●CineBench / POV-Ray / TMPGEnc



7月にDeep Diveレポートをお届けしたRyzen 9000シリーズであるが、最初の製品であるRyzen 5 9600XとRyzen 7 9700Xの性能を評価する機会に恵まれたので、早速ベンチマークレポートをお届けしたいと思う。

○製品出荷の遅れについて

こちらでも報じたが、当初Ryzen 9000シリーズは7月31日(日本時間で言えば8月1日)のリリースになる筈だった(Photo01)が、先の記事の通りRyzen 7 9700XとRyzen 5 9600Xが8月8日発売、Ryzen 9 9950XとRyzen 9 9900Xは8月15日発売に遅延した。ただその理由が「During final checks, we found the initial production units that were shipped to our channel partners did not meet our full quality expectations.」(最終チェックの際、チャネル・パートナーに出荷された初期生産ロットが、弊社の期待する品質を完全に満たしていないことが判明した)というのは穏やかでは無いわけだが、もしCCDなりIoDなり、あるいはパッケージなりに問題があったのだとすると、これの修正と再生産が1週間で終わる訳がないのであって、例えばNVIDIAのB200など3か月の遅れと報じられている。僅かに1週間の遅延でできる事は非常に少ないだけに、やや違和感のある話であった。

そんな中、XにこんなPostが行われた。要するに「初期ロットのマーキングが間違っていた(Ryzen 7 9700Xとすべきところが、Ryzen 9 9700Xになっていた)」ので、これを回収してマーキングを直したものを再び出荷、というのが今回の一連の遅延の要因であろうという訳だ。まぁ確かにこれも「品質基準を満たさない」のは間違いないし、修正は1週間くらいで済む話ではある。笑い話で済む、シリアスな問題ではなかったのは幸いと言えるだろう。

Photo01: 全製品が7月31日リリース、とは言ってないことに注意。

○評価キットと評価環境

現時点ではまだRyzen 7 9700XとRyzen 5 9600Xしか届いていない(Photo02,03)。パッケージは兎も角CPUそのものはAM5そのまんまで、あまり違いは見られない(Photo04〜06)。Windows上でもどちらも問題なく認識された(Photo07〜10)。

Photo02: パッケージは125mm×125mm(実測値)。Ryzen 7000シリーズからまた少しデザインが変わった。

Photo03: 厚みは35mm。ただRyzen 7 9700XとRyzen 5 9600Xはどちらも65W SKUなので、であればWraith SPIREあたりを付属してくれても良かった気はするが、そうなるとこの厚みでは無理だろう。

Photo04: ブリスターパックそのものに違いは無し。Ryzenのシールは、ちょっとシンプルになった。

Photo05: 強いて7000シリーズとの違いを述べれば、ヒートスプレッダから覗くチップコンデンサの配置がだいぶ変わり、またコンデンサの上に保護用の接着剤が掛かっている事だろうか? ちゃんとロゴは"Ryzen 7 9700X"になっている。

Photo06: 裏面は特に違いは無し。

Photo07: Ryzen 7 9700X。RevisionはGNR-B0。普通はA0が最初のESだから、量産がB0というのは意外に順調に開発されたということか。

Photo08: きちんと16threadsが動作しているのが判る。

Photo09: Ryzen 5 9600Xも問題なく認識される。

Photo10: こちらは12threads。

今回のテスト環境は表1の通りである。対抗馬であるIntelの方だが、残念ながらCore i7-14700K/KFの入手が出来なかったので、Core i5-14600Kのみなのはご容赦頂きたい(Ryzen 9 9900X/9950Xのテストの際にはCore i9-14900Kも加える予定だ)。

ちなみにそのCore 5-14600K/Core i9-14900KはASUSのPrime Z690-Aを利用しているが、こちらもVersion 3603ではUEFI Setup画面に"Intel Default Settings"という項目が追加され(Photo11)、ここでIntel Baseline Profile+α準拠とするか(Photo12)、独自のOC動作にするか(Photo13)を選べる様になった。今回はIntel Baseline Profile+α準拠の設定としている。

Photo11: もう少し判りやすい表現でもいいと思うのだが。

Photo12: PL1が255Wの時点でBaseline Profile互換ではない(Baseline Profile互換ならPL1は125Wでないといけない)。

Photo13: こちらはExtreme Profileそのまま。

またX670Eマザーボードの方だが、Ryzen 9000シリーズを利用するためにはBIOSがAGESA 1200A Patch A対応であることが必要とされる。幸い今回利用したASUS Prime X670E PRO-WIFIは7月23日リリースのBIOS 3014が"AGESA version to Combo AM5 PI 1.2.0.0a"対応とされており、実際に問題なく動作した。

メモリに関しては今回CorsairのDDR5-6000を利用している(Photo14)。またDisplay Driverは、最新はAdrenalin Edition 24.7.1 WHQLであるが、ベンチマークを開始した時にはまだリリースされておらず、それもあり一つ前のAdrenalin Edition 24.6.1 WHQLを利用している。まぁ今回はCPU性能比較であり、GPUは同じものをすべてのケースで使うので、これで良しとした。

Photo14: Z690ではXMP 1、X670EではEXPO 1での設定である。

グラフ中の表記は

Core i5-14600K :i5-14600K

Ryzen 5 7600X :R5 7600X

Ryzen 5 9600X :R5 8600X

Ryzen 7 7800X3D:R7 7800X3D

Ryzen 7 9700X :R7 9700X

となっている。また解像度表記も何時もの通り

2K :1920×1080pixel

2.5K:2560×1440pixel

3K :3200×1800pixel

4K :3840×2160pixel

としている。

なお、ゲームに関してはFSRとかフレーム生成などは一切利用していない。それをやるとフレームレートが変化して、CPU性能との関わり合いが判りにくくなるためである。

○◆CineBench R23(グラフ1)

CineBench R23

Maxon

https://www.maxon.net/ja/cinebench

グラフ1

まず単純な性能比較でこちらから。Multi Threadではやはりコアの数が多い(E-Coreがある)Core i5-14600Kが最速である。もしCore i7-14700Kを追加したら、間違いなくこれが最速だろう。その一方でSingle ThreadだとRyzen 9000シリーズが明確に性能を上げている。スペックで言えば

となっており、このSingle Threadでは恐らくMax Boostでの動作という事になると思うのだが、ここから1GHzあたりのスコアを逆算すると

となる計算だ。Ryzen 7 7800X3Dはここから見るとどうもMax Boostの周波数では動いていないっぽいが、Ryzen 5 7600XとRyzen 5 9600X/Ryzen 7 9700Xを比較すると同一周波数なら8%ほどスコアが向上しているのが判る。このあたりからIPCの向上が明確に見て取れる。

