カーシェアからジュニアシートがなくなりつつあります(写真:Satoshi KOHNO/PIXTA)

カーシェアの車から「ジュニアシート」が消えていっているのをご存じだろうか。これまでカーシェアでは、おおむね3歳以降が着用するジュニアシートが標準搭載されていた。しかし、大手カーシェア各社は昨秋以降、順次搭載を終了している。

ジュニアシートに関しては、幼い子が犠牲になる事故があり、その必要性が再認識されているところだ。

今年8月、福岡県で路線バスと軽乗用車が正面衝突し、軽乗用車に乗っていた5歳と7歳の女児が死亡する痛ましい事故が起きた。死因は、衝突によるシートベルトの締め付けと見られ、女児らはジュニアシートを着用していなかったと報じられている。


カーシェアの車でよく見られたタイプのジュニアシート(写真:編集部撮影)

日本の道路交通法では6歳未満の乳幼児はチャイルドシートもしくはジュニアシートの着用を義務付けられている。逆に言うと6歳以上の子どもについては法律上、着用の義務はない。

この事故後の今年9月、日本自動車連盟(JAF)はチャイルドシート(ジュニアシート)の着用目安を、従来の140cm未満から150cm未満に引き上げた。

タイムズカーに理由を聞いてみた

こうした中でカーシェアからジュニアシートがなくなることは、流れに逆行しているようにも見えるが、なぜ搭載終了に踏み切ったのか。

「タイムズカー」を運営するパーク24と「三井のカーシェアーズ」を運営する三井不動産リアルティに取材を申し込んだところ、パーク24のみ書面で回答を得られた。

同社によれば、搭載終了の発端は、国連欧州経済委員会が定めるチャイルドシート・ジュニアシートの安全基準の厳格化が関係している。2023年9月1日から新基準R129に移行し、旧基準の製品をメーカーは生産・出荷できなくなった。

これに伴い、これまでタイムズカーが装備していたジュニアシート(座面のみのいわゆるブースターシート)が生産終了し、調達できなくなったという。

加えて、新基準のジュニアシートは、側面衝突に耐えられる設計が求められるなど、従来に比べてサイズアップした。その結果、車種によってはジュニアシートをトランクに積載できなくなり、また搭載できたとしても他の荷物を積む余裕がなくなってしまうケースが想定された。

そのため、ジュニアシートを必要としない利用者の利便性を鑑みて、2023年9月以降に新たに配備する車両への搭載を見送る運びとなったと説明している。


ジュニアシートの搭載終了を告知するdカーシェアのHP。搭載終了の理由として「車内での常備搭載に伴う衛生面の確保が困難であること」も挙げられている(画像:dカーシェアHP)

5歳のジュニアシート着用率は6割

カーシェアからジュニアシートがなくなることで懸念すべきは、ジュニアシートを着用せずにカーシェアの車に乗る子どもが増加する恐れがあることだ。

カーシェアの車におけるジュニアシートの搭載終了については「2023年8月23日〜9月30日の期間でマイページ(ログイン後の会員ページ)のお知らせに掲載していた」(パーク24)というが、利用者が乗車前に把握しているかは不透明だ。

カーシェア利用者がジュニアシートの搭載の有無を知っていようがいまいが、子どもの安全の責任は当然ながら保護者にあり、準備がないなら車の利用を中止するなどの対応が必要だ。しかし、そうした考えの保護者ばかりではないだろう。

2024年のJAFの調査によれば、1〜4歳のチャイルドシートの着用率は80.7%だが、5歳のジュニアシートの着用率は57.9%となり、大幅に低下している。法律上着用義務があるにもかかわらず、チャイルドシートからジュニアシートに切り替える段階で、着用をやめる保護者が一定数いるのが現状だ。

さらに、新基準の適用によるジュニアシートの「大型・高額化」という壁も立ちはだかる。

トイザらスによれば、安全基準の改定によりジュニアシートの平均価格が大幅に上昇したという。

「当社で人気の1.5歳以上から12歳頃まで長く使えるタイプのものでいうと、旧基準では1万円以下の商品もあったが、新基準適用後は2万円以上の製品が主流になっている」(日本トイザらスのベビー商品部シニアバイヤー大河平里砂氏)。

さらに改定前は3000〜4000円で購入できた座面のみのブースタータイプも、新基準適用後は125cm以上からが対象となり、おおよそ7歳以上の子どもしか使えない。

すでにトイザらスでは店頭販売の95%以上が新基準の商品に替わっている。旧基準の商品は一部小売店やインターネット等で手に入るものの、消費者は従来より「大型・高額化」したジュニアシートから選ぶしかないケースが増えている。

全台で搭載が終了するのは数年後だが…

繰り返しになるが、カーシェアだろうが自家用車だろうが子どもを乗せるならしかるべき安全対策を保護者がとるのは必須。ただ、不心得な大人が出てくるとしたら、その被害を被るのは子どもだ。

道路交通法では、チャイルドシート・ジュニアシートの着用義務があるのは6歳未満とされている上、罰則も運転手の交通違反点数が1点加点されるのみと軽い。

SNSや自身のサイトでチャイルドシートに関する情報発信を長年続けているチャイルドシート総合研究所の所長は「ドイツなど諸外国の規則に比べ、日本は圧倒的に緩い」と話す。また、「JAFの着用目安と道交法の着用義務の年齢に乖離があることも、ジュニアシートの必要性の周知を阻む一因になっている」(所長)という。

パーク24によると、「2023年9月以降に新たに配備した車両にはジュニアシートは搭載されないが、従来ジュニアシートを搭載している車両は、汚れや破損、紛失等が無い限り撤去はしない。ジュニアシートが全台で搭載されていない状態になるのは数年先と想定される」という。

タイムズカーの場合、利用予定の車のジュニアシートの有無は備考欄で確認できる。

必要な人は子どものために、まずは搭載されているか否かを確認するところから始めたい。

(佐藤 隼秀 : ライター)