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内科医の橋本将吉氏は著書『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』で血管がいかに老化対策に必要かを説いています。一体どうしてでしょうか? その理由を著書から説明します。

マクロファージが集まって血管がぐちゃぐちゃになる

「余分な脂と糖で、血管が動脈硬化を引き起こす可能性がある」と説明しましたが、ここで、少し詳しく掘り下げようと思います。まずは、脂についてです。「コレステロールは、主にLDLコレステロールやHDLコレステロールという形で、血管内を移動している」と解説しましたが、動脈硬化にかかわってくるのはなんだったでしょう。LDLコレステロールでしたね。


このLDLコレステロールが血管にベタッとくっつくと厄介です。HDLコレステロールは、その血管にベタッとくっついたLDLコレステロールを回収する役割を担ってくれていますが、LDLコレステロールの数が増えすぎると対処できなくなって、くっついたままの状態になってしまいます。


そこで登場するのが、体を健康に保つために働いている白血球の一種、マクロファージという細胞。脂のついた血管を見て「なんだ、これは?」と異物と認識をして、バクバクバクと食べにかかります。そして、このマクロファージは、サイトカインという情報伝達物質を出して、仲間のマクロファージなどを呼び集めて、もう血管はぐちゃぐちゃな状態になります。


メディアやSNS上の不適切な発言に、いろいろな人たちが批判的な意見を多く寄せてぐちゃぐちゃな状態になるのを「炎上」と言いますが、サイトカインによって、マクロファージなどが多く集まって、血管がぐちゃぐちゃな状態になることを「炎症」と表現します。血管がぐちゃぐちゃな状態なままでは、マズいですよね。


そこで、サイトカインによって、マクロファージが集まるだけでなく線維芽細胞が増やされて、そこをふさいでいきます。「せんい」というぐらいですから、この細胞は、硬い細胞です。そうやって、いつの間にか、血管に硬いコブのようなものができる。


つまり動脈硬化が起きるわけです。ちなみに、そうした隆起は1つとは限りません。周辺に2つ3つとでき、「デコボコ血管」になってしまうと、ちょうど岩の多い川の流れのように、血液が乱流するケースもあります。つまり、血流が悪くなるので、運搬力はぐっと下がるというわけです。

血糖値の高い人の血管がボロボロの可能性が高い理由

では、次に糖のお話です。例えば、お砂糖をガリガリとかじると食道を通って胃で消化されて、小腸でさらにブドウ糖と果糖に分解されます。ブドウは果物ですからブドウ糖も果糖と似たようなものと思いがちですが、実はずいぶん違います。


ブドウ糖は、ご飯やパン、麺類、果物などに含まれていて、果糖はその名の通り、果物などに含まれています。小腸でブドウ糖と果糖に分かれたら、どちらも腸と肝臓をつなぐ門脈という血管から肝臓に入っていきます。ここからがちょっと違ってくるんです。


ブドウ糖は肝臓に移動したあと、そこに蓄えられたり、血管を巡って全身の筋肉などに蓄えられたりします。ところが、果糖は主に肝臓で代謝され、その一部は中性脂肪に変換されます。ですから、果糖が多く含まれている清涼飲料や菓子類の食べすぎは、やはり注意が必要なんです。


ちなみに血糖値というのは、血液中のブドウ糖の濃度のことです。従って、果糖が直接的に血糖値を上げることはありません。ただし、果物=果糖だから、果物類をバクバク食べても大丈夫と考えてはいけません。説明した通り、果物にもブドウ糖は含まれていますし、肝臓で中性脂肪になり脂肪肝などのリスクがあることをお忘れなく。


ブドウ糖が血管を通って筋肉に取り込まれる仕組みが面白いので、少し詳しく説明したいと思います。血管内をブドウ糖が流れていても、筋肉の細胞には細胞膜という仕切りがあるので、勝手には入ってこられません。ここで登場するのが、グルコーストランスポーター4です。


かっこいい名前ですね。グルコースはブドウ糖のことで、トランスポートは、輸送や運搬を意味しています。つまりは、ブドウ糖の運び屋。やっていることもかっこいいですね。このグルコーストランスポーター4が、細胞膜に移動し、人間でいう口のような役割をして、ブドウ糖を取り込んでくれるんです。


取り込まれた糖は、細胞でエネルギー源などになります。グルコーストランスポーター4は常時、活動しているわけではありません。あるタイミングで細胞膜に移動してきます。その合図を出しているのが、皆さんご存じのインスリンというホルモンです。食後などに血液中のブドウ糖の濃度、つまりは血糖値が高くなると、胃の後ろにあるすい臓という臓器からインスリンが出ます。


