19歳飲酒・喫煙で五輪辞退は妥当なのか…一大スポーツイベントを支配するスポンサー“無言の圧”の重み
体操女子・パリ五輪代表の宮田笙子選手(19)が喫煙・飲酒行為発覚のため、代表を辞退した。この決定以降、SNSなどネット上では「厳しすぎる」「規律を破ったのだから仕方ない」など賛否の声があがっている。
「法律を守らなければどうなるか身をもって知る必要がある」「厳しすぎるといってもルールやマナーがある」「してはいけないことをしたのだから一発アウト」
宮田選手の辞退について肯定的意見の大半は、「ルールを破ったのだから仕方ない」というもの。一方、否定的意見は、「問題だが辞退するほどではない」「成人を18歳に引き下げた時点で見直すべきだった」「たかがタバコでなにを騒ぐ」とやや感情論的な擁護コメントが多くを占めた。
声の多くは「ルールは守るべき」という辞退妥当派だったが、「これくらいで若者の夢を壊すな」という擁護派の熱い声も目についた。選ばれし者だけが参加できる4年一度の一大スポーツイベント。それだけに、どちらの意見にもそれなりにうなずける部分はある。
五輪とスポンサーの関係そのうえで、これら議論とは別の判断基準がないのかを探る意味で、少し俯瞰(ふかん)して五輪とスポンサーの関係を改めて整理してみる。
パリ2024オリンピック競技大会参加者は、大会期間中の自身の容姿、名前、映像(肖像)や大会でのパフォーマンスに関する商業利用について、オリンピック憲章規則40条付属細則3に規定される国際オリンピック委員会(IOC)理事会が定める原則を遵守する必要がある。
これが何を意味するのか。プロとして活動しているアスリートでも、五輪期間中は自身の個人スポンサーに対し、不自由が生じる可能性があるということだ。とくに前回の東京2020大会以前は、ルールがより厳格だったため、個人スポンサーが受ける恩恵はかなり限定的だった。
さすがにそれでは厳しすぎるとして、前回の東京2020大会から個人スポンサーでも「自身の身体、名前、写真、あるいは競技パフォーマンスが宣伝の目的で大会期間中に使用されることを許可することができる」とその内容が一部変更され、実質的に規制緩和となった。
”商業五輪”といわれて久しいが、もはや莫大(ばくだい)な運営コストのかかるオリンピック開催は、スポンサー抜きには成立しない。逆にいえば、少しでもスポンサーを汚すような行為があれば、各国のオリンピック委員会にとって一大事ということだ。なかでも”上客”となるのが、オリンピックパートナーといわれる、スポンサー企業だ。
多額の協賛金を支払っているオリンピックパートナーには、当然それだけの見返りがある。たとえば、選手の肖像権の場合、オリンピックパートナーには基本NGはないが、選手の個人スポンサー等には一部制約があり、お祝い広告や結果報告等はNGとなっている。
オリンピックパートナーでも個人スポンサーでもない企業となると、たとえ選手とそれまでの関係性があった企業でも、五輪期間中は選手の肖像を商業目的で使用できない。五輪がスポンサーの支援で成り立っている以上、そうでない企業をただ乗りさせるのは不誠実となるからだ。
IOCはその防止のため、「専門的な業者に依頼し、定期的に商標の出願状況や企業の広告宣伝 · 販売促進状況をモニターすると共に、万一発生した場合には、法的な対応をする等、厳しく取り締まっています」とし、スポンサーの不利益阻止に最大限の配慮をしている。
五輪に限らず絶大な影響力を持つとスポンサー五輪に限らず、一大スポーツイベントも状況は変わらない。サッカーの日本代表戦は主に大手企業がスポンサードし、成り立っている。代表選手に不祥事があれば、疑惑段階でも途中離脱させたり、招集しなかったりの措置をとるが、その判断基準は監督の意向などほぼスルーでスポンサーの顔色をうかがってのものに他ならない。
まさに「スポンサー様様」だが、スポンサードする企業にすれば、昨今のコンプライアンス遵守という潮流にあらがえない側面もある。ただ、こうした大会やその参加者を窮屈にする原因がスポンサーとするなら、そのロジックはかなり強引といえる。
辞退妥当派が指摘するように、20歳未満での喫煙は未成年者喫煙禁止法で禁止されている。ゆえに五輪参加辞退もやむなし。確かにそうともいえる。だが、オリンピックにおける「法律」となる五輪憲章には、そうした場合の明確な規定はない。ではなにが、決断を迫ったのか。
成人年齢を超えた19歳の宮田選手がどういう判断で五輪からの離脱を決めたのかは分からない。日本体操協会は辞退の理由を「代表行動規律違反」としたが、否定派の声にあるように、なんとかならなかったのかの印象もぬぐい去れない。協会もなにかに忖度せざるを得なかったのか…。
論争はくすぶっているが、いよいよ26日(日本時間27日2:30)からパリ五輪が開幕する。図らずも、大会直前に日本代表選手がズシリと重い十字架を背負っていると認識させられることになった。それを思うと、応援で選手をよりサポートしなければと、拳にグッと力が入る。がんばれ、ニッポン!