「難病に起因した障がい、支援が必要な方に対して旅行外出をサポートする活動をしている」

【映像】車椅子で快適に鹿児島・甑島を旅行する様子

 こう話すのは櫻スタートラベル合同会社 櫻井純代表だ。

 櫻井代表は、「慢性炎症性脱髄性多発神経炎」と「シャルコー・マリー・トゥース病」という2つの難病を抱えながら会社を経営し、障がいを持つ人たちの旅行支援を行っている。

「医療面で多くの方に支えて頂いた感謝を伝えたい気持ちから社会参加を目指して起業した」(櫻井代表、以下同)

 櫻井代表が目指しているのは、治療と職業生活の両立だ。今も仕事の傍ら治療を行う日々を送っている。病気を発症したのは2014年のことだった。

「治療生活を優先したために仕事を失ったが、難病の当事者として私たち自身ができることで社会参加したい。一般就労が難しくても働けないかと」

 そんな思いから2016年、櫻井代表は難病と闘う人たちと共に「櫻スタートラベル」を立ち上げた。

「働き方の可能性を模索して旅行を選んだ。治療・リハビリを終えて、夕方から夜の間にメールやFAXで旅行のチケットを手配し、病院の郵便ポストから送る。なんとか病院の中から仕事をする方法を手探りで始めた。いろんな場所の方々と密に話をすることで誤解をなくしたり、必要な配慮があれば受け入れることができると伝えたり。それでも不安な場合は、当事者として、旅行会社として現地に行くことでサポートする。バリアフリーでない施設もあるが、人々の助け合いでサポートできると伝えている」

 こちらは、難病を抱える男性が鹿児島県にある甑島を旅行する様子。車椅子を飲食店の従業員と共に持ち上げ男性を店の中へ。櫻井代表の言葉通り、バリアフリーではない施設でも優しさと助け合いで男性には笑顔が絶えない。

 会社設立から9年。櫻井代表は治療を続けながら、これまでおよそ4800人の旅行を支援してきたという。

「なかなか社会的には旅行が難しいと不安に思っている方が、一歩踏み出すきっかけになれば。私たちの働き方、状態、病院生活を見ていただくことで、まだ社会にうまく伝えられていない難病者の医療と仕事の両立を知っていただけるきっかけになる」

 今後、難病や障がいを持つ人のキャリア支援なども行っていきたいという櫻井代表。誰もが楽しく生き甲斐を持てる社会を作りたいと話す。

「病気を抱える人が旅行に行けない課題。それは体調が悪化しているからか、働くことが難しいため経済的に困難になっているのか、課題は様々だ。社会課題の解決に向けて一緒に考える機会を持っていきたい」

 櫻井代表の活動についてSchoo エバンジェリストの滝川麻衣子氏は「2つの観点で素晴らしい」と絶賛した。

「まず、難病当事者である櫻井代表ご自身が現地に実際に足を運び、旅館の方達に助言をしながらスムーズな旅行を実現されている点だ。当事者でなければ気付けない点も多いだろう」

「もう一つは、福祉の領域ではなくて、ビジネスとして実行しているところだ。福祉はどうしても『税金を使って予算内でやりましょう』という話になりがちで、クラウドファンディングも“1回限り”になりがちだが、ビジネスとなることで持続可能性が高まる」

 実際のところ、障がいを抱えている人は旅行をしているのだろうか?

 観光庁が実施した調査によると「国内宿泊旅行はしていない」が最多の25.8%、次いで「1年に1回程度」が19.2%という結果に。 

 また「不便が解消されたら(旅行の)頻度はどうなりますか?」という問いには「増加しない」と答えた人が57.3%。その理由としては「時間に余裕がない」「現状で特に困っていない」などと共に「経済的な理由」という声があった。

 この「経済的な理由」について滝川氏は「障がいを持っている人は就職のハードル、治療を受けながら働くハードル、職業選択におけるハードルなどが生じることがあり、結果的にバリバリ働くことが難しい」と現実を見つめながらも「ここで重要なのは、この課題を福祉でカバーするだけでなく、櫻井代表のように『採用されるのが難しいなら起業しよう』という発想の転換だ。テクノロジーの進化によってオフィスに出社しなくても、できることも増えている。起業に限らず、キャリアの選択肢が10年前、20年前よりも増えているのだ」と述べた。

 櫻井代表の事業は高齢や障がい等の有無にかかわらず、すべての人が安心して楽しめる旅行=ユニバーサルツーリズムと通じる。

 現在、ユニバーサルツーリズムは「専門的な知識の習得、人材の確保ができず商品を造成できない」「旅行参加に必要な介助者が確保できない」「バリアフリー対応の観光施設の情報が不足・不充実で商品を造成できない」などの理由で旅行会社の71.2%が取り扱っていない。

 この点について滝川氏は「ユニバーサルツーリズムは障がいを持っている方だけでなく、『対高齢者』という観点でも注目するべきだ」と指摘する。
 
「日本人の4人に1人は高齢者であり、今後高齢化はさらに進む。つまり、人口減少でシュリンクしていくマーケットの中でも高齢者はポテンシャルの高いマーケットなのだ。この市場はインバウンドのように為替や政治的背景にも左右されない。さらに高齢者はお金を持つだけでなく、週末など現役世代が集中する時期を避けることができる、という点でも魅力なのだ」
(『ABEMAヒルズ』より)