新潟2歳Sに出走予定のコートアリシアン(撮影:下野雄規)

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【文・構成:伊吹雅也(競馬評論家)=コラム『究極のAI予想!』】

netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)

◆伏兵が波乱を演出した年はそれほど多くない

AIマスターM(以下、M) 先週は札幌記念が行われ、単勝オッズ14.5倍(5番人気)のノースブリッジが優勝を果たしました。

伊吹 強かったですね。好スタートを決めてスッと好位に取り付き、道中は単独2番手のポジションを追走。逃げていたアウスヴァール(7着)との差を3コーナーから少しずつ詰めていき、4コーナーを周り切ったところで並びかけています。ゴール前の直線に入ってすぐアウスヴァールを突き放すと、その後は独走態勢に。ジオグリフ(2着)が先団からしぶとく伸びて迫ったものの、結局1馬身3/4のリードを保ったまま入線しました。

 おそらくですが、鞍上の岩田康誠騎手は今回のようなレース運びをあらかじめ思い描いていたはず。これだけ付け入る隙のない競馬をされてしまうと、他の馬たちはなす術がありません。完勝と言って良いでしょう。

M ノースブリッジは自身3度目の重賞制覇。4歳時のエプソムC、5歳時のAJCCに続くタイトル獲得となりました。

伊吹 しばらく勝ち切れていなかったとはいえ、前走のクイーンエリザベス2世Cではロマンチックウォリアー(1着)、プログノーシス(2着)に次ぐ3着を確保。以前にも増して逞しくなった印象です。6歳馬ではあるものの、間隔をあけながら使われてきたこともあり、今回が通算18戦目。まだまだ伸びしろはあると思います。

M そうなると、この秋も目が離せませんね。

伊吹 母のアメージングムーンはデビュー3戦目のファンタジーSで3着に健闘した実績のある馬。半弟タッチウッドはデビュー2戦目となった2023年の共同通信杯で2着に食い込みました。この両馬に比べると出世は遅れましたが、もともとポテンシャルの高い血統。更なるビッグタイトルを獲得する可能性は十分にあると見るべきでしょう。今秋は香港Cを目標とするようですけど、天皇賞(秋)などを使うようであればそちらも楽しみです。

M 今週の日曜新潟メインレースは、現2歳世代にとって2つ目のJRA重賞となる新潟2歳S。昨年は単勝オッズ3.7倍(1番人気)のアスコリピチェーノが優勝を果たしました。

 ちなみに、その2023年は単勝オッズ79.1倍(10番人気)のショウナンマヌエラが2着に、単勝オッズ6.5倍(4番人気)のクリーンエアが3着に食い込み、3連単18万1860円の好配当決着。波乱含みの一戦と見ておいた方が良いのでしょうか。

伊吹 前回こそ伏兵が健闘したものの、2018年から2022年までの計5回はいずれも3連単の配当が2万円未満。2014年以降の過去10年まで集計対象を広げても、3連単の配当平均値は6万1800円、配当中央値は1万6195円にとどまっています。少頭数になりがちなこともあって、人気薄の馬が馬券に絡んだ例はそれほど多くありません。

M 連対馬20頭のうち15頭は単勝3番人気以内。前評判が高い馬を素直に信頼するべきレースと言えそうですね。

伊吹 対照的に、単勝4番人気から単勝8番人気の馬は2014年以降[1-2-5-42](3着内率16.0%)、単勝9番人気以下の馬は2014年以降[0-2-0-57](3着内率3.4%)となっていました。今年も特別登録を行った馬が11頭しかおらず、全馬が出走してきたとしても2014年以降で最少タイの頭数となってしまう状況。堅めの決着をイメージしたうえで買い目作りに臨むべきでしょう。

M そんな新潟2歳SでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、コートアリシアンです。

伊吹 話の流れ的にもちょうど良い馬を挙げてきましたね。未知数な部分もあるとはいえ、今回のメンバー構成ならかなりの支持が集まるはず。

M コートアリシアンはデビュー戦の前走が2着馬に5馬身差をつける完勝。母のコートシャルマンは2015年のフェアリーSで4着に食い込んでおり、2012年の安田記念を勝ったストロングリターン、2013年の桜花賞で2着となったレッドオーヴァルが近親にあたります。他にも注目を集めそうな馬はいますが、場合によっては単勝1番人気の立場でレースを迎えることになるかもしれません。

伊吹 父のサートゥルナーリアは現2歳世代が初年度産駒で、JRAのレースにおける戦績はこれまでのところ[6-2-3-13](3着内率45.8%)。勝ち馬率が30.0%に達していますし、上々のスタートを切ったと言って良いでしょう。コートアリシアンの陣営はもちろん、サートゥルナーリアの関係者にとっても特別な意味を持つ一戦ですね。Aiエスケープが有力視している点を踏まえたうえで、私はレースの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていきたいと思います。

M 真っ先に注目しておくべきポイントはどのあたりでしょうか?

伊吹 まずは臨戦過程を素直に評価したいところ。2019年以降の3着以内馬15頭中13頭は、前走が1400m超のレースでした。

M 今回より短い距離のレースを経由してきた馬は、疑ってかかった方が良さそうですね。

伊吹 ちなみに、前走の距離が1400m以下、かつ生産者がノーザンファーム以外の馬は2019年以降[0-0-0-23](3着内率0.0%)とまったく上位に食い込めていません。昨年の新潟2歳Sを制したアスコリピチェーノもノーザンファーム生産馬。この条件に引っ掛かっている馬は、思い切って評価を下げるべきだと思います。

M コートアリシアンの前走は東京芝1600mのレース。相応に高く評価して良いのではないでしょうか。

伊吹 あとは馬格も見逃せないファクターのひとつ。同じく2019年以降の3着以内馬15頭中14頭は、前走の馬体重が450kg以上でした。

M 小柄な馬は過信禁物、と。

伊吹 3着以内となったのは2022年1着のキタウイングのみ。人気を集めていた該当馬が少ないとはいえ、これだけはっきりと明暗が分かれているわけですから、しっかりチェックしておきたいところです。

M コートアリシアンは前走の馬体重が438kg。残念ながらこの条件はクリアできていません。

伊吹 さらに、同じく2019年以降の3着以内馬15頭中14頭は、前走の出走頭数が9頭以上でした。

M 前走が少頭数のレースだった馬も苦戦していますね。

伊吹 前走の出走頭数が8頭以下だった馬は、2009年以降まで集計対象を広げても[0-0-1-18](3着内率5.3%)。単勝オッズ4.0倍(2番人気)の支持を集めた2022年のシーウィザードも3着どまりでしたから、割り引きが必要です。

M 前走が8頭立てだったコートアリシアンにとってはこちらも気掛かり。レースの傾向からは強調しづらい一頭ということになってしまうのでしょうか。

伊吹 実際、私も人気が集まってしまうようならば軽視しようと考えていました。コートアリシアンが前走で負かした馬のうち、当時2着のベルリネッタは次走が7着、当時4着のレイヤードレッドは次走も4着。レースのレベルに関してはまだ何とも言えません。ただ、他ならぬAiエスケープが高く評価しているわけですし、無理に嫌う必要はないはず。私はもう少し人気のない馬から買う予定なので、おそらく無印にはしないと思います。