●泣きむせぶ彰子にかける声が見つからないまひろ

テレビ画面を注視していたかどうかがわかる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、15日に放送されたNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合 毎週日曜20:00〜ほか)の第35話「中宮の涙」の視聴者分析をまとめた。

中宮・藤原彰子を演じる見上愛=『光る君へ』第35話より (C)NHK

○一条天皇、彰子の突然の告白に絶句

最も注目されたのは20時33分〜34分で、注目度80.9%。中宮・藤原彰子(見上愛)が自身の殻を破り、一条天皇(塩野瑛久)に想いの丈をぶつけるシーンだ。

「光る君に引き取られて、育てられる娘は、私のようであった」彰子は唐突に、まひろ(吉高由里子)に対してそう言った。つい先ほどまで、彰子とその女房たちは『源氏物語』について語り合っていた。宮の宣旨(小林きな子)が女房たちに装束の手入れを命じ、その場が解散となった直後のことである。

「私も幼き頃に入内してここで育ったゆえ」「そうでございますか…」まひろは彰子に向き直る。「この娘は、このあとどうなるのだ?」「今、考えているところでございます。中宮様は、どうなればよいとお思いですか?」彰子は物語の中の娘の行く末が大層気になっているようだ。自身の身の上と重なる部分が多いからだろう。「光る君の妻になるのがよい」しばらく考えを巡らせたのち、彰子は言った。「妻になる…なれぬであろうか? 藤式部、なれるようにしておくれ」彰子の態度は真剣そのものだ。まるで我がことのように懇願した。「中宮様。帝にまことの妻になりたいと、仰せになったらよろしいのではないでしょうか? 帝をお慕いしておられましょう?」まひろは彰子の意を汲み取り、真摯(しんし)に答えた。

「そのような…そのようなことをするなど、私ではない」「ならば、中宮様らしい中宮様とはどのようなお方でございましょうか。私の存じ上げる中宮様は、青い空がお好きで冬の冷たい気配がお好きでございます。左大臣様の願われることも、ご苦労もよく知っておられます。敦康親王(渡邉櫂)様にとっては、唯一無二の女人であられます。いろいろなことに、ときめくお心もお持ちでございます。その息づくお心の内を帝にお伝えなされませ」戸惑う彰子に、まひろは優しく、自分の想いを伝えることの大事さを説いた。彰子の頬に一筋の涙が流れる。

「お上のお渡りでございます」宮の宣旨の声が響いた。一条天皇は彰子とまひろのいる部屋に入ると、「敦康に会いに来たが、おらぬゆえ…」と、彰子に来訪の意を告げようとした。「お上!」「ん?」彰子は彰子に似つかわしくない大きな声で、一条天皇の言葉をさえぎった。一条天皇は彰子の顔をのぞく。「お慕いしております!」彰子の突然の告白に、一条天皇は絶句した。かみ合わない2人の様子を、まひろはぼう然と眺めるしかできなかった。彰子の瞳からはひたすらに涙があふれている。「また来る」あまりに突然の出来事に動揺した一条天皇は、そう言って去ってしまった。残された彰子は泣きむせぶが、まひろにはかける声が見つからなかった。

『光る君へ』第35話の毎分注視データ

○見上愛の迫真の演技に「激烈直球告白最高だった!」

注目された理由は、彰子を演じる見上愛の迫真の演技に、視聴者の視線が「くぎづけ」になったと考えられる。

12歳で一条天皇に入内した彰子だったが、奥ゆかしい性格が災いして夫との距離が縮まることはなかった。藤壺の火事という一大イベントや、まひろとの出会いを経て、徐々に感情を表に出せるようになるまで成長していく姿を、見上は絶妙な演技で表現してきた。今回のシーンはあり得ないタイミングで涙を流しての告白だったが、その鬼気迫る演技にはとても引き込まれるものがあった。

X(Twitter)では、「彰子さまの激烈直球告白最高だった!」「これからの彰子さまの成長も楽しみ!」「彰子さまの涙の告白に射抜かれた視聴者は多いはず」などと、見上の演技に称賛が集まった。また「定子(高畑充希)さまに清少納言(ファーストサマーウイカ)がいたように、彰子さまにも藤式部という強力な味方がいるのが心強い」「定子さまとききょうの関係もよかったけど、彰子さまとまひろの関係もすき!」といった、2人の中宮と女房の関係を比較したコメントも見られた。

彰子を演じる見上は、中学2年の時に演劇好きの両親に連れられて観た舞台をきっかけにお芝居に興味を持ったそうだ。2021年に放映された『きれいのくに』では、容姿にコンプレックスを抱く女子高生を見事に演じきり注目を集める。2022年に放映された『liar』では佐藤大樹とW主演を務め、先輩社員に振り回されつつ、次第に惹かれていく新入社員を巧みに表現して視聴者をひきつけた。2024年に公開された映画『不死身ラヴァーズ』で映画単独初主演を務め、「好き」という想いを胸に秘めて、迷いなく全身全霊で突き進む女性を演じた。現在23歳だが実績十分の見上がこれから彰子をどのように演じていくのか注目だ。

