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不動産収益の根幹である「家賃」。アパート経営において、さまざまな理由でエリア相場以下の水準の家賃設定を続けているオーナーも少なくありません。オーナーが「エリア相場並みの家賃が欲しい」と考えたとき、法的手段で値上げを実現することは可能なのでしょうか? 入居歴の長い住人や、オーナーチェンジ物件での値上げについて、賃貸不動産問題の知識と実務経験を備えた北村亮典弁護士が解説します。

相場より安いから…家賃値上げを実現させるには

アパートの家賃というのは、一般的には、入居時に賃貸借契約を締結するときに賃貸人と賃借人との合意によって定められるものです。

この賃料は、貸している側・借りている側双方にとって、賃貸借契約のなかでもっとも重要な契約内容です。合意によって定めた契約内容である以上、契約が継続している限りは「どちらか一方の意向だけでその内容を変更することができない」というのが原則です。

したがって、オーナーが賃料を増額したいと考えても、一方的に増額することはできません。賃借人と協議して合意できなければ増額は不可能です。

実務的には、入居歴が長い賃借人がいるなど、当初の契約時よりも賃料が周辺相場と比べて低廉となった場合などには、契約の更新時に賃料の増額を申し出て、賃借人の合意を得て増額するケースが一般的です。

ただし上記の通り、あくまでも双方が合意できなければ賃料の増額はできません。いまの賃料が周辺相場に比してかなり安いからといって、あまり極端な増額金額を賃借人に提示してしまうと、話がこじれてその後一切交渉できなくなってしまうということもしばしばあります。

周辺相場を踏まえつつも1度に極端な増額は求めず、現在の賃料の1〜3割程度での増額を申し出るなど賃借人の納得を得られるように交渉を進めることが重要です。

また、オーナーチェンジのタイミングで増額の交渉がなされることもあります。しかし、入居からあまり時間が経っていない賃借人が増額に応じる可能性は低いため、このような場合は、周辺相場に比して賃料が低いこと等の資料を用意し、賃借人の納得が得られるように交渉を進める必要があるでしょう。

では、上記のように賃借人と協議したものの、賃借人が増額に応じない場合は、以後まったく賃料の増額はできないのでしょうか。

この点、賃貸借契約は、売買契約などの「物を売って代金を支払って終わり」というような単発で終わるものではありません。建物を貸す側と借りる側の関係が長期間継続することを前提とする、いわゆる「継続的契約」になります。

そのため、契約を締結したときから期間が経過すれば、当初の契約時に定めた賃料が、社会情勢や地価物価の上昇または下落などにより、周辺の相場と比べて高くなったり、若しくは安くなったりするということが起こりえます。

そうなると、「合意ができなければ賃料が一切変更できない」というのは賃貸人または賃借人のいずれかにとって不利益な状況が固定化されてしまうことになりかねず、相当とはいえません。

したがって、賃貸借契約における賃料について、借地借家法32条は、以下の場合には契約条件にかかわらず、賃料の増減を請求できると定めています。

・土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減
・土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下
・経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき

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では、賃料を増額したいオーナー側として、もし賃借人と賃料増額の合意ができず、上記の借地借家法32条を使って賃料の増額をしたい場合は、具体的にどのような手順で手続きを進めることになるのでしょうか。

1.不動産鑑定士・不動産業者に相談

まずは、不動産鑑定士若しくは不動産業者に依頼して、現在の賃料について上記1から3のどの場合に該当するのか、また具体的に増額すべき金額についての見解をもらうのがいいでしょう。そのうえで、賃借人に対し「〇〇を理由に賃料を〇〇円増額する」という内容の文書を内容証明郵便で送付し、賃料の増額を請求します。

この請求に対して、賃借人側が協議に応じて合意できればそれで解決となりますが、賃借人側がなお増額に応じない場合は、オーナーは簡易裁判所に「賃料増額請求の調停」を申し立てる必要があります。

2.調停手続き

調停についての具体的な説明はここでは省きますが、簡単にいいますと「裁判所が間に入った話合いの場」というものです。

この調停の手続きにおいては、不動産鑑定士が裁判所の調停委員に選任される場合が多いです。そのため、この調停委員の意見も踏まえながら、賃貸人と賃借人が賃料の増額について合意できるかどうか話し合いを行うこととなります。

3.賃料増額請求の訴訟

この調停の手続でも合意ができなかった場合、次にオーナーは、裁判所に「賃料増額請求の訴訟」を提訴する必要があります。

この訴訟では、裁判官が双方の主張や賃料の増額に関わる資料を検討したうえで、オーナー側が求める賃料の増額金額が相当か否か、相当でない場合に具体的に増額が認められるべき金額(もしくは増額を認めないこと)について判断します。

なお、訴訟では、裁判所が選んだ不動産鑑定士によって賃料額の鑑定をされることが多く、裁判官もその結果を尊重して増額の金額を判断します。また、この際の不動産鑑定士の報酬(通常は50万円以上)は裁判所が負担してくれるものではなく、裁判に負けた側が負担すべきとされることが実務上一般的です。

そのため、賃料の増額が認められた場合は賃借人側が、賃料の増額が認められなかった場合(もしくは僅少だった場合)は賃貸人側が負担するよう裁判所から命じられます。

このように調停や訴訟まで進んでしまうと、時間のみならず訴訟費用もかさんでしまう場合があります。

したがって、オーナー側としては極力紛争になることは避け、協議の段階で穏便に賃借人に賃料増額に応じてもらえるよう、増額交渉のタイミング賃料増額の根拠となる資料を十分に検討し、協議を進めていくことが望ましいでしょう。

監修

北村 亮典氏

こすぎ法律事務所

弁護士