長寿の人はどんな食べ物を、どのように食べているのか。高齢者医療に携わってきた精神科医の和田秀樹さんは「高齢者でも元気な人は肉を積極的に摂取している。ただ、その焼き方には注意が必要だ。片面ずつ焼き色をつけてはいけない」という――。

※和田秀樹『老けない習慣ベスト100』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

■100歳超えの半数以上が前歯で肉を噛み切れる。歯は長寿に欠かせない

食品加工会社のキューサイによると、元気な100歳以上の人がどういう噛み方ができるのかを調べたところ、入れ歯をしている人も含めた68%が「前歯で肉を噛み切ることができる」、98%が「奥歯で固い食べ物を噛み砕ける」と答えたそうです。

1989年から厚生労働省と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上、自分の歯を持とう」という8020(ハチマルニイマル)運動があります。

さまざまな研究で歯と寿命には強い関連性があることがわかっていますが、例えば、歯が1本もない状態は、死亡リスクが男性はワースト1位、女性は6番目に高いと、東京医科歯科大学と東北大学などの共同研究で発表されています。

2万人以上の高齢者を4年間にわたって追跡調査した研究では、歯が20本以上残っている人に比べて、10〜1本しか残っていない人の死亡率は1.3倍、9本以上の人では1.7倍に上がったと報告されています。

また、歯がほとんどなくなっている人と20本以上残っている人では、認知症のリスクが最大1.9倍になるという研究もあります。さらに、これらのリスクは、入れ歯などで低くできることもわかっています。

まずは、自分の歯を失わないようにすることと、抜けた場合は、入れ歯などでしっかり噛めるように対処することが大切なのです。健康で長生きするためには、歯のメンテナンスを忘れてはいけません。

■歳をとっても血圧が高くなりすぎない人は、毎日おやつにチョコレート

大手食品会社の明治と愛知学院大学、愛知県蒲郡市が産学官共同で行った研究報告が高齢者に興味深い内容です。

45〜69歳の市民347人に、高カカオチョコレートを1カ月間毎日食べてもらい、生活習慣病の予防効果を調べたものです。全員の平均値を見ると、実験前よりも最高血圧が2.6ミリHg、最低血圧が1.9ミリHgも低くなったとのこと。

しかも、もともと高血圧の人のほうが、正常血圧の人よりも血圧の低下量が大きかったそうです。高カカオチョコレートが高血圧を改善するのに有効と結論づけられました。ただし、血圧が高いほうが頭がハッキリする人もたくさんいます。

この血圧を抑える効果は、カカオポリフェノールの働きによるものと思われます。傷んだ血管壁に抗酸化作用の高いカカオポリフェノールが作用し、血管が広がって血流が良くなり、血圧が低下したと考えられています。

チョコレートにはカカオポリフェノールの他にも、フェニルエチルアミンという物質が含まれています。これは「恋愛ホルモン」ともいわれ、恋をしたときに脳内に分泌される神経伝達物質です。

チョコレートを食べると、その働きによって高揚感を覚え、気持ちがポジティブな方向に誘導されたりします。また他にも集中力や記憶力を高めるテオブロミンや、緊張やストレスをやわらげるGABAなどが含まれており、これらの効果によって精神状態が良好になっていきます。

高カカオチョコレートは、食物繊維が豊富なので、血糖値を急上昇させることもなく、有効成分のメリットも得られます。

写真=iStock.com/JanPietruszka
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JanPietruszka

■長寿医師は90代でステーキ、毎朝オリーブオイル入りジュースを愛飲

作家の瀬戸内寂聴さん(享年99)が90代後半までステーキをよく食されていましたが、100歳を超えても医師を続けた日野原重明先生(享年105)は、94歳のときに受けたインタビューで、「週に2、3回はステーキを食べている」と答えていました。このように元気に年齢を重ねている方は、決して粗食を習慣にしていません。高齢になるほど、意識してたんぱく質を摂取しているようです。

そんな日野原先生は、毎朝、ジュースにオリーブオイルを入れて飲んでいたそうです。オリーブオイルは健康効果が高く、しかも日常的に使いやすい植物油です。心臓病の発生率が極めて低いことで知られる地中海沿岸地域の食事は、このオリーブオイルをよく使うことが大きなポイントです。

写真=iStock.com/dulezidar
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dulezidar

主成分である不飽和脂肪酸の一種、オレイン酸には悪玉コレステロールを減らす働きがあり、加えてポリフェノールやビタミンEなど、抗酸化作用の高い成分も含まれているのです。

オリーブオイルを積極的に摂取するには、日野原先生のようにジュースに加えるのもいいアイデアでしょう。

なかでもおすすめはトマトジュースです。トマトに含まれているリコピンはオリーブオイルと相性が良く、合わせて摂取すると吸収率がぐっとアップします。

■若々しさ保つためのステーキの焼き加減と、焼肉の老けない焼き方

ステーキを食べるときには、人それぞれ焼き方や焼き加減にこだわりがあるものです。血の滴るようなレアから、ほど良く火を通したミディアム、こんがり焼いたウェルダンまでありますが、老化を防ぐ焼き加減は、もちろんレアになります。

和田秀樹『老けない習慣ベスト100』(総合法令出版)

これはAGEsの観点からレアをすすめるわけですが、もちろん生肉が一番AGEsが少なく、表面を軽く炙っただけの超レアであれば生とほとんど変わりません。この超レアとしっかりと焼くウェルダンでは、AGEsの量が約15倍も違ってきます。

たんぱく質を効率よく摂取するためにステーキをと思っていても、老化を考えるなら、食べものから摂取するAGESを少なくすることが肝心です。

牛肉のステーキは、ウェルダンやミディアムではなくレアを。さらにいえば、牛肉ならステーキではなく、しゃぶしゃぶにするとAGEsの量を抑えられます。もうひとつ、牛肉を自分の好きな焼き加減にして食べられる焼肉ですが、こちらも「老ける焼き方」と「老けない焼き方」があります。

まず片面を焼き、焼き色がついてからひっくり返し、もう片面にも焼き色(さらには多少の焦げ)がついたら食べる、という焼き方が普通かと思います。香ばしさも手伝ってお肉をおいしくいただけると思いますが、これではAGEsが増える「老ける焼き方」になっています。

一方、「老けない焼き方」は、頻繁に肉をひっくり返しながら、表面に強い焼き色をつけないように火を通していく焼き方になります。この焼き方の違いでAGEsの量を2〜3割も減らすことができます。ぜひ試してみてください。

写真=iStock.com/Wako Megumi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wako Megumi

----------
和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
----------

(精神科医 和田 秀樹)