由薫が9月6日、EP『Sunshade』をデジタルリリースした。同EPには、ドラマ『笑うマトリョーシカ』主題歌にしてEP表題曲をはじめ、6月のツアーで披露された「もう一度」、ONE OK ROCKのToruと共作した「ツライクライ」、本⼭製作所CMソングであり壮大なバラード「勿忘草」、全編英詞のインディーポップ「Clouds」といった全5曲が収録される。いずれも由薫のバラエティに富んだ音楽性を感じられる仕上がりだ。

◆由薫 画像 / 動画

総再生数4億回を突破したドラマ『星降る夜に』主題歌「星月夜」や「lullaby」「No Stars」に続いてONE OK ROCKのToruとの共作は回数を重ね、由薫曰く「自分が今どういう感じなのか、どう変化していっているのかがすごくわかる」というセッションが名曲を生み出した。加えて、これまで実施してきた海外での制作やライブ活動が収録された5曲に凝縮され、1曲1曲の濃度や密度が増して輝かしい。

BARKSでは、これら個性に富んだ1曲1曲について話を聞きつつ、メジャーデビューから2年、24歳の現在地についてじっくりと語ってもらった。


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■終わりを想像することは
■今を生きることにつながる


──デジタルEP『Sunshade』表題曲の「Sunshade」はTBS系金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』主題歌ですが、実際にドラマをご覧になって作品と曲との関係性にはどんな印象を持ちましたか?

由薫:ドラマタイアップは何度か担当させていただいていますが、今回のドラマは展開もスリリングで、特に没入して観ていますね。“次どうなるの!?”っていうタイミングで自分の声が聴こえてくるので、毎回それにびっくりしています(笑)。

──反響も大きいですね。

由薫:ドラマを観ている方がどんなリアクションをしてくれるのか気になっていたんですけど、個人的には皆さんいい意味で惑わされてるなと思ったというか、それがこの曲でやりたかったことでもあったので嬉しいです。ドラマの内容に皆さんが惑わされるように、この曲でも揺れ動いて欲しかったので、そういう意図がちゃんと届いているのかなって。


──ドラマにぴったりの曲となりましたが、制作はどのように進んでいったんですか?

由薫:まずドラマタイアップのお話をいただいて、そこからToru (ONE OK ROCK)さんと「どんなふうにしましょうか」という感じでコライトしていったんです。前回Toruさんとご一緒した「星月夜」は恋愛ドラマ(『星降る夜に』)主題歌だったんですけど、今回はサスペンスドラマで。「また全然違うテイストですね」ということで、どういう曲がよいのかを話し合ってから作っていったんです。サスペンスだからハッピーっていう感じではないけど、かといってダークすぎずという、その間を狙う感じでまずは曲作りをしていきました。

──最初から今回の曲はToruさんとのタッグでいこうと?

由薫:そうですね。前々から「セッションしましょう」というご連絡をいただいていて、そこにドラマ主題歌のお話がきて、「いいタイミングですね」となったんです。Toruさんとご一緒するときは毎回、自分が今どういう感じなのか、どう変化していっているのかがすごくわかる、という感覚があって。自分自身の現在地を知る機会にもなっているんです。

──由薫さんとしては今回のToruさんとの制作でどんなことを一番感じましたか?

由薫:これまではとにかくがむしゃらで、Toruさんが投げるボールを全力で走って取りにいく感じだったんです。そこから今は少し、ミュージシャンとして知識もついてきた部分があって。自分から、「もっとこうしたほうがいいかもしれない」という提案ができたり、自分のなかの引き出しがちょっと増えたのかなと思って。今回、より建設的に会話をすることができたのは、嬉しかったところでしたね。Toruさんもそれに気づいてくれて、お褒めのお言葉をいただいたりして、自信にもなりました。


──楽曲「Sunshade」は“光と影”がテーマにあるそうですが、Aメロ、サビ、Aメロ、サビという展開自体にも、光と影のようなコントラストを感じます。この曲の構成も最初の段階から出来ていたものですか?

由薫:そうですね。BPMとかを決めるところから始まって、早い段階からこの形はありました。Bメロがないことで一気に洋楽っぽくなるなと思うんですけど。今回はToruさんと「できるだけ歌詞に英語は入れない方向にしよう」と決めていたので、サウンドに洋楽っぽいところもバランスを図る意味で入れたいなというのはありました。

──シンプルな展開だからこそ、言いたいことをより凝縮して、端的に書いていくような難しさがありそうですが、実際はどうでしたか?