○◆CineBench R24(グラフ2)

CineBench R24

Maxon

https://www.maxon.net/ja/cinebench

グラフ2

こちらも傾向は同じで、Multi CoreではやはりCore数が多いCore i5-14600Kが最速であり、もしCore i7-14700Kがあればこちらがより高いスコアになっているだろう。その一方でSingle CoreではRyzen 9000系の性能が光る。CineBench R24と同じように計算すると

となり、やはり8〜9%の向上が実現している。

○◆POV-Ray V3.8.2 Beta2(グラフ3)

POV-Ray V3.8.2 Beta2

Persistence of Vision Raytracer Pty. Ltd

http://www.povray.org/

グラフ3

こちらもやはり同じ傾向である。強いて言えばAll CPUのケースでRyzen 7 7600XがRyzen 7 9600Xを、Ryzen 7 7800X3DがRyzen 7 9700Xをそれぞれ上回っているというのは初めてのパターンであるが、ただ上回っているといってもその差は非常に小さい。一方でOne CPUではやはりRyzen 9000系の強さが発揮されている。1GHzあたりの性能で言えば

となっており、5%程度になるものの性能向上が見られる。ちなみにCore i5-14600Kが最速なのは、POV-Ray V3.8世代は拡張命令の最適化が進み、Noise FunctionにAMD系はavx-genericカーネルを使うのに対し、Intel系だとavx2fma3-intelカーネルを使う事が影響しているのだろう。

○◆TMPGEnc Video Mastering Works V7.0.33.33(グラフ4)

TMPGEnc Video Mastering Works V7.0.33.33

ペガシス

http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html

グラフ4

今回は先にこちらの結果を示したいと思う。絶対的な性能という意味では18fpsにも及ばない程度でしかないから、実用性としては低い(Ryzen 9 7950Xだと30fpsを超える)とは言えるが、それはともかくとして、このテストでは長時間にわたって連続稼働する関係で、動作周波数はBase Frequencyに近いところで推移すると考えられる(実際後で出てくるが、TMPGEnc実施中の消費電力を比較するとRyzen 9000系は圧倒的に低い)。そこでBase Frequencyでの比較とすると

という事になる。同じコア数同士で比較すると13〜27%のエンコード速度向上というのは中々大きく、このあたりからも性能の高さが透けて見える感じだ。

●PCMark / Procyon / GeekBench / 3DMark

○◆PCMark 10 v2.1.2701(グラフ5〜10)

PCMark 10 v2.1.2701

UL Benchmarks

https://benchmarks.ul.com/pcmark10

グラフ5

グラフ6

グラフ7

グラフ8

グラフ9

グラフ10

ではもう少し広範なベンチマークという事で、まずはPCMark 10を。Overall(グラフ5)を見るとEssential〜Extendedでは割とRyzen 9000系が有利ではあるのだが、Applicationは逆にちょっと落ち込み気味になっているのが不思議である(Ryzen 7 7600Xが妙にスコアが高いのも謎)。

Test Group(グラフ6)で言えば、強いて言えばRyzen 7 7800X3Dが(動作周波数が低い事もあって)やや性能が下の方になるが、それ以外は大差ない印象である。実際Essential(グラフ7)もRyzen 7 7800X3D以外は差が無いし、Productivity(グラフ8)もそんな印象。ただSpreadsheetのスコアがRyzen 9000系だけ伸びているのはちょっと不思議である。生データを確認してみたが、特に何か特定の処理が高速という訳ではなく、どの処理も満遍なくRyzen 7000系に比べて処理時間が短くなっており、この辺りはIPC向上の効果が出やすかった、ということかもしれない。Digital Contents Creation(グラフ9)も、ほぼ動作周波数の比ではあるのだが、処理的にはMax BoostというよりはBaseに近いところで動作していると思われ、となると動作周波数的にはRyzen 9000シリーズはむしろ落ちている筈なのに、性能が上がっているという辺りは、やはりコア更新の効果であろう。

最後がOffice Applicationでのテスト(グラフ10)なのだが、WordとかEdgeはともかく、ExcelとPowerPointで妙にRyzen 9000系の落ち込みが激しい。試しにExcelでのテスト結果を抜き出したのが表2であるが、なぜかExcelStart(Excelの立ち上げ)だけが他に比べて1秒以上遅くなっており、これがスコアに悪影響を及ぼしたものと思われる(逆にその他の処理は言うほど遅くない)。これはPowerPointも同じで、やはりPowerPointStartが1秒ほど他より遅くなっているのが原因である。何故これが起きるかは謎だが、とりあえず立ち上げてしまえばあとは他と遜色ない性能であることが判ったのは一安心である。

○◆Procyon v2.8.1207(グラフ11〜14)

Procyon v2.8.1207

UL Benchmarks

https://benchmarks.ul.com/procyon

次はProcyonであるが、又もや色々動かない(今回で言えばPhoto EditingとVideo EditingのBatchが途中で止まる)ということで、Office ProductivityとAIのみの結果をご紹介する。ちなみに最新版はv2.8.1251で、あるいはこれが問題の修正版の可能性はあるのだが、ちょっとテストをやり直す時間は取れなかった。

グラフ11

グラフ12

グラフ13

グラフ14

ということでまずグラフ11がOverallである。Office Productivityはまぁ穏当な結果、AIはやはりRyzen 9000シリーズ優位という感じである。

Office Productivityの内訳(グラフ12)であるが、こちらは幸い(?)ExcelStartとかPowerPointStartの様なテスト項目がない事もあり、飛び抜けて値が違うというような項目もなかった。総じて今回の5つのCPU、どれも大差ないという感じの結果であるが、そもそもOffice Productivityの様な処理でCPU性能がそこまで大きく効くという事は考えにくいので、これは妥当な結果だと思われる。

一方AI、今回はInference Countを示した(グラフ13)が、テスト毎に結果が違い過ぎて判りにくいので、Ryzen 5 7600Xの結果を100%とした相対性能で示したのがグラフ14である。一番下に幾何平均をまとめてあるが、Ryzen 5 9600Xで45%、Ryzen 7 9700Xで63%の性能向上というのは、やはりIPCの向上が上手く作用した事よりもAVX512の性能が倍になった事が関係しているのだと思われる。実際IPCの向上だけでは説明が付かない性能アップとして良いかと思う。

○◆GeekBench ML 0.60(グラフ15〜18)

GeekBench ML 0.60

Primate Labs Inc.

