超できそうなのに恐ろしく無能だったら? 菜々緒が語る「できない自分」との付き合い方

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「人は日常生活において情報の80%以上を視覚から得ている」と言われる。確かに見た目からの情報は大きな手掛かりになるが、対人間の場合、言うほど当てにならないのもまた事実。「そんな人だとは思わなかった」「意外に○○な人だったんだな」といった齟齬は日常茶飯事だ。

では、もしも出会った人全員から超有能に見られる会社員が、実は壊滅的に無能だったらどうだろう。よく“能ある鷹は爪を隠す”と言われるが、そもそも隠す爪がない。社会人として切磋琢磨しないので成長もしない。どこまでいっても、裏も表も果てしなく無能――。

そんな非スーパーウーマンを主人公にした漫画がはんざき朝未さんの『無能の鷹』。大人気の本作のドラマ化にあたり、主人公の鷹野ツメ子を演じるのは、『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』、『TOKYO MER 〜走る緊急救命室〜』、『怪物の木こり』、『忍者に結婚は難しい』等々で、優秀でかっこいい女性像を演じてきた菜々緒さんだ。

「菜々緒さんが鷹野を演じるなんて、まさにハマリ役!」という声も高い。インタビュー前編では、オファーされた時の気持ちと鷹野という役柄、そしてダメな自分との向き合い方などについて聞いていく。

「菜々緒でドラマ化を」という声が嬉しかった

以前よりSNS等で「もし実写化するなら主人公の鷹野ツメ子役は菜々緒さんに!」とつぶやかれていた本作。果たして菜々緒さん自身に、その声は届いていたのだろうか?

「お話をいただいた時、私は電子書籍で原作を読んだのですが、その口コミ欄に『ぜひ菜々緒でドラマ化してほしい』という声があって。ドラマ化決定の情報解禁後にも、『菜々緒さんをイメージして読んでいました』というコメントをいただいたんです。そんなふうに言っていただけるなんて、ものすごく嬉しかったです。

嬉しさと同時にプレッシャーも感じています。やっぱり原作があるものなので、どこまで忠実に表現できているか、少し厳しめに見られる部分があるはずですから。

今は演じる側として、『観た人に喜ばれる作品を作りたい』という思いで臨んでいます」

主人公が最初から最後までまったく成長しない

ものすごく有能に見えてとんでもなく無能という、これまでいそうでいなかったタイプの主人公、鷹野。菜々緒さんにとって、鷹野の第一印象はどんなものだったのか? そして菜々緒さんが思う彼女の魅力とは?

「衝撃的でした(笑)。お仕事ドラマって、ダメダメな主人公が成長していくとか、バリバリ仕事ができる人が活躍するものが多いですが、そんななかで、主人公が最初から最後までまったく成長しないんです(笑)。まずそれが新しいなと思いました。

一方で、鷹野はとにかく自分に嘘がなく、自分のことを信じていて、常に自分らしくいられる人間です。どんな状況でも、そしてどんな人にもフラットで、外の世界に影響されない。そこがすごく魅力的だと思います。

計算がなく、あるがままに生きているところも素敵ですよね。もはや禅や仏教のマスターを彷彿させる、突き抜けた何かすら感じます(笑)。令和の今だからこそ、いろいろな人の心に響く作品だと思っています」

クランクイン前に一度リハーサルを

脚本を担当したのは、「正直不動産」「パリピ孔明」等のヒット作で知られる根本ノンジ氏だ。

「ベースとなる原作が面白いことは大前提として、ドラマの台本として起こされた時にまためちゃくちゃ面白いものになっていて。『これをどう演じるか』が肝になってくるなと、身が引き締まる思いがしました。

会話のテンポ感や間の取り方など、生身の人間が演じる際には、バランスを考えて動かないといけない部分がたくさん出てきます。コメディーは特にそれが大事なので、当初、私はすごく不安を感じていたんですが、クランクインの前に一度、営業部のメンバーでリハーサルをすることができたんです。

『ここはこうだね、ああだね』というやり取りをリハの時に相談し合いながらできたので、本当に有意義な時間になったと思います」

「もうちょっと力を抜いて生きても大丈夫」

どんな時も、相手が誰でも、自身の気持ちに正直に行動する鷹野。彼女が「正直でいいんじゃない?」と口にすることで、まわりにいる人間がフッと肩の力を抜いたり、新たな気づきを得たりもする。日頃、ついつい無理をして頑張ってしまう私たちにとって、ドキッとさせられるシーンが多い作品だ。

「鷹野は嘘をつかず、偽らず、ありのままの自分でいることを体現している人間です。取り繕うこともせず、自分を無能だと認め、無能であることを彼女自身が一番よくわかっている。しかもそれを恥じてもいなければ、悪いことだとも思っていないんですよね。