由薫:たしかに、言いたいことを凝縮するというのはテーマでもありましたね。特に『笑うマトリョーシカ』というドラマ自体が、誰が黒幕として中心にいるのかがわからなくなっていく…そこを探っていくような内容でもあるので。主題歌というと主人公の心情やドラマのメインテーマに焦点を当てるものが多いと思うんですけど、今回は、対象となる人が誰なのかを問うドラマでもあって。誰かひとりに寄り添ってオーダーメイドのように曲を作るというよりは、作品のテーマを引き取って、私のなかで物語を作っていく感覚でした。もちろんドラマの内容を汲んだものでもあるので、エピソードによっていろんな登場人物の曲に聴こえたら、“マトリョーシカ”という主題と曲がマッチするのかなと思ったので。
──それがまさに、最初におっしゃっていた「皆さんが惑わされる感じ」ですね。

由薫:主題歌のお話をいただいて、ドラマの原作を読んだときに、そういう曲にしたいと思いました。じゃあどこを糸口に歌詞を書いていくのかについては、盛り込みたいテーマが多すぎて、どうやってこのワード数に収められるか…そこは悩んだ部分ですね。コライトの良いところは、自分の考えや思っていることを誰かと話し合いながらできるので、自分のなかで整理がついていくんですよね。それはありがたいなって思いました。


──由薫さんが歌詞を書くうえで糸口にしたのは、原作のどんなところですか?

由薫:私の糸口は“日傘”でした。原作となる小説を読みながら印象的なところに付箋を貼っていったんですけど、それが登場人物のひとりが持っていた日傘で。日傘は英語にするとSunshade、“絶対これだ!”って思ったんです。“Sun”と“Shade”、“太陽”と“影”という相反する言葉を含む”Sunshade”をタイトルにしようと思って。そこから、太陽と影ということで、太陽について考えて…その頃ちょうど友だちとの会話で、「今日が世界の終わりだったら何する?」みたいな話をしていたんですけど。

──ずいぶんと究極的な内容ですね(笑)。

由薫:はい(笑)。「世界の終わりの日に何を食べるか?」とか「どんなふうに過ごすか」みたいな話のなかで、「友だち呼んでパーティする」とかそんなライトな内容だったたんですけどね(笑)。そういう友だちとの会話とかもそうですけど、“世界の終わり”っていうテーマが今、自分のなかでホットな話題で。この夏の暑さもそうですし、気候変動であるとか地震とか、いろいろな異常事態が起こったりしているのは、2000年生まれの私にとってはずっとタイムリーな話題でもあるんですね。2000年と言えば、世紀の変わり目で世界が終わるかもしれないみたいな話もあったと思うんです。

──ノストラダムスの大予言やY2K問題もありました。

由薫:みんなそれを冗談半分で言っていたかもしれないけど、本当にそうかもしれないって心のどこかで思っていたかもしれない。でも今だって、誰ひとり明日が確証されているわけではないですよね。終わりを想像するということは、逆に“今”という時間を生きることにつながるんじゃないか、という話をToruさんにもしながら曲を書いていたんです。こういう大きなテーマを歌うからこそ、ちゃんと“君と私”という一対一の具体的な関係性で描きたいと思いましたし。本当に「Sunshade」の歌詞を書いていたときは、いろんなことを考えて、あっちに行ったりこっちに行ったりしながら、何とかまとまったかなと思います。

──ダークでペーソスが滲みながらも、前を向いている光を感じるのはそれゆえですね。

由薫:そうかもしれません。

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■EPでは誰と誰の関係の愛なのかを
■1曲1曲、磨きたいと思った


──そしてもう1曲、Toruさんとのコライト曲が「ツライクライ」です。こちらは「Sunshade」制作の延長で一緒に、という感じですか?

由薫:というよりも、「ツライクライ」はリリースがあるから制作しようとかでなく、ただ一緒にセッションをしようと誘っていただいて作っていた曲でした。普段は私がテーマを持って行って、そこからスタートすることが多いんですけど、これは元々Toruさんが書いていたサビ部分の“君をツライクライ嫌いになったって 決して忘れることはないんだろう”に対して、私がアンサーするという感じで作っていったんですけど。与えられたものに対して、まずどういうことなんだろうって考えたりとか、それを考えながら生活をしたり。それで自分の答えを出すっていうのが新しかったし、楽しかったんです。

──サビからどんなイメージを膨らませていったんですか?

