聞かれた候補生がいた。彼は、「僕とtimeleszの皆さん、そしてsecondz(timeleszのファンの名称)の皆さん、全員がまだ掴めていない“本物の景色”を掴みにきました」と回答。

これに対して菊池が、あなたがメンバーに加わることで見える“本物の景色”と、自分たちがこれまで見てきた景色の違いはなにかについていくつか質問を重ねると、候補生は徐々に答えに窮する。

菊池は、一連のやりとりで伝えたかったのは候補生の“言葉選び”であると告げ、「〇〇くん(候補生)と見る景色が“本物の景色”だとしたら、これまで見てきた景色はなんだったんだろうっていうのが、僕らだけじゃなくファンにもそういう気持ちにさせてしまう」「言葉1つが命取りになるってことを覚えておいてほしい」と諭した。

この場面からは、菊池やtimeleszの仕事に対する考え方や姿勢、プロフェッショナルとしてのアイドル像が、彼らをよく知らない視聴者にもクリアに伝わってくる。

また、候補生に対して抱いた印象を、濁さず直接本人に伝えるスタンスも、timeleszの誠実さを表していると感じた。先ほどの菊池のコメントを借りるならば、「言葉1つが命取り」な芸能人である以上、波風を立てずに言葉を呑み込むほうが安全という考え方もできるだからだ。

これはtimeleszに限らない話だが、特にアイドルのファンではないコンテンツの視聴者が、アイドルたちの精神性を知る機会は意外と少ない。例えば、メディア露出の多い音楽番組やバラエティ番組を見るだけでは、今回のオーディションでわかるような職業アイドルとしてのまじめな一面に触れることは難しいだろう。

そのため、彼らのことをよく知らない視聴者にとっては、『タイプロ』がこれ以上ない“timelesz入門コンテンツ”として機能する。本来であれば、ファンでなければ知り得なかった彼らの本質的な魅力が直球で伝わってくるオーディション番組だからこそ、『タイプロ』はこれだけ多くの視聴者に響いているのだ。

“デビュー13年目の挑戦”がなにを生むのか

最新回episode02では、2次審査に参加した約350名のうち36名の通過者が発表され、一気に人数が絞られた。とはいえ、ここまで配信されたエピソードはまだ審査の序盤であり、来る新体制をイメージできるほど差し迫った現実味はあまりない。ある意味では、このあとの3次審査からが本格的なスタートになりそうだ。

今後は候補生同士がグループを組んでのパフォーマンス審査が予定されている。メンバーの松島聡が新メンバーに期待していると話す“協調性”がネックになってくるかもしれない。

『タイプロ』本編の中では、メンバーから「ここで出会った仲間たちと、アイドル人生のラストを歩むつもり」「これが最後の挑戦になる」といった発言もあり、オーディションに臨むうえでの並々ならぬ覚悟を感じた。その腹のくくり方こそが、新生timeleszを一層国民的な人気者に押し上げる可能性にもまた期待したくなる。

改名前、Sexy Zoneとして2011年にデビューした彼らは、男性アイドルグループとしてすでに中堅のキャリアに差し掛かっている。グループから独立してネクストキャリアを歩むアイドルもめずらしくなくなった昨今、あくまでグループとしてさらなる高みをめざすtimeleszが、新体制となった先でどんなアイドル像を見せてくれるのか。まずは『タイプロ』の今後を楽しみに見守りたい。

(白川 穂先 : エンタメコラムニスト/文筆家)