https://www.geekbench.com/ml/

グラフ15

グラフ16

グラフ17

グラフ18

もう一つAI系ということで、GeekBench MLも実施してみた。グラフ15がOverall Scoreであるが、やはりRyzen 9000系がかなり有利なスコアである。ただGeekBench MLはOpenVINOを利用している事もあり、AVX512-VNNIだけでなくAVX2-VNNIもちゃんと利用して動作することもあってか、Core i5-14600Kでもそれなりに性能が伸びている。グラフ16〜18がデータ型別の推論性能の比較であるが、全般を通してやはりRyzen 9000系が有利なのが見て取れる。

ちなみに結果を見ると、BF16とFP32で結果があまり変わらない事に気が付く。これは生データを見てもそうで、OpenVINOの内部的にはBF16もFP32と同じ形で扱っているのでは? という気もしなくもないのだが、その辺はちょっと確認出来ないのが残念である。

○◆3DMark v2.29.8282(グラフ19〜21)

3DMark v2.29.8282

UL Benchmarks

https://benchmarks.ul.com/3dmark

先日の3DMark Steel Nomadのレビューの際に書いたように、そろそろFireStrikeはあまり現実的ではないので、今回からテストから外している。

グラフ19

グラフ20

グラフ21

で、まずはOverall(グラフ19)であるが、NightRaidとWildLifeのみCore i5-14600Kが高く、逆にRyzen 7 7800X3Dが妙に低い結果になっているが、これは既知の事実なので省く。すると概ね大差ないというか、まぁCPU性能差が殆ど見られない結果となる。これはGraphics Test(グラフ20)も同じである。それにしてもNightRaidはともかくWildLifeまでこういう特性が出るあたりは、これDirectX 11に絡むとこういう結果が出やすいということだろうか?グラフ21はCPU Testの結果(FireStrikeを省いた結果、Physics Testは無くなった)であるが、ここでもCore i5-14600Kが高いスコアを出している。ただRyzen 9000系もそれなりに性能が出ており、Ryzen 7000系よりBase Frequencyが落ちているのに性能は同程度以上というのはなかなか良い感じだと思う。

●ゲームその1: Avatar FoP / Borderlands 3 / Company of Heroes 3 / Cyberpunk 2077

○◆Avatar Frontiers of Pandora(グラフ22〜28)

Avatar Frontiers of Pandora

Ubisoft

https://www.ubisoft.com/ja-jp/game/avatar/frontiers-of-pandora

ベンチマーク方法はこちらのAvatar Frontiers of Pandoraの項目に準ずる。設定は

全体的な品質:ウルトラ

アンチエイリアス:テンポラル

である。

グラフ22

グラフ23

グラフ24

グラフ25

グラフ26

グラフ27

グラフ28

結果(グラフ22〜24)を見ると、まぁ変動があるのは2Kのみといったところであるが、最高速がRyzen 5 7600Xで、これにCore i5-14600Kが続くという面白い結果になっている。ただ最高速のRyzen 5 7600Xと一番遅いRyzen 5 9600Xの差は2.4fpsほどであり、170fps超えでの2.4fps程だから大きな差とは言い難いのだが。

フレームレート変動(グラフ25〜28)を見ると、例えば2K(グラフ25)55秒〜70秒あたりでは確かにRyzen 5 7600XとかCore i5-14600Kのフレームレートが高めで、これが平均フレームレートの値を押し上げているのだとは思うが、ただそれ以外はほぼ変わらなかったりするあたり、全体としてそう大きな差は無いものと考えられる。

○◆Borderlands 3(グラフ29〜35)

Borderlands 3

2K Games

https://borderlands.com/ja-JP/

ベンチマーク方法はこちらのBorderland 3の項目に準ずる。設定は

全体的な品質:高い

アンチエイリアス:テンポラル

である。

グラフ29

グラフ30

グラフ31

グラフ32

グラフ33

グラフ34

グラフ35

まず結果(グラフ29〜31)を見ると、これもAvatar Frontiers of Pandora同様に変化があるのは2Kのみだが、その2KではRyzen 7 7800X3DとRyzen 7 7900Xのみ270fps超えなのは流石である。フレームレート変動(グラフ32〜35)を見ても、2.5K以上はほぼ1本の線(強いて言えば2.5Kの75〜95秒あたりでちょっと差が見られる程度)だが、2K(グラフ32)の70秒以降での差が大きく、これが平均フレームレートの差に繋がったものと考えられる。

○◆Company of Heroes 3(グラフ36〜42)

Company of Heroes 3

Relic Entertainment

https://www.companyofheroes.com

ベンチマーク方法はこちらのCompany of Heroes 3の項目に準ずる。設定は

Image Quality:High

とした。

グラフ36

グラフ37

グラフ38

グラフ39

グラフ40

グラフ41

グラフ42

さて、意外に大きなばらつきが出たのがこのCoH。結果(グラフ36〜38)を見ると、2Kでの最高速はRyzen 7 9700Xだし、Ryzen 5 9600Xも最高速とは言わないものの、Core i5-14600Kに近いところまでフレームレートを上げている。フレームレート変動(グラフ39〜42)を見ると、2Kの場合は40秒あたりからグラフが分離を始め、60秒以降から明確にグラフが分離するが、この後半の負荷が高い(兵器ユニットや兵士ユニットが大量に出てくるあたり)から性能差が露呈するようだ。2.5K以上でも、やはり60秒以降で多少ばらつきが見られるが、こちらはそろそろ描画負荷の方がボトルネックになるのか、大きな差にはなっていないようだ。

○◆Cyberpunk 2077(グラフ43〜49)

Cyberpunk 2077

CD PROJEKT RED

https://www.cyberpunk.net/us/ja/

ベンチマーク方法はこちらのCyberpunk 2077の項目に準ずる。設定は

Quick Preset:High

Ray Tracing:Off

とした。

グラフ43

グラフ44

グラフ45

グラフ46

グラフ47

グラフ48

グラフ49

結果(グラフ43〜45)を見るとこちらもまた差が出るのは2Kだけであり、最高速がRyzen 7 7800X3D、次いでRyzen 7 7900Xというのも判るが、その次に付けているのがRyzen 5 7600Xというのはちょっと解せないものがある。

ただこれはフレームレート変動(グラフ46〜49)で理解できた。2K(グラフ46)で、Ryzen 5 9600Xには結構な頻度でのスパイク状のフレームレート低下がみられる。一番多いのはCore i5-14600Kだが、これに次ぐ多さである。またなぜかは判らないが25秒〜35秒でフレームレートがやや低めに推移しており、この辺が平均フレームレートを下げる要因になっているようだ。ちなみに2.5K〜4Kではもう完全に一本の線になっており、ここでフレームレートの差はみられない。