由薫:私が最初に聴いたときに思い浮かべたのは、雨のなかで若者がワーって歌っているイメージで。“愛”とか“世界”とか大きなワードを使っているのが、逆に若いというか未熟な感じがして。それってすごく青春だなって思ったんです。その青春のキラキラとした感じを、人生の一瞬を、恥ずかしがらずにしっかりと書いてみるのもいいなと思って。これも本当に制作が面白くて。“この音が”とか“この歌詞が”良いとか悪いとかのキャッチボールじゃなくて、制作のなかで「青春とか恋愛ってなんなんだろうね」って話をしながら作っていったのも新鮮でした(笑)。



──充実した制作となりましたね。8月に先行リリースとなった「勿忘草」は、ピアノと歌とでエモーショナルに始まる、美しくも力強い曲です。どんなふうに生まれた曲ですか?

由薫:これもコライトで、野村陽一郎さんと制作した曲です。インディーズ時代から曲のアレンジをしていただいたり、個人的にはギターを習ったりもしていたので、野村さんは私の歩んできた道を知っているというか。1stアルバム『Brighter』を作る過程で悩んでいたことも知ってくれていて。アルバム『Brighter』の最後の曲「brighter」も野村さんと作った曲なんですけど、そのときに改めて“曲を作るということが、ヒーリングというか自分を前に進めてくれるもので、心にとってすごく大切な作業だ”ということを思い出させてくれたんです。このコライトも、特にリリースを目指していたとかではなくて、ただ音を楽しむために遊びで作った曲のデモを広げていったもので、それが「勿忘草」なんです。

──音を楽しむところから、どういったことが歌のテーマとして出てきた曲でしたか?

由薫:野村さんのお子さんも仲良くしてくれたり、家族ぐるみで親交があるんですけど。そういう意味でもコライトしているときに、家族とかが頭に浮かんでいましたね。曲を作り上げていくなかでタイアップ(本山製作所CMソング)のお話をいただいて、そのタイアップのテーマが“つながり”だったので、“まさにこの曲で歌いたかったことがテーマだな”と思って。ただこれまで、愛は人と人との間に生まれるものだから、恋人や友だちや家族に向けもいいし、あまり誰が誰にというのは関係ないと思っていたんです。でも、今回のEP『Sunshade』ではそこを曖昧にせずに、誰と誰の関係の愛なのかを1曲1曲磨きたいと思ったんです。


──なるほど。「勿忘草」はどんな愛でしょう?

由薫:家族の愛ですね。私自身、音楽を作り始めた時期は、孤独感に飲み込まれていて、確固たるものを探すように曲を作っていたし、人とのつながりを求めて曲を作っていたんです。だけど振り返ってみると、その孤独のなかでも私が目を向けていなかっただけで、必ず誰かがそばにいて、背中を見せてくれていたし、逆に私の背中を見てくれていたりしたんだなと思って。自分が渡したい愛だけじゃなくて、知らず知らずのうちに受けていた愛がしっかり自分のなかに刻まれていることを感じたんです。年齢的にも大人の仲間入りをして、反抗期の頃は天邪鬼で見えなくなっていた部分を振り返ってみるという意味で、歌詞を書いていきました。

──とても素直に、自分の思いを書いていますよね。

由薫:それが音楽のいいところですよね。グッドメロディに引き出された歌詞というか。自分でも気に入ってます。やっぱり直接言えないことのほうが多いですし、それを代弁してくれたり、気づかせてくれたり、心に入り込んでくれるのは、音楽のいいところだと思うので。みなさんにとってもそうであったらいいなと、素直に書きました。


──振り返ってみると、長い反抗期だったなと思うところってありますか?

由薫:反抗心が自分の根本にあることは感じています。環境に依るところも大きいんですけど、人生で自分を見失いそうになることが多かったなと思いますし。何かに抗うことで自分をわかるみたいなところがあったんです。でもある程度人生を歩いてくると、振り返って、素直にいろんなことを見つめられるんだなと思いました。そういう意味でも、今まででは歌えない、辿り着けなかった歌詞を書くことができたかなって。

──「もう一度」は5月に配信リリースされましたが、こちらはライブで一緒に歌えるような晴れやかな曲となりました。実際ライブでも披露されていますが、感触はどうですか?