血中に出たインスリンは筋肉の細胞などにくっついて「ブドウ糖を取り込んでくれ〜」と合図を出して、それにグルコーストランスポーター4が反応して、ブドウ糖を取り込むという仕組みです。これが私たちの知らないところで自動で行われているわけですから、人体は知れば知るほど面白いものです。


では、なぜこれらの機能があるのに常時、血糖値が高い状態、つまりは糖尿病になってしまうのでしょうか。それはインスリンの分泌量が低下したり、インスリンが出ているのに、各細胞の反応が悪くなったりするからだとされています。だから、糖が血管内に残ってしまうというわけです。その原因の1つをわかりやすく言えば「慣れ」です。


ずっと血糖値が高い状態だとすい臓が疲れてしまい、インスリンの量が減ってしまったり、インスリンがずっと多い状態だと、「また?」といった感じで各細胞の反応も悪くなってしまったりして、血液の中に糖が残ってしまうんです。


血糖値を上げないために糖分の多い菓子類や、ジュース類を節制するとか、血糖値を安定させるために一度に大量の食事をとらないといった心がけが大切になるのです。ちなみに、「日本人のすい臓は、外国人のすい臓よりも弱い」と言われています。


食の欧米化によって、日本人の健康が脅かされているなんて意見もありますが、体のつくりが違うので、欧米人にとっては平気でも、日本人にとっては危ないということは往々にして考えられるのです。


さて、血管内に糖が多くあるとどうなるのか。これは、脂肪のときとほとんど同じ理屈です。糖が大量にあると、血管の壁に、糖がくっつきやすくなります。そして、糖が血管の壁にくっつくことを「糖化」と言います。糖化が起きると、白血球が「なんだこれは?」と異物認定してしまい、LDLコレステロールが血管の壁にくっついたときの、あの「炎上」ならぬ「炎症」の惨劇がまた繰り広げられるのです。


最後に、糖からつくられる中性脂肪についてもお話ししておきます。中性脂肪が増えすぎると、肝臓は中性脂肪をVLDLという形にして、全身に運ぼうとします。このVLDLが、さまざまな変遷を経て、最終的にLDLコレステロールになるのです。また中性脂肪は、LDLコレステロールを抑制してくれる役割を持つ、HDLコレステロールの機能低下を招くといわれています。


その結果、LDLコレステロールが血管に悪さをしやすくなるのです。ここで、1点注意しておきたいのは、中性脂肪の増加は要注意ですが、少なすぎてもいけないということ。先ほども述べたように、中性脂肪は蓄電池。少なすぎると、体がエネルギー不足になってしまうのです。


悪くすると、慢性的な疲労や頭痛、めまいに悩まされたりする場合もあります。健康診断において、中性脂肪の値が29mg/dl以下の場合にも異常値と判断されるので、それに近い人は、注意が必要です。何事もほどほどが大切というわけです。


さて、ここまでで血管がどれだけ重要か、高血圧、高脂肪、高血糖がどういう状態かを説明してきました。解決方法が知りたいのに、説明が長いとイライラしている方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。ですが、体の中でどのようなことが起こっているかをイメージできることは、とても大切だと私は考えます。


それは、単純に「〇〇がいいですよ」「〇〇食べないでね」などとお伝えするだけでは、なかなか続けることが難しいからです。例えば、油もの、甘いもの、塩っけがあるもの、おいしいですよね! この誘惑に完勝できるほど、人間は強くはありません。また、前段も述べているように、血管の劣化は、なかなか気づけません。甘いものを食べたからといって、体の変化にすぐ気づけるかといえば、そうでもありません。


「食べたら死ぬよ」という毒物なら皆さんも食べないと思いますが、すぐに変化がないものなら「まぁ次から気をつければいいか」となってしまいがちなのです。そこで、「塩分がたくさん入ったものを食べて血圧が上がったら、血管がぶくぶくになるよ」とか、「脂や糖をたくさん食べたら、血管がデコボコになって、栄養が体中に回らなくなって元気がなくなるよ」といったことを、イメージできるように、ここまで説明してきました。


塩分、糖、脂、そういったものを食べすぎているなと思ったとき、それらを食べることで、どうなる可能性があるのかを理屈として、しっかりイメージできるようになったら、「今日はちょっと控えておこうかな」とか、「血管にいい食べ物を食べてみようかな」「血管にいいことをしてみようかな」といった思いになりやすいのではないかと考えたからです。


こうした生活の中で、徐々に気をつけるシーンが増えていくことが、あなたのこれからの人生を楽しく送れる健康な体をつくることに、大きく役立ってくれるはずです。

橋本将吉
内科医