フロッピーディスクは1980年頃からパーソナルコンピュータ用の磁気ディスクとして広く普及し、2000年代にCDやDVDなどの光ディスクドライブが標準となるまで使われた記録媒体です。扱えるデータ量も数10KB〜数MB程度と小さく、光ディスクのように複雑なコピーガードを組み込むことは難しいのですが、それでも存在していたフロッピーディスクのコピーガードの仕組みについて、技術系ブロガーのGloriousCow氏が解説しています。

PC Floppy Copy Protection: Formaster Copy-Lock

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PC Floppy Copy Protection: Softguard Superlok

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フロッピーディスクは1970年代初頭に8インチ(約200mm)のものが最初に開発され、1976年に5.25インチ(約130mm)に小型化されたものが登場。その後、1980年に登場した3.5インチ(約89mm)まで小型化されたフロッピーディスクが最も普及し、容量は1985年に登場した1.44MBのものがスタンダードでした。フロッピーディスクは中の磁気ディスクを毎分300回転で動作させており、磁気を帯びた中の磁気ディスクが回転することで変化した磁界による電気信号に基づいて動作します。

かつて広く使われていた「フロッピーディスク」についてプログラマーが解説 - GIGAZINE



フロッピーディスクのコピーの歴史としてGloriousCow氏がまず挙げたのは、Formasterというカリフォルニア州の会社です。以下の画像は、コンピューターテクノロジーの歴史に関するブログであるVintage Computing and Gamingが公開している1983年の雑誌のスキャンで、 Diskette Duplicators(フロッピーディスク複製装置)である「Formaster Series One」という商品を宣伝している広告です。Formaster Series Oneは、独自のデータを含むフロッピーディスクを大量に複製できるだけではなく、各ディスクに基本的なコピーガード機能を追加することもできたそうです。Formaster社は自社のコピーガード技術を「Copy-Lock」と呼んでいました。



GloriousCow氏によると、Formaster Series Oneはディスク構造にあえて不良なセクションを組み込むことで、「フロッピーディスクからPCへの読み取りは可能だが、PCからさらにデータを回収(コピー)することができない」という仕組みとなっていたとのこと。意図的に不良なセクションを設けるのはさまざまなコピーガード技術で基本的かつ効果的ですが、Copy-Lockは単純な不良データチェックよりも少し高度な機構だったそうです。

次に、GloriousCow氏は1983年に設立されたSoftguard Systemsというソフトウェア会社を挙げています。Softguard Systemsはコピーガード製品「SUPERLoK」をリリースし、1985年までにコピーガード技術の業界リーダー的存在になりました。初期のSUPERLoKはコピーガードを備えるために専門的なディスク複製が必要でしたが、最終的には標準的なフロッピーディスクのコントローラで書き込み可能な「SUPERLoK KIT」が製造されました。

以下は、当時のシエラエンターテインメントが1980年にリリースしたコンピューターゲームのKing's QuestのディスクをGloriousCow氏が再現したもので、左が初期のディスク、右がMS-DOS版のもの。GitHubで公開されている「フロッピーディスクイメージライブラリ」から作成されています。画像右のMS-DOSは、外周にオレンジで示しているセクターがありますが、このセクターがグリーンやグレー、ブルーの各セクターと「重なり合っている」という点が特徴的です。



シエラエンターテインメントはもともとFormaster Series Oneを使ってディスク複製をしていましたが、コピー保護方式に関してはKing's Questの一部バージョンでCopy-LockからSUPERLoKに切り替えました。GloriousCow氏によると、Copy-Lockではディスクの表面に「一部の不良セクション」を用意することでコピーを防止しましたが、SUPERLoKでは通常ではあり得ない長さのフィールドを作る「重複セクター」を採用しており、全体的に通常のディスクとは見た目が異なっているとのこと。この重複セクターは、通常のコピー方法ではディスクの内容を完全にコピーできないため、専用の機構でしかコピーできないコピーガード機能として役立ちました。

また、シエラエンターテインメントのアドベンチャーゲームは、ディスクの特別なコピー保護トラックから128バイトの暗号キーを読み取ることで、複製を対策していました。ゲームをPCで起動するとオリジナルディスクの挿入を求められ、ディスクが検証されて実行ファイルをデコードします。その後、プレイディスクを挿入することで、ゲームをプレイディスクに保存するという流れになります。この際、オリジナルディスクが正規なものでない場合には、暗号キーの読み取りなどが通過できず、繰り返しオリジナルディスクを要求され続けます。GloriousCow氏は「確かな証拠はありませんが、暗号キー用の隠しファイルは、Softguard Systemsがシエラエンターテインメントのために特別に提供したものだと推測しています」と述べています。



1987年にタイトーがリリースしたアルカノイドシリーズ2作目となる「アルカノイド リベンジ オブ Doh」でも、SUPERLoKによる保護が採用されました。King's QuestはSUPERLoK 2.3を使用していたのに対し、アルカノイド リベンジ オブ DohはSuperLoK 3.0を使用していたため、エミュレーターで動作しなかったり潜在的な弱点が回避されたりと、より強固なコピーガード機能が備わっていました。



SUPERLoKは強力なコピーガード機能を備えている一方で、それに対抗する敵対的なシステムも登場しています。マルウェア開発者やクラッカーがSoftguard Systemsに中傷キャンペーンを繰り返し実施していたほか、Central Point Softwareの「Copy II PC」という製品は、SuperLoK 3.0を削除できると宣伝されていました。さらに、Central Point Softwareはアンチコピーガードソフトウェアだけではなく、通常のドライブでは認識できない磁気パターンを捕捉してディスクの内容やコピーカードを解析・再現できるハードウェア製品も製造しており、これによりソフトウェアでは処理が難しいコピーガード機能も乗り越えて複製できるようになっていたそうです。ウワサによると、最終的にSoftguard SystemsとCentral Point Softwareは「コピーは作れるが、コピーのコピーは作成できない」という拡散防止の契約を結んだと言われています。

最終的に、コピーガード機能とアンチコピーガードのいたちごっこは採算に合わないとみなされ、フロッピーディスクベースのコピーガード機能は一部のパブリッシャーでは完全に廃止されていきました。Softguard Systemsはコピーガード以外の製品も開発していましたが、最大の収入源だったコピーガード製品を失い、1992年までに廃業しました。