●藤原惟規と斎院の中将のはかないロマンス

2番目に注目されたのは20時28分で、注目度78.1%。蔵人・藤原惟規(高杉真宙)と斎院の中将(小坂菜緒)のはかないロマンスのシーンだ。

「はあ…はあ…はあ…はあ…」惟規は闇夜を必死の形相で駆け抜ける。「待て!」「いたぞ!」「待て!」追っ手の声があたりに響くが、惟規は構わず斎院の塀を勢いよく乗り越えた。しかし、うまく受け身がとれず、派手な音とともに庭に転げ落ちた。

斎院の中将が、騒がしい外の様子が気になって部屋から出ると、庭には愛しい惟規が這いつくばっている。「惟規様…」斎院の中将は惟規に駆け寄ると、2人はしっかりと抱き合った。しかしそれもつかの間、「何をしておる!」と、警備の兵によって2人は直ちに引き離された。「中将の君!」「惟規様!」2人はお互いの姿が見えなくなるまで、名を呼び合っていた。







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○不らちな理由で忍び込む惟規に「スチャラカ公務員」

このシーンは、ロミオとジュリエットばりの惟規の恋愛模様に、視聴者の注目が集まったと考えられる。

「光る君へ」公式Webサイトの特集「をしへて!」によると、惟規が侵入したのは京都の北東にある上下賀茂社だ。陰陽道の鬼門にあたる方角に建てられ、都を災厄から守るための神聖な神社に、恋人に会うという不らちな理由で忍び込むという惟規の行為に、SNSでは「あほー惟規のあほー」「スチャラカ公務員惟規」「惟規くん、意外と情熱的だな」と、あきれながらも微笑ましく見守る視聴者の声が集まっている。

斎院は、賀茂別雷神社(上賀茂神社)と賀茂御祖神社(下鴨神社)の両賀茂神社に奉仕した未婚の皇女で、伊勢神宮の斎宮と併せて斎王とも呼ばれた。斎院制度は、810年に第52代嵯峨天皇が娘・有智子内親王を初代斎王として奉仕させたことが始まり。現時点の1007年に在位していたのは第62代村上天皇の娘・選子内親王。同母兄弟に冷泉天皇・円融天皇(坂東巳之助)・為平親王がいる。選子内親王は57年という歴代最長の任期を務めて大斎院と呼ばれた。惟規のお相手の斎院の中将は、斎院司長官・源為理の娘で、母はあかね(和泉式部:泉里香)の妹という説がある。

斎院の中将を演じる小坂菜緒は日向坂46のメンバーで、『Seventeen』専属モデルでもある大阪府出身の22歳。『光る君へ』が大河ドラマ初出演だ。わずか30秒足らずの出演時間だが十分に存在感を示した。

斎院の中将の父・為理の位階は従五位下であり、惟規の父・藤原為時(岸谷五朗)が越前守に叙任された時と同じ位(為時はのちに正五位下に叙任されるのでむしろ格上)なので、父の位階の上ではそこまで身分に隔たりはないように思えるが、源氏という血筋と役職の尊さが惟規には釣り合わないのだろうか。この恋が成就するよう惟規には頑張ってほしいところだ。

●妻の体を優しく抱き寄せ、夫の背中に手を伸ばす

3番目に注目されたシーンは20時39分で、注目度76.9%。一条天皇がようやく中宮・藤原彰子に振り向いたシーンだ。

一条天皇は、左大臣・藤原道長(柄本佑)との公務を終えると立ち上がり、道長に御嶽詣の御利益はあったのかと問うた。「まだ分かりませぬ」と答える道長に、「今宵、藤壺に参る。その旨、伝えよ」と、一条天皇は言った。あの日の彰子の涙がついに帝の心を捉えたのだ。道長は目を見開いた。待ちに待った日が来たのだ。藤壺では女房たちが慌ただしく一条天皇を迎える準備を進めていた。宮の宣旨をはじめ、女房たちは晴れやかな表情でかいがいしく中宮・彰子の身支度を調える。

しかし、当の彰子は魂の抜けたようなうつろな表情で、女房たちにただ身を任せていた。我が身に起こっていることがいまだに信じられないのだろう。雪の降り積もる中、一条天皇が藤壺へ足を運んだ。「いくつになった?」「二十歳にございます」一条天皇と彰子は、寝所で2人きりとなった。

「いつの間にか、大人になっておったのだな」「ずっと大人でございました」待つものの気持ちは、待たせた方には分かりにくい。2人の間にはまだ、大きな溝があった。「そうか…さみしい思いをさせてしまって、すまなかったのう…」彰子の心に触れ、いたたまれない気持ちになりながらも、一条天皇は妻の体を優しく抱き寄せた。彰子は自分の想いのまま、夫の背中に手を伸ばした。







