口臭で「スメハラ」リスク増 “臭い”の正体&対策を歯科医師が解説
体臭や口臭、香水などのにおいで他人に不快感を与えることを指す、いわゆる「スメルハラスメント(スメハラ)」という言葉が登場するようになりました。日々、自分の体臭や口臭に敏感になっている人は多いのではないでしょうか。特に口臭の場合、毎日、歯を磨いていても消えないことがあり、多くの人が悩んでいるといわれています。
そもそも、なぜ口臭が生じるのでしょうか。口臭を消すにはどのような対策が有効なのでしょうか。口臭の原因や対策のほか、口臭を消すことで飲食時に生じるメリットについて、幸町歯科口腔外科医院(埼玉県志木市)院長で歯科医師の宮本日出さんに聞きました。
歯周病が進行している可能性も
Q.なぜ口臭が生じるのでしょうか。
宮本さん「職場の7割の人が周囲の人の口臭に悩んでいるという調査データもあり、口臭は周囲に不快感を与える『スメルハラスメント』の一つに挙げられます。口臭の国際分類によると、口臭は次のように分類されています」
(1)真性口臭症(全体の68%、以下カッコ内は全体に占める割合)
実際に口臭があるもので、他人が明らかに不快な臭いを感じるもの。
・生理的口臭症(22%)
口腔(こうくう)内の清掃不良のために蓄積した舌表面の汚れに由来するもの。
・病的口臭症:局所原因(45%)
歯周病に由来するもの。
・病的口臭症:全身原因(1%)
肝臓疾患などに由来するもの。
(2)仮性口臭症(29%)
実際には口臭はないが、自分に口臭があると思い込む精神的なもの。
(3)口臭恐怖症(3%)
口臭に対する恐怖心が著しく高く、真性口臭症や仮性口臭症に対する治療では改善できないもの。
まず、上記の中で、病的口臭症(全身原因)、仮性口臭症、口臭恐怖症は歯磨きをしても、自覚する口臭はなくなりません。これから解説する方法を試してみても効果がなければ、それらに該当する可能性があるため、専門医療機関の診療を受けましょう。
自力で対応が可能なものは、上記の生理的口臭症と病的口臭症(局所原因)になるため、今回はこれらに焦点を当てて解説します。
Q.では、口臭が生じるメカニズムについて、教えてください。
宮本さん「口臭の原因となる口臭成分は、口の中に生息する細菌が、食べ物や粘膜のあか、磨き残し(プラーク:細菌の塊)などのタンパク質や炭水化物を取り込む(分解)際に産生する排せつ物により発生します。臭い成分を総称して『発揮性硫黄化合物』といいます。この成分の特徴は嗅覚を麻痺させることにあり、自分自身で口臭に気付けないのは臭いを感じられなくなっているからです。
生理的口臭は多かれ少なかれ誰にでもあるのですが、原因は舌の表面の汚れ(舌苔)の中の口臭菌が原因で、菌数が増えると口臭は強くなります。口臭菌が出す硫化水素が原因で、ゆで卵のような臭いがします。
生理的口臭は唾液に含まれる洗浄効果が低くなると強くなり、起床時は就寝前より菌の数が30倍に増えているため、起床時の口臭は臭いやすいのです。また、口呼吸や緊張状態が続いたり、唾液腺の機能が衰えたりすると、口の中の唾液の量が減るため、口臭が強くなりやすいです。
歯周病に由来する病的口臭の臭い成分はメチルメルカプタンであり、特に強力な歯周病菌(P.gingivalis)の場合、非常に強い成分を大量に産生します。歯周病が進行すると口臭が強くなるため、口臭は歯周病の進行度を知るバロメーターともいえます。
メチルメルカプタンは、毒物および劇物取締法では毒物に指定され、その毒性は青酸ガスに匹敵するため、許可なく持ち運ぶことは禁止されています。また歯周病の治癒を邪魔し、進行を助けるので、厄介者なのです。メチルメルカプタンは野菜が腐ったような臭いがしますが、歯周病の人は舌の汚れが目立つ人や喫煙者も比較的多いので、これらの臭いと混ざりさらに強く臭うことも少なくありません。
ちなみに、全身原因の病的口臭の原因成分はジメチルサルファイドといい、生ごみのような臭いがします」
Q.口臭を消すにはどうしたらよいのでしょうか。対処法について、教えてください。
宮本さん「生理的口臭を防ぐことはそれほど難しくなく、舌の表面の汚れを落とすことが一番の対処法です。市販の舌ブラシを用意して、鏡の前で舌表面を奥から手前に向かってこすってください。力が強いと舌を傷つけますから、そっと数回こするだけでよいです。
舌ブラシの選び方ですが、舌清掃が初めての人は柔らかめのブラシを使用すると良いでしょう。舌清掃の経験がある人の場合は、汚れを浮かせてキャッチする効果のあるブラシをお勧めします。
歯ブラシは硬い歯を清掃するために設計されており、舌清掃に使うと舌を傷つける可能性があります。舌の清掃効果も高くないため、歯ブラシを舌ブラシの代わりに使うのは控えた方がよいでしょう。
病的口臭対策は、いわば歯周病対策です。これはセルフケアとプロケア、つまり自分で毎日行う清掃と、定期的に歯科医院で行う清掃の両方が必須となります。なぜなら、歯周病は自分だけでは絶対に治せない病気だからです。歯周病が軽度であれば3〜6カ月の通院で症状が治まることもありますが、数年かけないと治らない悪い菌が原因の歯周病もあります。
結局、生理的口臭も病的口臭も、口をきれいにしておくことが基本的な予防になるということです」
舌の汚れを落とすと食べ物をおいしく感じるように
Q.口臭対策として舌の表面の汚れを落とすと、飲食物の摂取の際にどのようなメリットがあるのでしょうか。
宮本さん「まず、食べ物をおいしく食べられるようになります。舌の表面には味蕾(みらい)という細胞があり、ここで甘みや塩味、酸味、苦みという4つの基本味覚のほか、うま味や脂肪味を感じ取っています。味蕾はいわば食べ物の味を感じるセンサーというわけです。
先述のように、口臭を防ぐ一番の対処法は舌の表面の汚れを落とすことです。口臭がある状態の表面が汚れた舌は、食べ物の味がセンサーに届きにくく、味覚が鈍った状態です。つまり、口臭がなくなれば、いつもの食事が今まで以上においしく感じられるようになります。
さらに食事を食べ過ぎなくなるというメリットもあります。味覚が鈍っていると、味の濃いものを好みがちですが、そうしたものには塩分や糖分、脂肪分が多く含まれる傾向があり、カロリーも高いのが特徴です。
また、味で満足できないため、必要以上に食べてしまう傾向もあります。実際、肥満の人は味覚が鈍感であるという研究結果も報告されています。口臭をなくすことで、おいしく食事ができて、カロリーオーバーも防ぐことができるというわけです」