アンリ・バルダ

写真拡大


2024年7月7日(日)サントリーホール大ホールにて『アンリ・バルダ ピアノ・リサイタル』が開催される。

同世代のピアニストたちからの賞賛を一身に受けるものの、実際にその演奏を聴いた者は少ない…そんな風説からフランス本国で“神秘のピアニスト”とも呼ばれたバルダは今年83歳を迎えた。ミュージシャンズ・ミュージシャン―――同業者の羨望を集める音楽家のことをそう呼ぶが、ここ日本でもバルダの魅力に魅入られたピアニストは数多い。前回のショパンコンクールで頭角を現した伊藤順一のようにパリで彼に師事したピアニストはもちろん、来日した彼のもとを訪ねるピアニストもまた後を絶たない。

ユダヤ系フランス人のバルダは1941年にエジプト・カイロで生まれた。16歳でパリに渡り、その後ジュリアード音楽院で学ぶためニューヨークへ。三つの大陸の文化をその身に宿すバルダの初来日は1981年。NHK交響楽団とショパンの協奏曲第2番を演奏した。近年、サントリーホールや東京芸術劇場といった大舞台での公演が続くバルダだが、そのきっかけとなったのが2019年12月の東京文化会館大ホールで開催したオール・ショパン・プログラム。2000席を優に越す客席を埋め尽くす聴衆に対して、バルダのショパンは極めて私的に響いた。1対2000ではなく、1対1の音による対話が2000通り生まれるような親密さ。鳴り止まないカーテンコールと閉館時間を過ぎても途切れないサイン会の列は、その晩のコンサートの成功と共に記憶されている。ちなみに記事の写真は当夜のもので、日本クラシック界におけるトップ・カメラマン故・林喜代種氏が撮影したもの。

その次の来日公演は2021年の夏。コロナ禍の東京にバルダはやってきた。万全を期して都内のアパートで2週間の隔離期間を過ごすうちに80歳の誕生日を迎えた(グランドピアノも設置してある、パリのアパルトマンのようなその部屋もまた、日本の古くからのピアノ仲間が用意したものだった)。サントリーホールにて東京交響楽団と共演したラフマニノフの第3番は歴史的な名演といっても過言ではなく、世界が断絶された只中、東京でこのような存在感を示した演奏家は極めて数少なかった。

そしてこの夏、バルダは再びサントリーホールに登場する。日本では5年ぶりとなるオール・ショパン・プログラムを携えてやってきたバルダは今、聴衆にどう語りかけるのか。