立石俊樹×上田堪大、舞台袖で「パワーをもらっていた」 ミュージカル『黒執事』~寄宿学校の秘密 2024~インタビュー
2024年9月7日(土)~8日(日)に兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール、9月21日(土)~29日(日)にTOKYO DOME CITY HALLにて上演されるミュージカル『黒執事』~寄宿学校の秘密 2024~。2021年の初演より続投するセバスチャン・ミカエリス役の立石俊樹、葬儀屋(アンダーテイカー)役の上田堪大による対談をお届け。再演に向けた意気込みのほか、初演当時の裏話もたっぷりと語ってもらった。
(左から)上田堪大、立石俊樹
ーー再演が決まった時の心境は?
立石:また生執事に戻ってきたいなという気持ちがありましたし、こうして機会をいただけたことがとても光栄です。僕自身も嬉しいですし、喜んでくださる方も多くいらっしゃるのでワクワクが大きいです。先日、初演の映像を改めて見たんですが、とても気付きが多かったです。改めて同じ役に挑むということでより深く、より強く変えて演じたいと思いました。イメージはすごくあるので、しっかりそこを体現していきたいですね。
上田:僕も嬉しいです。前回とはキャストが異なりますが、続投となるとし(立石)や(シエル・ファントムハイヴ役の小西)詠斗も僕も3年半の時を経ている。お互いに成長しているところ、良い意味で変わっていない部分もあるはず。個人的なことでいうと、すべてのクオリティを上げる。高くハードルを課したいですし、厳しくしていきたいです。
ーー演じるキャラクターについてお聞きします。セバスチャンについては気付きが多かったとのこと、すでに変化する部分も見えているのでしょうか。
立石:個人的にはオープニングから気になるポイントがたくさんあって。大きなところでいうとシエル・ファントムハイヴに対してどう思っているのか、なぜシエルを守るのか、シエルへの接し方は……あくまで悪魔で居続けながら、執事という仮の姿でもいる。そういう部分も含めて、もっと根底から作り直そうという段階です。逆に当時からずっと変わらないのは、僕はセバスチャンのことを完全なる悪魔ではないと捉えているところ。ここは葬儀屋との対比でもあるんですが、終わりがあるから美しいという価値観は、突き詰めていくと人間が忘れかけている“生きているからこその美しさ”を教えてくれるものなんじゃないかなと。悪魔と言いつつ、人間よりも人間らしい部分があるのを演じていくうちに気付いた。ミュージカルとしての旨味という意味でも、そこの表現を濃くしていこうと今は考えています。
立石俊樹
ーー一方で、完璧さを求められるキャラクターでもあります。
立石:当時は結構スマートにこなしていたんですけど、もっと激しくてもいいのかなとも思っています。時に荒々しくて、次どうなるかというのが読めないほうが面白い。振り幅、強弱のゲージを広げていきたいですね。
ーー葬儀屋については、現時点でどのようなキャラクター像をお持ちでしょうか?
上田:見た目のおかげでキャラクターというものをしっかり出せる部分もあるのですが……基本的には、長い髪の毛で隠れて目から下しか見えていない。初演のときには原作を読みながら「表情が見えるときには感情があるな」とか「これは寂しそうな顔なのか」とか、それとも何か目論見があるのか。当時は謎が多いなという印象でしたが、3年半の時が経って思うことは……やっぱり、謎が多いですねぇ(笑)。
立石:ははは! 謎、多いですね(笑)。
上田:でも一つ言えるのは、葬儀屋と出会えたおかげで僕の中にあった枠のようなものがだいぶ広がった気がする。今回はその広がったものを踏まえて、どういう風にまた変わっていけるのかというところですね。
ーー前髪で目が隠れたミステリアスなビジュアルですが、演じる際の視界はどうなっているのでしょう?
上田:企業秘密にしようか迷っていたんですけど(笑)、真正面は見えていないです。それよりも下の視界と足元、お客さんからは見えない程度に(髪を)浮かせて周りを把握している感じです。
立石:すごいですよね……。
上田:目を見て芝居ができないのって、結構役者としてはストレスなんですよ。僕もそうだし、対峙する相手にとっても。だからこそ相手に、お客さんに届けられるものもあるので。表現の幅が狭まってしまう分、集中できた面もあった。普段とは違う気づかいはありましたけど、ひっくるめて楽しかったです。
(左から)上田堪大、立石俊樹
ーーセバスチャンと葬儀屋のシーンは大きな見どころでした。あの場面はどんな思いで演じられていたのでしょうか?