●ゲームその2: F1 24 / Far Cry 6 / ForSpoken / Hitman 3

○◆F1 24(グラフ50〜56)

F1 24

EA Sports

https://www.ea.com/ja-jp/games/f1/f1-24

今年5月にリリースされた最新作ではあるが、基本F1 23と大きく変わるわけではない。立ち上げるとこのメイン画面に移るわけだが(Photo15)、この画面の背景が出てから、手前に3人のドライバーが出現するまでの間が結構長く、しかもこの間は操作が無効になるのがちょっとストレスではある。Setting画面からGraphics Settingsを選び(Photo16)、ここで必要な設定を行う格好になる(Photo17)。解像度の方はVideo Mode画面で行うのも従来と変わらず(Photo18)。画面設定が終わったら、Benchmark Mode画面から"Run Benchmark Test"を選ぶとベンチマークが始まり、終わると結果が表示される(Photo20)のと同時に、ログファイルがMy Gamesの下に格納される。

Photo15: EA Accountに登録しなくてもこの画面に移って、ベンチマークの起動が可能というのはF1 23に同じく。

Photo16: F1 23に比べると目的の画面までエンターキー1回分節約できる様になったのはちょっと嬉しい(が、メイン画面で待たされるので実質かかる手間は大差ない)。

Photo17: 描画オプションはこの画面で行うのもF1 23までと同じ。基本はDetail Presetのみを選ぶ格好。

Photo18: Anti-AliasingがデフォルトだとFSR併用なので、ここは無効化してTAA Onlyとする。VSyncもOffである。

Photo19: ちなみにF1 22あたりから毎回レース結果は一緒(プレイヤーが10位スタート、10位フィニッシュ)なのは、結果を取るには安定していていいのだが、やってて面白くないのはまぁ仕方がないところか。オプションでレース結果変動モードも追加してほしい。

Photo20: サマリーとフレームレート変動のほか、スタート時とフィニッシュ時のスクリーンキャプチャが自動保存されるという仕組みは従来と全く同じ。

ちなみに今回のテストでは

解像度:2K/2.5K/3K/4K

Anti-Alias:TAA Only

Graphics Preset:High

とし、それ以外はデフォルトのままとした。

グラフ50

グラフ51

グラフ52

グラフ53

グラフ54

グラフ55

グラフ56

さて、F1 23あたりからRay Tracingの負荷が段々重くなってきたこともあり、今回はGraphics PresetをUltra HighではなくHighにしたのだが、それでも結果(グラフ50〜52)で判るように差が殆ど無い当たり、まだ負荷が重いのかもしれない。あるいは、描画はともかくRay Tracing Engineがボトルネックになっているか。Maximum/Minimumはそれなりに変動しているし、フレームレート変動(グラフ53〜56)を見ると、大体70〜80秒付近のみ、グラフが分離する(4Kではそれもなくなるが)ので、ここで多少の差が付く程度だろうか? とりあえず平均フレームレートで言えば、差はあると言えばあるのだが、誤差の範囲でしかない。

○◆Far Cry 6(グラフ57〜63)

Far Cry 6

Ubisoft Entertainment

https://www.ubisoft.com/ja-jp/game/far-cry/far-cry-6

ベンチマーク方法はこちらに準ずる。設定は

Quality:High

Antialias:TAA

DXR Reflections/Shadows Off

とした。

グラフ57

グラフ58

グラフ59

グラフ60

グラフ61

グラフ62

グラフ63

さて結果(グラフ57〜59)を見ると、結果が非常に判りやすい。Core i5-14600K、Ryzen 7 7800X3DとRyzen 7 9700Xがまずひと塊。Ryzen 5 9600Xも健闘しているが、この上位グループには一歩及ばずといったところ。それでもRyzen 5 7600Xとの性能差は明白ではある。

フレームレート変動(グラフ60〜63)からもこの辺は明白で、2Kの場合で言えばCore i5-14600K、Ryzen 7 7800X3DとRyzen 7 9700Xの3つは、40秒過ぎまでは互角のフレームレートだが、その先(シーンで言えば戦車が出てくるあたりから、対戦車ランチャーか何かで撃破されるあたりまで)でフレームレートの差が出て来ている。Ryzen 5 9600XとRyzen 5 7600Xは、もう冒頭からグラフが完全に分離しており、CPU性能の差は明白だが、こうしてみるとFar Cry 6はマルチコアをきちんと使い切っているという事なのかもしれない。3Kあたりまでこの傾向は変わらず、4Kで初めてほぼ同等であるが、それでも45秒あたりからグラフが分離するあたりは、こうした高解像度でもCPU性能の差が出る余地があるということで、一つの目安になりそうだ。

○◆ForSpoken(グラフ64〜70)

ForSpoken

Square Enix

https://www.jp.square-enix.com/forspoken/

ベンチマーク方法はこちらのForspokenの項目に準ずる。設定は

Quality:High

としている。

グラフ64

グラフ65

グラフ66

グラフ67

グラフ68

グラフ69

グラフ70

さて結果(グラフ64〜66)を見ると、何でかは不明だが2.5Kでフレームレートが大きく落ち込み、3Kで戻るという謎の振る舞いを見せる。それもすべてのケースでこれが再現してるあたりは、ベンチマークのミスではなくドライバあるいはゲーム側の問題なのだとは思うが、今回はこの辺を細かく検証する時間も無いので、とりあえずスルーしたい。で、一番性能差が出るであろう2Kであるが、殆ど性能差が見られない。単にAverageだけでなくMaximum/Mimimumまで殆ど性能差が無い、というのもちょっと珍しい。

フレームレート変動(グラフ67〜70)を見ると、110〜120秒付近のみ若干の乱れが出るが、あとはほぼ1本の線といった感じ。2Kに限って言えば160秒あたりからも若干変化があるが、これはそう大きなものでは無い。総じてCPUの差が出にくいというべきなのか、あるいはまだ描画負荷が高いのでもう少し描画設定を落とすべきだったのかもしれない。

○◆Hitman 3(グラフ71〜77)

