下2食堂
「食」を軸にして、市井の人々の日常を描き続けていることも多いエッセイストの大平一枝さん。新たなテーマとして選んだのは、都会の「定食屋」。

 どの街も小ぎれいなチェーン店が看板を連ねるなか佇む大衆食堂は、古めかしかったり、逆に即席感あふれるつくりだったりと異彩を放つ存在で、なんとなく気にはなるものの通り過ぎてしまう……という人も多いのではないでしょうか。

 大平さんも、もれなくそのひとりだったのだそう。

◆うまくて安い「定食屋」には、みな物語がある

「最初は、『このご時世にあの値段で儲けはあるのか?』を探ろうと取材をスタートさせたんです。だって貸したり、駐車場にしたりすれば確実に稼げる立地にあるのに、あえてそれをせず、利益率が低いとされている食堂を粛々と経営しているわけですからね。なにかからくりというか、裏があるんじゃないかって(笑)」

 しかし、取材を続けるうちにわかったのは、そんなものはなにひとつなく、ひたすら手間ひまをかけること「だけ」だったという。

「それこそ、70〜80代の方々が現役で戦力になっていたりと、家族総出の経営ゆえ成り立っているお店が大半でした。先代から続く店の火を消すわけにはいかない、常連さんたちをがっかりさせたくない……そんな気持ちでギリギリのところを踏ん張っているんです。

 当然、迷いや葛藤もつきまといながら。今回の本では、それぞれの店のおいしさの奥にある背景というか、お店の覚悟を含めた魅力を掘り起こせたかな、とは思っています」

 その本こそが、8月に発売された著書『そこに定食屋があるかぎり』。各店のグルメポイントもしっかりとおさえつつ、読後は少しほろっともさせられます。

◆大平流「うまい定食屋の見分け方」

 本書に掲載されている店は20数軒ですが、実際はその4〜5倍の定食屋に足を運んだという大平さん。少しずつ「良店」を見分けるコツもつかめてきたとのこと。

「まず、みそ汁にこだわっているところでしょうか。みそ汁って最初に口につけるから、一瞬でこの店の良しあしを判断されてしまうんですね。

 それをわかっている店は、みそ汁に真摯に向き合っていますね。そしてお漬物はたいてい自家製。揚げ物に添えるせん切りキャベツも、パリッと歯あたりがよく新鮮でした。

 ほんのちょっと添えるフルーツも、旬の生のものだったり。あと、定番以外のメニューが手書きの店は、季節に合わせて旬の食材を積極的に使っている証でもあるから信頼できると思いますよ」

◆つっけんどんで不愛想なことも共通点!?

 さらに、結構な割合で「不愛想」であることも共通していると大平さんは続けます。

「料理をいかに早く提供することのほうが重要だと考えているから、笑顔を振りまく余裕なんてない、というほうが正しいかな。だから、取材をお願いしても“そんなヒマない”とつっけんどんに断られるケースも多くて。

 担当編集ともどもがっくりしつつも、“取材を受ける時間があったら、お客さんのために費やしたいという気持ちも、わからなくはないよね”なんて妙に納得したりして(笑)」

◆「定食屋呑み」を女子のニューカルチャーに!

 さまざまな定食屋を経験したいま、大平さんが提唱するのは「定食屋呑み」! 先日も女3人で存分に楽しんできたばかりなのだとか。

ランチ時以外なら、じつは長居歓迎というお店も多いんですよ。コロナ禍に大打撃を受けた店も多く、利益率の高いお酒はお店側としてもうれしいようです。私は、ひとりのときは混雑時を避けてあとから入店し、瓶ビールといっしょに定食を楽しんでいます。複数で行くときは焼酎のソーダ割りで酔っ払って。