上田:個人的には、やっと思いっきりできる場面。としと歌って、芝居ができるっていうのが初めてできた場面でもありました。
立石:僕としては堪大さんの目が見えない分、声で掴んでいましたね。「声で勝負!」みたいな。気持ちから出てくる声のぶつかりあいをする結末でもありましたし。でも、大変だったのはそこじゃないんですよね。個人的には殺陣のほうが難しかったな。普段はアイコンタクトで動きを確認するじゃないですか? しかも長物のデスサイズと、僕はナイフで。
上田:うん、難しかった。衣裳の袖が長いのでデスサイズを回すと腕に巻き付いちゃうんです。稽古では動けなくなっちゃったので、いったんストップ……ということがあったんですが、実は本番でもちょっと同じことが起こりそうになっちゃって。アイコンタクトも難しい状況のなかどうしようかと思ったんですが、としが反応してくれて無事なんとかなった。そういった息の合わせ方が難しかったですね。
立石:稽古でやった殺陣のリズムとかカウントで(タイミングを)取っていたんですよね。
(左から)上田堪大、立石俊樹
(左から)上田堪大、立石俊樹
ーー他にも、稽古や本番のエピソードがあればお聞かせください。
上田:今までやってきたどの作品よりも、一番長く舞台袖で見ていたんですよ。その日によってキャストのテンションは確実に違ってくるので、皆の状態を見た上で自分のテンションを作っていました。
立石:見てくださっていることは結構感じていましたね。僕がハケると、毎回堪大さんと会うんです。
上田:本当に一瞬なんですけど、そこでひと絡みして(笑)。
立石:パワーをもらっていました。そういうのがあったおかげで、絆のような……当時は初座長だったので、特にそういうものが感じられたことは自分にとって大きかったんですよね。
上田:そうだよ、初座長でしたね、当時!
ーー当時のインタビューでは、それほど気負われている様子はなかった印象がありますが……。
立石:これは暴露させてください……ものすごく気負っていました! 「楽しみです」とか言いつつも、内心では(笑)。お客さんからすると、気負っている人に演じられるのは不安じゃないですか。だから言わなかったんですけど、正直やばかったです。どうしようって。
上田堪大
上田:稽古からそのプレッシャーはわかっていたので、僕らは。としの良き理解者であった(2021年公演でクレイトンを演じた)古谷大和とはまた別の角度から僕は見ているつもりではいようと思っていました。頑張ろうって気持ちが先走ってしまう瞬間はあったんですけど、としの人柄が良い意味でよく出ていたカンパニーだった。だから僕としては「気負わなくていい、自分のままでいていいよ」とは伝えていましたし、全然何も不安じゃなかった。
立石:ありがたいです、本当に。僕が印象に残っているのは、キャストが全員休みだった仕込み日。セットも何もなくなった稽古場で、演出の(松崎)史也さんとマンツーマンでお芝居の稽古をつけてもらったこと。
上田:え! そうなんだ!?
立石:はい。史也さんもミュージカル『黒執事』という作品を引き継ぐ、新たにやっていく責任があるなかでしたし。最初から台本を持って読んでみたり、改めて立ち返ってみたり。それがなんか、嬉しかったんですよ。すごくいい時間で。
上田:知らなかった! すごい良い話だね。
立石:初公開ですね、この話は。話せてよかったです。
ーーいよいよこれから稽古がスタートされるとのこと。改めて、お互いに役者としてどんなイメージをお持ちでしょうか。
上田:これは前回のときに古谷大和とも盛り上がっていたことなんですが、「としって、どんどん芝居好きになっていってるよね」と。もちろん前から積み重ねていたものがたくさんあるだろうけど、この作品を通じてまた違うギアを入れたのがわかった。「いいな」とうらやましくなる瞬間でもありました。としにどんな変化が起きているのか、今は楽しみでしかありません。
立石:堪大さんや大和さん、先輩方の姿を見てきたおかげで当時の自分がいた。前回公演の映像を見たとき、当時はまだ気づけなかった堪大さんの演じ方を感じ取ることができました。そこも踏まえてやっていきたいですし、芝居に対するストイックさはこれからも追っていきたいです。
(左から)上田堪大、立石俊樹
ーー“寄宿学校編”で描かれるウェストン校では、上級生の世話係“寮弟”と呼ばれる校内限定の兄弟関係があります。ちなみに立石さんは、上田さんの寮弟になれそうですか?
上田:あはははは!
立石:いやぁ……寮弟の仕事をこなすのって、本当にすごいことだと思うんですよ。強烈なあこがれや相当な目標がないと難しい。難しいです、相手が誰であっても(笑)!
上田:ちなみに僕は絶対に嫌です! 大変なので(笑)!
立石:あははは! やめておきましょう(笑)。
ーーでは、最後に読者へ一言メッセージをお願いします。
立石:再演ではありますが、新しい作品に挑むような気持ちでもあります。皆様からの温かい声をエネルギー源に精一杯、新しいキャストの皆さんと共に作り上げていきます。どうか楽しみにしていてください。
上田:SNSなどを通じて、応援していてくださる方々の再演を喜ぶ声が届いています。その気持ちを裏切らないよう、僕らも一新した気持ちで、千秋楽まで誰一人欠けることなくお届けできたら。1回でももちろん嬉しいですし、1回でも多く足を運んでいただけるよう僕らも頑張ります。
(左から)上田堪大、立石俊樹
■立石俊樹
ヘアメイク:中元美佳
スタイリスト:MASAYA(PLY)
衣装:
ベスト\62,580(MONOMERIC)、その他スタイリスト私物
お問合せ先 MONOMERIC(03-5614-0641)
■上田堪大
ヘアメイク:mika
スタイリスト:MASAYA(PLY)
衣装:スタイリスト私物
取材・文=潮田茗 撮影=岡崎雄昌