Hitman 3

IO Interactive A/S

https://www.epicgames.com/store/ja/product/hitman-3/home

ベンチマーク方法はこちらに準ずる。設定は

LOD:Ultra

Supersampling:Off

DXR Reflections/Shadows Off

としている。

グラフ71

グラフ72

グラフ73

グラフ74

グラフ75

グラフ76

グラフ77

さて結果(グラフ71〜73)ではRyzen 7 7800X3Dの本領発揮といった感じで、4Kまでの範囲で他を圧倒するフレームレートを示すが、Ryzen 7 9700Xも結構健闘しているのが判る。微妙なのがRyzen 5 9600Xで、2.5KではRyzen 5 7600Xよりもフレームレートが低いのアが、それ以外は悪くないフレームレートであり、ただCore i5-14600Kには一歩及ばずといったところだ。フレームレート変動(グラフ74〜77)はまぁこのベンチマークの場合には恐ろしく変動が大きいので比較が難しいが、Ryzen 7 7800X3Dを除くとRyzen 9000シリーズはまぁ健闘している方と考えて良いかと思う。ただCore i7-14700Kと比較してRyzen 7 9700Xがどこまでアドバンテージがあるか、は微妙なところではあるが。

●ゲームその3: Metro Exodus / SoT Tomb Raider / The Division 2 / Watch Dogs Legion

○◆Metro Exodus PC:Enhanced Edition(グラフ78〜84)

Metro Exodus PC:Enhanced Edition

4A Games

https://www.metrothegame.com/

ベンチマーク方法はこちらのMetro Exodus Enhanced Editionの項に準じる。設定は

Shading Quality:Ultra

Ray Tracing:High

Reflections:Hybrid

Variable Rate Shading:4x

Hairworks/Advanced PhysX:Off

Tesselation:Full

とした。

グラフ78

グラフ79

グラフ80

グラフ81

グラフ82

グラフ83

グラフ84

さてまず結果(グラフ78〜80)を見るとCore i5-14600Kのデータが酷い事になっているのだが、実はこれCore i5-14900Kも同じであって、何でかは判らないがとにかく煩雑にフレームレートが落ちる。これ実際に見てても明らかに動作がおかしいレベルである。フレームレート変動(グラフ81〜84)にもこれは反映されており、このグラフでもかなり激しい結果になっているのが判るのだが、実際にはもっと煩雑にフレームレートが10Hz台まで落ちる(Photo21)結果になっている。ゲームの方は特にUpdateは無いし、Ryzenプラットフォームでは正常に動いているところを見ると怪しいのはディスプレイドライバであり、その意味ではAdrenalin Edition 24.7.1 WHQLを使うと改善される可能性はあるのだが、今度は全データの取り直しが発生するので今回は見送らざるを得ない。とりあえずMetro Exodus PC:Enhanced Editionに関して、Core i5-14600K(と次の原稿で示すCore i9-14900K)の値は無視して頂きたい。

Photo21: 生データで言えば9100強のサンプルがあり、これをそのままグラフにするとExcelが死んでしまうので、0.5秒毎の平均を取ったのがグラフとして示しているフレームレート変動である。もう少し平均の間隔を狭める(多分このグラフは0.1秒毎)と、こんな具合に激しい事になる。

で、Ryzen 4製品のみで比較すると、2Kに関してはやはりRyzen 9000シリーズが他より若干(本当に若干)であるがフレームレートが高い。どの辺が? ということでフレームレート変動を見ると2K(グラフ81)で開始から25秒目あたり、比較的負荷が低いあたりでのみ差が出ている(あとは25秒付近のちょっと負荷が高いところでの落ち込み具合の差)。一番負荷が高い75〜90秒付近はもうGPUがボトルネックなのかあまりフレームレートの差は見えない感じで、総じて大きな差とは言えないが、それでも多少なりとも違いがあるのは間違いない。2.5K以上はもう完全に1本の線になってる感じなので、まぁ差がでるのは2Kだけといったところだ。

○◆Shadow of the Tomb Raider(グラフ85〜91)

Shadow of the Tomb Raider

SQUARE ENIX

https://tombraider.square-enix-games.com/en-us

ベンチマーク方法はこちらに準じる。設定は

Quality:Highest

Ray Tracing:Off

とした。XeSSも無効化している。

グラフ85

グラフ86

グラフ87

グラフ88

グラフ89

グラフ90

グラフ91

これまでのテストに比べると気持ち良いくらいに性能差が出たのがこちら。まず結果(グラフ85〜87)を見ると2.5Kあたりまで明確にフレームレートが分離している。最高速はRyzen 7 7800X3Dで、これにRyzen 9000の2製品が続く。Ryzen 7 7600XもCore i5-14600Kよりは高速ではあるが、Ryzen 9000シリーズとの差は明確にあり、逆にRyzen 9000の2製品に殆ど差が無いあたりはSingle Thread性能が効果的に効いているということだろう。

フレームレート変動(グラフ88〜91)もこれを裏付ける格好である。2Kのケース(グラフ88)で言えば、そもそも40秒あたりまでもグラフが分離している(ここでRyzen 5 7600XのフレームレートがRyzen 9000並の場合とCore i5-14600K並の間を行き来しているのがちょっと面白い)。その後80秒あたりまでは接近するが、その先の120秒あたりまでで描画負荷が軽くなるのか、急にフレームレートがあがるところでは5つのCPU毎に見事にグラフが分離しており、この辺がCPU性能を如実に示していると見てよいかと思う。130秒あたりからまた分離するわけだが、ここもそれなりに性能差が示されていると思う。

2.5Kはもう少し差が小さくなっているが、それでもCPU性能の差は明白である。

一言書いておけば、平均フレームレートが一番低いCore i5-14600Kでも普通にプレイするには十分な性能が出ているのは間違いない。あくまでもその上での性能比較である。

○◆Tom Clancy's The Division 2(グラフ92〜98)

Tom Clancy's The Division 2

Ubisoft

https://www.ubisoft.co.jp/division2/

ベンチマーク方法はこちらの"Tom Clancy's The Division 2"に準ずる。設定は

品質:ウルトラ

とした。

グラフ92

グラフ93

グラフ94

グラフ95

グラフ96

グラフ97

グラフ98

久々のThe Division 2であるが、結果(グラフ92〜94)を見ると性能差が明確に出るのはまぁ2Kのみといった感じである。Core i5-14600Kなど、ほぼ2Kと2.5Kが同じフレームレート、というあたりは判りやすい。で、ここではRyzen 7 9700KがRyzen 7 7800X3Dを抜いてトップに立っているという珍しい構図であり、そのRyzen 7 7800X3DにRyzen 5 9600Xが肉薄しているあたりもかなり興味深い。Ryzen 5 7600Xとは10fps以上の差があるから、これは間違いなく大きな違いとして良いかと思う。

フレームレート変動を見ても、2K(グラフ95)では、差は大きくないとは言えほぼベンチマーク全体を通してグラフが分離しており、この辺で性能差は明白である。面白いと言えば、前半はRyzen 7 9700Xが、後半はRyzen 7 7800X3Dがそれぞれ優勢であるが、トータルするとRyzen 7 9700Xの方が上という構図になっている事だ。無条件でRyzen 7 9700XがRyzen 7 7800X3Dを上回っている訳ではない、というあたりは3D V-Cacheが依然として有利なシーンがあるという話でもある。ただ2.5K〜4K(グラフ96〜98)は次第に1本の線に収束してゆくあたりは実に判りやすい。

