プロが教える「読めばお金に強くなる」厳選本3冊
いまこそ、本当に役立つ「お金の勉強」を始めてみてはいかがでしょうか?(写真:fumi/PIXTA)
経済の教養が学べる小説『きみのお金は誰のため──ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』の著者である田内学氏は元ゴールドマン・サックス証券のトレーダー。資本主義の最前線で16年間戦ってきた田内氏はこう語る。
「みんながどんなにがんばっても、全員がお金持ちになることはできません。でも、みんなでがんばれば、全員が幸せになれる社会を作ることはできる。大切なのは、お金を増やすことではなく、そのお金をどこに流してどんな社会を作るかなんです」
今回は、ゴールドマン・サックス証券で16年間トレーダーとして金融市場を見てきた田内学氏に、「お金に強くなるための本」を紹介してもらった。
人生というゲームでの「お金の扱い方」を学ぼう
老後資金、インフレ、円安。この数年でお金への不安が急速に高まり、お金の勉強の必要性を感じている人が増えています。
「金融のプロなら、お金を増やす方法を教えてくださいよ」とよく聞かれるのですが、16年間金融の世界にいて学んだことがあります。
それは、確実にお金を増やす方法は存在しないということです。
お金の勉強で大切なのは、「お金を増やすゲームの勝ち方を学ぶこと」ではなく、「人生というゲームでのお金の扱い方を学ぶこと」にあります。
私の著書『きみのお金は誰のため』では、それをお伝えするために、次の“3つの謎”を提示しました。この謎を解明することを通じて、お金の正体を伝えています。
お金の謎1:お金自体には価値がない
お金の謎2:お金に解決できる問題はない
お金の謎3:みんなでお金を貯めても意味はない
お金の本質を学び、今の日本で起きていることを理解し、自分の未来に向けて何を準備すべきかを考えることが重要です。
この“3つの謎”に関連して、「お金に強くなるための本」を3冊ご紹介します。
1冊目は、お金が持つ「二面性」を学べる本です。
怪物なのかシステムなのか
(『きみのお金は誰のため』第1話 お金の謎1「お金自体には価値がない」より)
「お金自体に価値があるわけやない。税を導入することで、個人目線での価値が生まれて、お金がまわりはじめるんや」
ボスの話には説得力があった。ただの紙切れで人を働かせるなんてすごいとは思う。しかし、優斗は半ばあきれていた。
「そこまでして、政府ってのは、僕たちを働かせたいんですね」
「ちゃうで、ちゃうで。政府は王様やない。(家庭内紙幣の導入によって)優斗くんたち兄弟が家事をするのは、王様のためやなく、自分たちの生活のためなんや。これまでは、家事をすることも他の兄弟のために働くこともなかったやろ。ところが、みんながお互いのために働く社会に変わったんや」
お金というシステムの導入は、「みんながお互いのために働く社会に変わった」という良い面もありますが、その裏で大きな経済格差を生み出しています。
『資本論(まんがで読破 010)』では、資本主義という怪物の歯車に労働者がどのように組み込まれて「搾取」されてしまうのかが、まんがでわかりやすく説明されています。
そして、山崎元さんによる巻末の作品解説が、「社会・経済の仕組みを知らないと経済格差の不利な側にどんどん押しやられていく」というメッセージからはじまります。
有利な側、資本家になろうと考えて投資を始める人が増えていますが、ここで書かれているような社会や経済の仕組みを知らないと、必要のない投資商品を売りつけられて、気付かないうちに「搾取される側」にまわっていたりします。
貨幣のもつ「信用」について説明している箇所では、「信用のない人こそ、貨幣を持ちたがる」という本質を突く言葉にドキリとさせられます。
2冊目は、「円という通貨」の価値をどう考えるべきか、そのよりどころを示してくれる本です。
日本でお金の価値が下がる理由
(『きみのお金は誰のため』第2話 お金の謎2「お金に解決できる問題はない」より)
「その通りや。お金を払うというのは、自分で解決できない問題を他人にパスしているだけなんや。しかし、僕らはお金を払うことで解決できた気になってしまう」
(中略)
「貿易赤字って、外国にお金が流れるのが悪いんでしょ。だったら、お金を印刷しちゃえばいいんじゃないですか」
「おもろいアイディアやな。せやけど、問題は国内にある日本円が足りなくなることやない。外国が日本円を大量に持つことや」
食料やエネルギーなど生活に必要不可欠なものの自給率が低く、他国に頼らざるをえない日本。
この問題も、他国にお金を払うことで一見解決できているようですが、それによって日本からお金が流れ出ています。その結果、円安が進み、昨今の物価高にもつながっています。
今後、日本円はどうなるのか、将来に備えて外貨を保有したほうがいいのか、心配している人も多いと思います。
通貨の価値については、円の信用力、通貨量など漠然とした議論をする専門家が多い中、『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』では、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔さんが、国際収支の表面的な数字だけでなく、お金の流れを追った分析で価格決定に踏み込んだ議論を提供してくれています。
また、円安をもたらしている日本経済の構造的な問題についても言及されており、将来に向けて私たちがすべきことも提示してくれています。
「来年には、1ドル〇〇円になっています」と天気予報でもするかのようなエコノミストもいますが、通貨価値の未来は自然現象ではありません。本書からは、「日本が抱えている問題をどうにか解決して、未来を変えていかないといけない」といった唐鎌さんの危機意識も感じられます。
3冊目は、「人生というゲーム」の中で、お金をどのように位置づければいいかを学べる本です。
お金以外に増やすべき資産
(『きみのお金は誰のため』第3話 お金の謎3「みんなでお金を貯めても意味ない」より)
「年金問題もそれと同じなんや。お金が足りないんやない。少子化によって、生産力が足りなくなるんや。1個しかないパンを若者と老人の2人で奪い合うようなもんや」
(中略)
「無理ゲーですよ、それ。お金貯めても、物が足りなければ、値段があがるんですよね。お金をたくさん持っていたらイスに座れるけど、誰かがイスからはじき出されるってことでしょ?」
(中略)
「年金の問題を解決するには、お金を貯めてもしょうがない。少子化を食い止めたり、一人当たりの生産力を増やしたりしないとあかん」
少子高齢化が進んで働く人が減れば生産される物は減りますし、医療や介護などのサービスも足りなくなります。すでにさまざまな分野で人材が足りない状況に陥っています。
私たちは将来に備えてお金を貯めようとしていますが、そもそも物が足りなければ物価が上昇します。ありつけない人がどうしても出てきます。
問題解決には、国全体で少子化対策や生産性の向上に取り組む必要があります。
では、個人レベルで備えることはできないのか。それについて教えてくれるのが、最後に紹介する『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』です。
お金を増やすことに囚われていると、「老後の不安=お金の不安」になってしまいますが、著者のリンダ・グラットンさんは、人生100年時代に備えて生産性資産、活力資産、変身資産という3つの資産を備えたほうがいいと提案しています。
自分自身の将来の生産性を高めることが、老後の不安を払拭してくれるのです。
これらの本は、単なる金融知識を超えて、経済や社会の本質を見せてくれます。
「お金を増やすゲーム」から抜け出して、人生を豊かにするためにこそ、お金の勉強をすることをおすすめします。
(田内 学 : お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家)