でも、それでいいと思うんですよ。だって、できないものは仕方ない(笑)。特に日本人は真面目だし優しいから、なかなか『できない』と言えないし、休むのも下手じゃないですか。

ドラマを観た方が、『今の自分のままでもいいんだ』『もうちょっと力を抜いて生きても大丈夫かも』と少しだけ楽になれるような、そんな作品になったら嬉しいなあと思います」

息苦しさを感じている人にとってのチルタイムに

他者と同じようにできない人、失敗した人、結果を出せなかった人を叩く風潮がある現代。「できなければいけない」「失敗は許されない」「結果を出さねばならない」という圧の中で頑張り続けるのは、なかなかにしんどいものがある。

「本当にそうですよね。今回、このドラマのプロデューサーである貴島(彩理)さんが、お手紙をくださったんです。そこに『生きているだけで人間ってえらい』という一文があったんですが、確かにそうだなって。

人も時代も進化して、能力だ、才能だ、っていろいろあるけど、本当は人間って、ただ生きて楽しんでいるだけで素晴らしいんだよなあと、あらためて思ったんです。

何かできないことがあっても自分の全部がダメなわけじゃないし、頑張ることをお休みする時があったっていい。そういうことを作品を通して声を大にして伝えていきたいですし、このドラマが息苦しさを感じている人、ちょっと疲れてしまった人のチルタイムになればいいなと思いながら鷹野を演じています」

ダメな自分を認めてもいい

落ち着いた物腰、キリリとした知的なまなざし、艶やかなロングヘアと、「デキる女性」な見た目を持つ鷹野。まさに菜々緒さんそのものに思えるが、菜々緒さん自身はビジュアル以外に鷹野との共通点や似ていると感じる部分はあるのだろうか?

「鷹野は人に影響されず、どんな状況でもフラットでいられるタイプの人間、そこがすごいなと思います。私も人に影響されたりまわりの雰囲気に流されたりということがあまりないので、そういった部分はすごく似ている気がします。あと、漢字が読めないところも鷹野と同じですね(笑)。

私自身、苦手なこと、努力しても上手くできないことがたくさんあります。ただ人間、誰しも向き不向きがあるので、できないことについて自分を責めたり後ろめたく思うのではなく、『私には○○は向いていないんだな』と認識するだけでいいと思うんです」

それでもいいと受け入れてくれる人たちを大事にしたい

そんな菜々緒さんが、子どもの頃から苦手としていることとは?

「私は子どもの頃から音読が苦手で、どうしても噛んでしまうんです。だから小学生の時、授業で音読させられるのが恐怖でした。それは今でも変わらず、この仕事を始めて15年も経ちますが、番宣などのカンペが上手に読めません(笑)。

今回の現場でもやっぱり噛んでしまったのですが、スタッフの皆さんが『逆にかわいいと思った!』『失敗しても大丈夫ですよ〜!』と声をかけてくださって。それが本当にありがたくて、ああ、私はかけがえのない人たちと一緒に仕事をしているなあと思ったんです。

ダメな自分を素直に認める。そしてダメなところをさらけ出して、それでもいいと受け入れてくれる人たちを大事にしたい。感謝とともに、今はそんなふうに感じています」

◇後編「菜々緒が語る「見た目で判断される」ということ」では、鷹野ツメ子を説得力を持ってできる菜々緒さんの本音をさらに伝えていく。

菜々緒(ななお)

1988年10月28日生まれ、埼玉県出身。2009年より本格的に芸能活動を始め、ドラマ・映画・CM等幅広く活躍中。最近の主な出演作は、NHK大河ドラマ「おんな城主直虎」、主演を務めたドラマCX「忍者に結婚は難しい」、劇場版「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」、映画「怪物の木こり」など。昨年発売した10年ぶりの写真集「DIVINE」も話題となった。2023年より、GIVENCHYのジャパン・アンバサダーに就任。今年8月には「NANAO OFFICIAL FANCLUB」を開設した。

金曜ナイトドラマ『無能の鷹』

主人公の鷹野ツメ子(たかの・つめこ)はスマートな身のこなしに落ち着いた声。自信に満ちあふれているのに謙虚な立ち振る舞い。どこからどう見ても中堅エース級の風格を備えていて、超有能そうな見た目なのに、実は衝撃的に無能! 一方、鷹野と同期入社の鶸田道人(ひわだ・みちと)は、本当は仕事ができるのに、見るからに無能そうな残念サラリーマン。社内ニートとなっている鷹野の相棒役を押し付けられ、不運すぎる社会人生活をスタートさせる。しかし、やがて“有能に見える女”と“無能に見える男”の最強タッグが奇跡を起こす…!?

スタイリスト:金 順華

ヘアメイク:大槻史菜(MARVEE)

菜々緒が語る「見た目で判断される」ということ