○◆Watch Dogs:Legion(グラフ99〜105)

Watch Dogs:Legion

Ubisoft

https://www.ubisoft.co.jp/wdlegion/

ベンチマーク方法はこちらの"Watch Dogs:Legion"に準ずる。ちなみに設定は

Quality:Very High

RT Reflection:Off

とした。

グラフ99

グラフ100

グラフ101

グラフ102

グラフ103

グラフ104

グラフ105

ということでベンチマークの最後はこちら。このテスト、Ryzen 7 7800X3D(やRyzen 9 7950X3D)では異様にフレームレートが伸びるというのは過去に実証済であり、結果(グラフ99〜101)を見ると今回もRyzen 7 7800X3Dが圧倒的なフレームレートを示しているが、それはともかくとしてRyzen 7 9700Xがかなり健闘しているのも特徴的である。逆にRyzen 5 9600XはRyzen 5 7600Xと大差ない(一応フレームレートで言えば1fpsほどの向上はある)あたりは、コアの数も関係してくるのかもしれない(それにしてはCore i5-14600Kが伸びないのが気になるが)。一応3KあたりまではCPUによる性能の差があるあたりは、CPUがボトルネックになりやすいテストではある。もっともこれは描画オプションをVery Highに落としているから、という面もありそうだが。

フレームレート変動(グラフ102〜105)を見ると、例えば2K(グラフ102)でRyzen 7 7800X3Dはもう他と完全に分離している。Ryzen 7 9700Xは、Ryzen 5 7600X/Ryzen 5 9600Xと絡んでるシーン(50〜70秒あたり)もある一行、0〜50秒では明確にグラフが分離するなど、それなりに性能の違いが効いている部分もある事を示しており、この辺はコアの数が何かしら影響しているのかもしれない。4K(グラフ105)では見事に1本の線となるが、その手前の3K(グラフ104)だと0〜30秒あたりと80〜90秒あたりは明確に分離しており、描画負荷が軽いところではCPU性能が結構効きやすい事が伺い知れる。

●ゲームベンチマーク総評

○◆ゲームベンチマーク総評(グラフ106)

グラフ106

ということで合計13タイトルのゲームベンチマークの結果をまとめたのがこちら。2Kにおける平均フレームレートについて、Ryzen 5 7600Xを100%とした場合の相対性能を示してみた。一番最後に幾何平均を示しているが、やはり圧倒的なのがRyzen 7 7800X3Dなのはまぁ判っていた事だが、Ryzen 7 9700Xもかなり近い値をしめしており、結構ゲームに有効である。そしてRyzen 5 9600Xも悪くない結果となっている。3D V-Cache無しでここまで性能が向上するなら、将来出るであろう3D V-Cache版のRyzen 9000シリーズは期待できそうである。

●RMMT / Sandra

○◆RMMT 1.1(グラフ107〜108)

Sandraの前にRMMTの結果を。今回は3D V-Cache搭載のRyzen 7 7800X3Dが混じっている関係で、テストサイズは80MB(81920KB)にした。これでも1 ThreadだとL3に収まってしまうのだが、これ以上大きくするとRMMTの方が異常動作をするケースがあるので、まぁ仕方がない。

グラフ107

そんな訳でまずRead(グラフ106)だが、3 Thread辺りまではRyzen 9000シリーズの帯域は少し高めに推移している。4 Threadあたりでメモリコントローラ側がボトルネックになるのかほぼRyzen 5 7600Xと同じ辺りに収束するのはまぁ仕方ないことだろう(この辺はIODのUpdateが無いから当然ではある)。

グラフ108

一方のWrite、こちらはむしろRyzen 9000シリーズがRyzen 5 7600Xよりも低めに推移するというちょっと良く判らない状況だが、Ryzen 5 9600X/Ryzen 7 9700Xの両方がほぼ同じスコアを出しているところを見る限り、これがZen 5コアの特性ということなのだろう。あるいはWriteよりもReadを優先するアルゴリズムを入れた、ということなのかもしれない。

○◆Sandra 20/21 31.139(ダイジェスト)(グラフ109〜135)

Sandra 20/21 31.139

SiSoftware

https://www.sisoftware.co.uk/

なんか最近Updateが全くないSandra。トップページの最後の話題も2023年10月30日だし、今回利用した31.139もリリース日は2023年12月30日と結構古い。今回もいくつかのテストは動かないとか、結果がおかしい(DirectX 10でのVideo Memory Benchmarkが明らかに結果がでたらめになっている)のに修正がなされていないなど、ちょっと色々不都合も出て来ている。他にSandraの代替になるようなMicrobenchmarkが無いだけに、もう少し何とかしてもらいたいところである。

グラフ109

グラフ110

さて、今回はダイジェスト版ということで、主にCPUコアの性能とMemory Bandwidth周りだけに絞って結果をお届けしたい。まずグラフ109/110がDhrystoneで、意外にもMC+MT(Multi Core+Multi Thread)ではRyzen 9000シリーズの性能が伸びないが、1Tの方だと明確な伸びを示している。これはどういうことか?というと後で消費電力の所で数字を比較すると明白なのだが、Ryzen 9000シリーズはそもそも消費電力枠を低く抑えている。もう一度スペックを示すと

となっている。

つまりRyzen 5 9600Xは88W枠で105WのRyzen 5 7600Xと同じ性能だし、Ryzen 7 9700Xは88W枠で120WのRyzen 7 7800X3Dと同等の性能を出している、というのがグラフ109の結果な訳だ。一方グラフ110の方は1Threadでの動作だから、当然TDP枠を全部使い切る事は出来ない。恐らくMax Boostに近い数値での動作ではあり、そうなるとMax Bootの動作周波数の比+IPCの比、というのが結果に反映される訳だ。こう考えると、グラフ109/110の数字は納得できる。

グラフ111

グラフ112

これはWhetstone(グラフ111・112)も同じで、なぜかMT+MCでも.NETを使うとRyzen 9000シリーズの性能が伸びるのが今一つ判らないが、概ねDhrystoneと同傾向である。ただDhrystoneでは.NETでもRyzen 9000シリーズの伸びはそんなに大きくないのに、Whetstoneだけ伸びるというのはどういう仕組みなのかちょっと不思議である。

