「街の習い事教室」が経営のピンチ

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ピアノ、水泳、エアロビクス、英会話、パソコンといった「街の習い事教室」が経営のピンチに陥っている。

東京商工リサーチが2024年7月18に発表した「2023年『教養・技能教授業』業績調査」によると、売り上げこそコロナ禍から徐々に復活しつつあるが、肝心の利益が半減し、厳しい状況に追い込まれているという。

子どもを通わせている親も心配だろう。どうすればよいのか。調査担当者に聞いた。

売り上げはほぼ100%回復、だが利益は半分以下に

コロナ禍では休業や生徒減少、不慣れなオンライン授業などを強いられていた対面型のエアロビクス、外国語会話教室、音楽教室などの「教養・技能教授業」(習い事教室)が復活してきた。

東京商工リサーチの調査によると、習い事教室を運営する全国399社の2023年(1〜12月)の売上高合計は1389億6100万円で、コロナ禍前の2019年の97.9%までV字回復を果たした。

しかし、2023年の最終利益は15億1100万円で、コロナ禍前の2019年(32億4200万円)の46.6%と半減以下にとどまった。電気代などの物価高、人件費上昇に見合う価格転嫁が難しく、「利益なき成長」をたどっている【図表】。

小学校ではICT教育が導入され、英語も必修化になった。社会人のリスキリングなど、習い事教室には追い風が吹いている。

だが、総務省の「家計調査報告」(2024年4月分)によると、「教養娯楽」の消費支出は2万9738円で、5か月連続で減少している。物価高の直撃で、消費者が習い事にかける費用が減っている。

習い事教室側も月謝の値上げは他の教室やスクールに生徒が流出する危険性があり、安易に値上げしにくい環境にある。

生徒が独学で学ぶ動画配信サービスなど、コロナ禍を経てサービスは多様化し、競争は一段と激しさを増している。

2023年の習い事教室の倒産は、全国で49件(前年比16.6%増)発生した。豊富な資金力で店舗展開し、人員獲得を積極的に進める大手企業に対し、個人企業や小規模・零細企業は細やかなサービスで差別化を図る構図となっている。今後はいかに優良コンテンツを継続的に提供できるかがカギだ。

生活費を削り、月謝を捻出に苦労する会員が増えている

J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した東京商工リサーチ情報本部の内田峻平(うちだ・しゅんぺい)さんに話を聞いた。

――習い事教室には追い風が吹いているうえ、売り上げがV字回復しているのに利益が半減している理由は、ズバリ何でしょうか。

内田峻平さん コロナ禍で減少した会員が戻れば売り上げが回復しますが、この間に人件費、電気・光熱費、テナント代などが上昇したため、利益回復が難しいのが実情です。

また、実質賃金が目減りするなか、生活費のどこかを削り必要な月謝を捻出している会員が増えており、月謝の値上げはお客離れと背中合わせで簡単ではありません。

――習い事教室といっても、エアロビクスやリトミック、絵画、書道、茶道、英会話、ピアノ、バレエ、IT関連などさまざまな分野がありますが、特にこの分野が時代に合わなくてピンチに陥っているとか、この分野は需要が伸びて業績が安定しているとか、トレンドによる細かな違いなどはあるのでしょうか。

内田峻平さん トレンドによる違いというよりは、仕事に直接結びつくリスキリングのニーズや、仕事から離れた余暇や趣味、健康などを、どう取り込むかが大事です。その際、密度と満足度の高いサービスを提供し、相応の対価をいただくことがポイントになります。

一方、その正反対に安い料金で、お客の自主性に任せたスキル支援サービスなど、多様なビジネスモデルがあり、差別化を図れるかどうかで業績に差があるように感じます。

生き残るには、優良コンテンツの提供と実績が必要

――倒産が2023年に全国で49件発生していると報告されています。具体的にどんな分野の倒産が目立つのでしょうか。

内田峻平さん 2023年に倒産が多かったのは、スポーツ教室になります。具体的にはスイミングスクールが挙げられます。スイミングスクールを運営していた関東地方のA社は少子化の影響を受け、生徒・会員数が減少していたなか、コロナの影響で休業を余儀なくされ、業績回復の見通しが立ちませんでした。

また、関東地方のB社は、コロナの影響を受けて休業や営業時間の短縮を余儀なくされ、会員数が減少。家賃や人件費、水道光熱費に加え、コロナ対策費が加わったことで負担がさらに重くなり、破綻に追い込まれました。

――東京商工リサーチで先日発表した「学習塾の倒産」リポートでは、インターネット上の無料動画サイトに顧客がとられていると指摘がされていましたが、習い事教室にもそういう強力なライバルはいますか。

内田峻平さん 習い事教室でも、YouTubeや無料の動画サイトなどを顧客が利用するケースがあります。ただ、正しい知識を得るには、きちんと講師と向かい合うことが重要で、学習塾よりも影響は少ないと考えます。

また、スイミングスクールなどのスポーツ教室、音楽教室などは通わなければ学べない装置型モデルで、こうしたモデルの影響は限定的です。

――今後、習い事教室が生き残るにはどうしたらよいか、何が課題だと考えていますか。

内田峻平さん 生き残るには、優良コンテンツの提供と実績が必要です。また、特定の先生、トレーナーに教えてもらいたいというファンの獲得も重要です。

課題として、少子高齢化の波を受けるサービスでは対象人口の減少、そして、「教養娯楽」への支出削減への対応が挙げられます。

物価高で、習い事教室に通う回数を減らす、またはあきらめるケースもありますので、事業者は提供価格に見合ったサービス枠をつくり、価格引き上げの高付加価値サービス、価格引き下げの低付加価値サービス、など視野を広げてお客に寄り添うことも必要と思います。

幼児もシニアも、習い事教室で人生が広がる

――今回の調査で特に指摘しておきたいことがありますか。

内田峻平さん 幼少期の習い事は、その後の人生でも経験が生きることが多く、社会人ではスキル向上や給料上昇が見込める場合もあります。シニア世代では、習い事教室で人との交流が広がり、自らの居場所となるケースもあるでしょう。

ニーズが多様化するなか、新たな市場、ターゲットが生まれています。どのような習い事を提供できるか、ニーズをつかみ取れば競合を生き抜くことも可能です。各企業の戦略に注目されます。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)