由薫:歌っていてすごく楽しいんですよね。ライブで「もう一度」をみんなで歌っている映像を見たのですが、私、すごく楽しそうって思いました(笑)。シンガロングってやっぱりいいですよね。特にコロナ禍では一切できないことでもあったし。コロナ禍のときに私、海外の人たちがアパートの窓越しに一緒に歌ったりしている映像とか、オアシスのライブ映像でみんなが一緒に歌っている映像を観て泣いてたんです(笑)。一緒に歌うっていいなと思いました。シンガロングするっていうことに対して漠然といいよなあっていう思いがあったんですよね。


──ちょうどデビュー時期がコロナ禍で、みんなで歌えるようなライブができなかったこともありましたしね。

由薫:はい。人と人との声が重なるっていいなって。これからもライブで歌うことで、育てていきたい曲ですね。

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■チャプター1を閉じて
■チャプター2に進んでいく


──「Clouds」は今回のEPで唯一、全編英語詞の曲です。サウンドも洋楽のインディーロックのような手触りですが、どういうアイデアからですか?

由薫:思い切って全部英語の歌詞にしようということで。この曲は、高慶(高慶“CO-K”卓史)さんと、遊びのようなセッションをしていて、当時お互いが聴いていた曲とかを共有しあって、「今、こういうの面白いよね」っていう感じで作っていったんです。だけどしばらくして、そのデモ音源を私がなくしてしまって。でもずっと頭のなかにメロディがあったんですね。こうしてずっとメロディを覚えているっていうのは、ちゃんと曲が生きてる証拠だなと思って、今回のEPを作るにあたってデモを見つけ出してもらったんです(笑)。改めて聴いてみたらやっぱり楽しくて、完成させたいなって。


──どんなことがテーマになりましたか?

由薫:元々はちょっと違う歌詞だったんですけど、レコーディングの前日に“違う!”と思って書き直したんです。この曲は全部が英語詞だからこそ、日本に住んでいる自分のアイデンティティみたいなものを入れ込みたいと思ったので。結果、大学生のキャンパスライフを思い浮かべながら書いていたんです。日本では大学生って人生の夏休みって言ったりしますけど、受験を乗り越えて入学した安心感と、これから大人ってものにならなきゃいけない漠然とした不安の狭間で揺れ動いたり。そこから目を逸らすように楽しく生きていく感じがあると思うんです。そういう、どこかで不安を抱えながら東京の街を楽しく歩くっていう、あの頃のことを思い出しながら書いていましたね。

──なるほど。

由薫:「勿忘草」もそうでしたけど、アルバム『Brighter』で自分なりに由薫のチャプター1を閉じて、チャプター2に進んでいくなかで、子どもと大人との狭間というか…もう大人側に入る立場になってしまったという考えも、この歌詞に反映されているのかなって思うんです。英語詞ではあるんですけど、そういう意味で他の曲とも共通するし、どこかの曲の君と同じ君なんじゃないかとか、そんなふうに受け取ってもらえたらいいなって思います。


──今回のEPの曲は、音楽的な成長はもちろんですが、由薫さんの心境的にも大事な局面を切り取って記した作品で。大事な作品になっていきそうですね。

由薫:気持ち的には19歳で、コロナ禍の前で止まっている感じなんですけど、そうも言っていられないなって(笑)。特に最近は、自分を振り返る機会が多かったので。次のチャプターに行くっていうことは、いろいろ受け入れるということなのかもなっていうのがありましたね。一回飲み込んでみて、どんな歌詞が書けるのかなっていうのも今回の『Sunshade』ではあったかもしれない。アートワークは、Tシャツを着てお散歩するくらいの飾らない感じでいろんな写真を撮っていって、それをミシンで縫い合わせたものになっているんですけど。まさにこのアートワークの素の自分というか。アルバム『Brighter』を経た、現在の自分のありのままを表現したという感覚です。

取材・文◎吉羽さおり
撮影◎野村雄治

◾︎NEW EP『Sunshade』

2024年9月6日配信開始
配信リンク:https://lnk.to/yu-ka_sunshade-ep
1. 勿忘草
 (『本山製作所』CMソング)
2. もう一度
 (『本山製作所』CMソング)
3. Clouds
4. ツライクライ
5. Sunshade
 (TBS系金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』主題歌)






◾︎<由薫Live “After Sun”>

2024年11月1日(金) 東京・代官山UNIT
open18:00 / start19:00
(問)ホットスタッフ・プロモーション 050-5211-6077
▼チケット
・スタンディング:5,500円(税込)
・スタンディング(直筆サイン入りポスター付き):6,600円(税込)
※サイン入りポスター付きチケットは、オフィシャル先行のみの取り扱いになります。
※ご入場時ドリンク代別途要
枚数制限:お一人様各公演4枚まで
年齢制限:未就学児童入場不可
※電子チケット、紙チケットの取り扱い
【一般発売】
販売開始:9月7日(土)10:00
※予定枚数に達し次第、受付終了
https://l-tike.com/yu-ka/


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