グラフ113

グラフ114

グラフ115

グラフ116

グラフ113〜116はCryptographic Testであるが、AESのEncode/DecodeのMT+MC(グラフ113)がまぁどのケースでも同じなのは、もうAVXのAES命令を多用している以上性能はメモリ帯域と動作周波数で決まり、そうなるとTDPが低めのRyzen 9000シリーズが不利なのは当然である。逆に1Tで、しかも処理の重いAES256だとRyzen 9000シリーズがトップ性能というのも理解できる。強いて言えばAES128で今一つ(Ryzen 5 7600XやRyzen 7 7800X3Dに負ける)あたりが不思議ではあるが、AES128/256で性能が変わらないというあたりは実装の違いと見做すこともできる。で、AES命令が効果の無いHashingに関しては、MT+MC(グラフ115)と1T(グラフ116)どちらもRyzen 9000シリーズの性能が高いのは、これは純粋にIPCの向上の効果の一部と見做して良いかと思う。

グラフ117

グラフ118

グラフ119

グラフ117〜119はFinancial Analysisの結果であるが、これもDhrystoneと同じでMT+MCに関しては動作周波数を上げられる(=TDPの大きい)方が有利という事で、Black-Scholes/Binomial/Monte Carloの何れの方法でもRyzen 9000シリーズはRyzen 7000シリーズよりやや低めの数字である。ところが1Tになるとこれは話が別で、Binomialを除くと全てRyzen 7000シリーズより性能が出ている。勿論ピーク性能が欲しい、というのであればこれは物足りないのかもしれないが、それであればそもそもRyzen 9を選ぶべきなのであって、Ryzen 5/7向けとしてはむしろ消費電力を控えめにする方がユーザーニーズに合っている、とAMDとしては判断したのかもしれない。

グラフ120

グラフ121

グラフ122

グラフ120〜122がScientific Analysisである。こちらではAVXユニットの数が倍増した関係だろうか、1TだけでなくMT+MCでもRyzen 9000シリーズの性能の伸びは大きい。それでもGEMMに関して言えば、やはり3D V-Cacheの効果でRyzen 7 7800X3DがMT+MCでは最高速であるが、SGEMMの1TだとRyzen 7 7900Xの半分でしかないあたり、FPUの強化が非常に大きく影響しているのが見て取れる。これはFFTとかN-Bodyも同じである。特にFFTなどオンメモリの処理が多くなるから本来ならRyzen 7 7800X3Dが最高速でも不思議ではないのに、実際はRyzen 9000シリーズがどちらもRyzen 7 7800X3Dを上回る結果を出しているあたり、本当にFPU周りの性能が大きく向上している事が伺える。

グラフ123

グラフ124

グラフ125

グラフ126

グラフ123〜126がImage Processingである。グラフ123・124がMT+MC及び1Tでの生の結果であるが、テスト毎に性能が大きく違うのでちょっと判断しづらい。そこでRyzen 5 7600Xの結果を100%とした相対性能を示したのがグラフ125・126である。MT+MCであってもRyzen 9000シリーズは10〜30%程度の性能の伸びを示しているのが判るが、1Tだと更に極端で、1TのBlurだと実に4倍近い性能の伸びで、他も40%前後の伸びを示しているのが見て取れる。Image Processingといっても内部はフィルタ処理であり、例えばBlurなら3×3のConvolutionだし、同様にSharpenなら5×5、Motion Blurなら7×7のConvolutionである。DiffusinならRandomiseだし、他にSobel/Median/Quantise/Perlin 2D Noiseなどの処理を行う訳でガリガリの計算処理であるのだが、こうした用途でRyzen 9000シリーズは高い性能の伸びを示すことが確認できたのは大きいと思う。

グラフ127

グラフ128

グラフ129

グラフ130

グラフ127〜130がInter-Thread Efficiencyのダイジェストである。まずグラフ127・128がInter-Thread LatencyのBest/Worstであるが、結果を見てみるとInter-Thread、つまり同一コア内のThread同士でのデータ交換のLatencyは3ns程大きくなっており、逆にInter-Core、つまり同一CCD内の異なるコア間のデータ交換は4〜5ns程少なくなっている。これはなかなか興味深い話である。あるいはDecoderが大幅に拡張され、2つのThreadで別々のDecode/Queueを持つようになったのがこのInter-Thread Latencyの増加に繋がっているのかもしれない。

一方のInter-Thread BandwidthのBest/Worst(グラフ129・130)であるが、Bestの方を見ると特にL2〜L3にかけてのBandwidthが大幅に伸びており、これはL2/L3の周りの改良が影響しているものと思われる。これはWorstの方も同じであるが、ことL3に関してはRyzen 5 7600Xが一番帯域が大きいというのは、余分な事をしていない分Worstケースで性能が落ちにくいということなのだろうか? ちょっと不思議ではある。

グラフ131

グラフ132

グラフ131・132がMemory Bandwidthである。これはStreamと、次に出てくるCache&Memory Bandwidthの256MB〜4GBの平均値をまとめた物だ。MT+MC(グラフ131)でCore i5-14600Kが飛び抜けているのは、RMMTの結果を見ればまぁ納得である。それはともかくとして、Ryzen 9000系はRyzen 7000系よりもやや低めになっているが。これは恐らく動作周波数の問題であろう。実際1T(グラフ132)だとRyzen 9000系はRyzen 7000系より僅かながら性能が向上しているのが見て取れる。最終的にメモリコントローラは共通なので、ここで大きな性能差が出て来るとは考えにくいが、多少なりともLoad/Storeユニットの改良がこうした結果に繋がったものと思われる。

グラフ133

グラフ134

で、Cacheエリアまで広げて帯域を確認したのがこちらのCache&Memory Bandwidth(グラフ133・134)。MT+MC(グラフ133)より1T(グラフ134)の方が判りやすいと思うが。L1及びL2の帯域が大幅に向上しているのが判る。L1に関しては、AVX512を同時2命令実行できる様にLoad/Storeユニットが大幅に強化されたのがこの結果に繋がっているものと思われる。また16MBあたりまでも帯域がRyzen 7 7800X3Dより上というあたり、L3に関しても帯域強化が行われたのはほぼ確実である。ただ全Threadでこれを行うと、恐らく消費電力のリミットが先に来るのだろう。MT+MCでL2 Accessになった途端に帯域が跳ね上がるのは、全コアがL1をフルにぶん回すと消費電力がリミットになり、動作周波数が引き下げられたためであると考えられる。このあたり、Ryzen 9だとTDPがもっと大きいので、また違った傾向になりそうである。