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○「やっと一条天皇が彰子さまを受け入れて下さった!」

ここは、彰子の恋が実った瞬間に、多くの視聴者が感動したと考えられる。

長らく心を通わせることができなかった彰子と一条天皇だが、彰子の決死の告白でようやく本当の夫婦となることができた。ネットでは「やっと一条天皇が彰子さまを受け入れて下さった!」「彰子の告白を受けた一条天皇の反応がよかった」「一条天皇と彰子さま、ほんとに少女漫画みたい」と、2人を応援する視聴者のコメントが多く集まった。

1007年当時、実は一条天皇には藤原義子・藤原元子(安田聖愛)・藤原尊子という3人の女御と皇后・藤原定子が産んだ3人の子がいた。女御とは中宮に次ぐ后の身分。藤原義子は内大臣・藤原公季(米村拓彰)の娘で996年に入内して、弘徽殿女御と呼ばれた。藤原元子は右大臣・藤原顕光(宮川一朗太)の娘で996年に入内して、承香殿女御と呼ばれた。997年に妊娠した兆候が見られたが、998年に体内から水分が出たのみでこの妊娠は終わっている。藤原尊子はあの藤原道兼(玉置玲央)の長女だ。彰子にとっては従姉妹である。998年に入内し、暗戸屋女御や前御匣殿女御と呼ばれた。3人の女御はいずれも一条天皇の子どもを宿すことはできなかった。一条天皇が定子に強い愛情を見せたのも、定子だけが子どもを産んでくれたということもあったのかもしれない。

第1皇女・脩子内親王(井上明香里)は997年生まれ、非常に信心深い性格だったそうだ。高貴な皇女がそうだったように、終生未婚だったが、道長の次男・藤原頼宗(上村海成)の次女・延子を養女とし、延子が後朱雀天皇に入内した際には養母として付き添ったそうだ。

第1皇子・敦康親王は999年に生まれた。生母・定子が亡くなった後は養母・彰子と仲むつまじい姿を見せてくれている。しかし彼は彰子の産んだ異母弟・敦成親王と東宮(皇太子)の地位を争うことになる。

第2皇女・ビ(※女へんに美)子内親王は1001年に生まれた。定子の忘れ形見だが、1008年に病のため夭折した。『栄花物語』にはビ(※女へんに美)子内親王が亡くなった際、一条天皇や脩子内親王が悲嘆にくれる様子が描かれている。このように、一条天皇には作中ではあまり描かれていない妃や子がいた。そんな状況で彰子が一条天皇を振り向かせるのは非常に困難だったのだ。

●「もうファイト1発にしか見えない」

第35回「中宮の涙」では、前回に引き続き1007(寛弘4)年の様子が描かれた。まひろのアドバイスを受けて、右から左に秘めた想いを一条天皇に告げた中宮・藤原彰子だったが、その真摯な告白が功を奏し、晴れてまことの妻への第一歩を踏み出した。また、まひろの弟・藤原惟規の危険な恋も印象的だった。

トップ3以外の見どころとしては、何といっても、某製薬会社のCMさながらに、左大臣・藤原道長とその一行が金峯山の断崖を乗り越えるシーンが挙げられる。Xでは「いや、もうファイト1発にしか見えない」「御嶽詣のBGM、やたら軽快で好き!」「頼通くん、すごいな!」と、迫力ある登はんのシーンと耳に残るBGMにたくさんの視聴者が反応した。また、「あんなハードな御嶽詣をド派手な衣装でこなした宣孝ってすごかったんだ」「そういえば宣孝様も行っていたよね」と、かつて黄色い衣装で御嶽詣をこなした今は亡きまひろの夫・藤原宣孝(佐々木蔵之介)を思い出した視聴者からのコメントも見られた。

次に自らの招いた過ちで、どんどん道を外していく兄・藤原伊周を止めようとしていた藤原隆家(竜星涼)に、SNSでは「隆家、素晴らしい弟だなぁ」「伊周の企みを隆家が阻止できてよかったよ」「2人が兄弟愛を確かめたのではなく、決別のシーンだったのか…」「竜星涼さんの演技、すごかった」と、2人の兄弟愛に感じ入った視聴者の声が集まった。

また、為尊親王・敦道親王という想い人を立て続けに亡くしたあかねとまひろの会話も注目を集めた。ネットでも「あかねとまひろが語らうシーン、悲しいけど美しいな」「悲しむあかねさんも美しい…」「思いに沈むあかねも美しい」と久々に登場したあかねに見とれる視聴者が続出した。『蜻蛉日記』の作者・藤原寧子(財前直見)の言葉を通じて物語を書くことを勧めたまひろだが、あかねはどのような物語を書き上げるのだろうか。今回は、「愛」をテーマに様々な人間模様が紡がれた回となった。





(C)NHK

きょう22日に放送される第36回「待ち望まれた日」では、ついに懐妊した中宮・彰子と沸き立つ藤壺の女房たちの様子が描かれる。予告では酒席でまひろに絡む藤原公任(町田啓太)や、源倫子(黒木華)ファミリー、そして久々の登場となる清少納言の姿もあった。次回は果たしてどのシーンが最も注目されるのか。

REVISIO 独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。 この著者の記事一覧はこちら