グラフ135

最後にVideo Memory Bandwidth(グラフ135)。要するにPCI Expressの帯域確認であるが、これについてはそもそもPCIeのI/FのあるIoDが共通だから、当然性能に差はみられない。まぁ性能差が無いのが確認できた、というのが正確な言い方だろう(それにしてもCore i5-14900Kが妙に低いのはどうしたものか? ちなみにCore i9-14900Kだと、CPU to GPUはCore i5-14600Kと大差ないが、GPU to CPUは23.9GB/secでほぼRyzenと違いが無い。

●消費電力測定 / 総評と考察

○◆消費電力測定(グラフ136〜144)

最後にお馴染み消費電力測定。今回はSandraのDhrystone/Whetstone(グラフ136)、CineBench R24のAll Cores(グラフ137)とOne Core(グラフ138)、TMPGEncでの4 Streamエンコード(グラフ139)、GeekBench MLの実行(グラフ140)、3DMark SteelNomad Light(グラフ141)とMetro Exodusの2K(グラフ142)という7つのデータを取ってみた。この中で言えば、まずMetro Exodusは先にベンチマークの所で説明したように失敗で、実際性能が低い分消費電力も下がっているが、これは比較基準にはならないのでCore i5-14600Kのデータは無視してほしい。また3DMarkがSteelNomadではなくSteelNomad Lightを使ったのは、SteelNomadだとGPUの負荷が高すぎて、CPUによる差が殆ど無かったので、こちらにしてみた。GeeekBenchは試しにやってみたが、あまり良いテストでは無かったようだ(それでも傾向はつかめたが)。この7つのテストにおける消費電力の平均値をグラフ143に、それと待機時との消費電力差をグラフ144にまとめてみた。

グラフ136

グラフ137

グラフ138

グラフ139

グラフ140

グラフ141

グラフ142

グラフ143

グラフ144

まず判るのがRyzen 9000シリーズの消費電力の低さだ。Ryzen 5 9600XはRyzen 5 7600Xに比べて50W近く消費電力が低い。それでいて性能に大差が無いというのはかなり驚きである。Ryzen 7 9700XもRyzen 7 7800X3Dとほぼ同程度に収まっている。今回比較をRyzen 7 7700XとRyzen 7 7800X3Dのどちらにするか悩んだ末、特にゲームを遊ぶ人に好評という事もあるのでRyzen 7 7800X3Dを選んだのだが、多分比較としては正解であったと思う。

実際ここまで見てきたように、性能という意味ではRyzen 7 7600XとRyzen 7 9600Xでは大きく差が無い(むしろ向上している場合もいくつかある)のに消費電力が50W下がったというのは、非常に大きなポイントである。またRyzen 7 7800X3Dは3D V-Cacheの制約もあってあまり温度を上げられないためにTDPが低めになっている訳だが、それとRyzen 7 9700Xは同等レベル(殆どのケースではむしろ消費電力が下がっている)というのは中々画期的だと思う。

先にもちょっと書いたが、恐らくAMDとしてはRyzen 5/7のSKUは絶対性能よりも性能/消費電力比の改善に注力する事を方向性として選んだのだろう。商品構成としてこの選択は絶対に正しいと思う。

実際性能/消費電力比をちょっと試算してみたのが表3〜5であるが、とにかくRyzen 7 9700Xの性能が他と比べて圧倒的に良いのが良く判る。Ryzen 5 9600Xも悪くはないのだが、Ryzen 7 9700Xに比べるとやや劣るのは、コア数が6と少ない分動作周波数をやや引き上げているためだろうか? それでもRyzen 5 7600Xよりは随分改善されている訳で、これは素直に驚きしかない。

○考察

ということでまずはエントリモデルのRyzen 5 9600XとRyzen 7 9700Xの性能をお届けした。本国の価格では今朝報じた様に

・Ryzen 5 9600X $279.00

・Ryzen 7 9700X $359.00

・Ryzen 9 9900X $499.00

・Ryzen 9 9950X $649.00

と発表されている。

今回はRyzen 5とRyzen 7が対象なのでRyzen 9の話は措いておくとして、米国Amazonにおける8月6日(日本時間:米国時間では8月5日)現在の価格は

・Ryzen 5 7600X $197.80 (https://www.amazon.com/dp/B0BBJDS62N/)

・Ryzen 7 7700X $288.26 (https://www.amazon.com/dp/B0BBHHT8LY/)

・Ryzen 7 7800X3D $376.26 (https://www.amazon.com/dp/B0BTZB7F88/)

となっており、定価はともかく実勢価格で考えるとちょっと割高なのは致し方なしだろう。それでもこれらの発表時の価格は

・Ryzen 5 7600X $299.00

・Ryzen 7 7700X $399.00

・Ryzen 7 7800X3D $449.00

だったから、性能を上げながら値下げも実現して、しかも消費電力も下がっているのは大したものだと思う。

一方、日本国内では8月10日の11:00に発売開始であり、販売価格は

・Ryzen 5 9600X \54,800

・Ryzen 7 9700X \70,800(どちらも税込)

となっている。同様に日本Amazonでの8月7日現在での価格は

・Ryzen 5 7600X \36,980 (https://www.amazon.co.jp/dp/B0BGX57VQD/)

・Ryzen 7 7700X \52,980 (https://www.amazon.co.jp/dp/B0BGX738W4/)

・Ryzen 7 7800X3D \69,700 (https://www.amazon.co.jp/dp/B0BTZB7F88/)

というあたりで、まぁ当初はやや高めなのは致し方ないが、今Ryzen 7 7800X3Dを購入するのとほぼ同じ価格でRyzen 7 9700Xが買えるというのは、なかなか判断が難しいところである。

全体として性能には申し分が無いと思う。このクラスのCPUでピーク性能を得るために100Wを超える電力を突っ込むというのは正直まるで感心しない。これならX SKUでない、65W TDPのモデルでもかなり良い性能を出すと思える。そうでなくても猛暑で冷房を使わないと死んじゃうとかいうこのご時世には、この効率の良さは非常に得難い特徴だと思う。筆者は現在の原稿書きマシンにRyzen 7 7700Xを突っ込んでいるが、これをRyzen 7 9700Xに更新する事を真剣に考えている。

Ryzen 9に関してはピーク性能が問題にされやすいラインナップであり、こちらはAMDも判ってるのか、TDPを120W(Ryzen 9 9900X)/170W(Ryzen 9 9950X)に設定しているから、こちらでは効率は落ちるだろうが性能は更に上がる事が期待できる。性能を取るか、効率を取るかという話だが、性能を取るのはRyzen 9だけで十分である。効率を重視したいユーザーには強くお勧めしたい。既存のRyzen 5 7600X/Ryzen 7 7700XユーザーのUpgradeも、この性能と消費電力なら十分意味があると思う。