『PLEASURE!!!』

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初の歌もののアルバム『Many TEARS Later』を作り終えたmayukoは、「自分の中の悲しみがちょっと癒された感覚がある」と話していた。自分と向き合い、心の奥にしまった“涙”をテーマにした作品だった。さらにピアノソロアルバムをリリース、コロナ禍を経て、『47都道府県を再びめぐる旅since 2022』を始めると、グングン風通しが良くなり、ビシバシ思いきりもよくなり、気がつけば鮮やかな金髪スタイルに。

本格的にスタートさせた楽曲制作では、似合う・似合わないじゃなく、誰にどう思われるかでもなく、自分の本当をメロディにして、歌にして、1曲1曲形にしていったのだと思う。そうして完成した約3年ぶりの歌ものアルバムが『PLEASURE!!!』と名付けられたのはとてもシアワセなことだし、実際、全9曲の収録曲には、好奇心をフル稼働させた前傾姿勢の彼女の、好きと嬉しいと楽しいとかわいいとおいしいとちょっぴりの寂しいが詰まっている。

88flavors

とにかくヴォーカルがいい。少し前まで歌に対する苦手意識を語っていませんでした? なんて詰め寄りたくなるくらい伸びやかでカラフルで奔放で、それでいて恐ろしく繊細なのだ。例えば、感謝の気持ちを手渡すようなピアノの弾き語りから、一気に畳み掛けるパンクロックチューン「ラビュ」。後半の〈ラビュ〉のリフレインを聴いていると、どうにも泣けてくる。「I love you」で埋め尽くすことで溢れる涙を振りきり、自らを奮い立たせる歌声に胸がギュッとなる。この歌が2年前に見送った愛犬の曲だと知ったのは、結構経ってから。2曲目の「東京へ」は、まずはそのまま東京まで行進して行きそうなサウンドに心が踊っちゃうんだけど、上京組の先輩としての視線と、どこか歌謡曲を彷彿とさせる歌唱&コーラスが響き合って、郷愁やらユーモアやらキュートやらが交錯、アーティスト88flavorsの現在地を手渡された気分だ。かと思えば、ハウリング音から始まるゴリゴリのロックナンバー「境界線」では、ブレスすらも表現の一部にして、エモーショナルかつ、アグレッシヴに歌い放つ! ちなみに「境界線」のベースはOKP-STAR。グイッと腰の座ったプレイに、やっぱりねーって納得しつつ、一方では名バラード「あおぞら」の精巧なアレンジにも名を連ねていて。Aqua Timezの元メンバー(mayukoを含む)のオールラウンダーっぷりに改めて感嘆させられるわけです。みんな全然器用じゃないんだけどね、そこがまたね。

当然ながら他にもいろんな曲があって、びっくりしたり、ほっこりしたり、ぶっ飛ばされたりと大忙しなのですが、ラストナンバー「紫色につつまれて」を聴き終わる頃には、ほんっとにいいアルバムだったなぁって綺麗に丸め込まれる感じが悔しい。鼻歌のようなやさしさ、地声からファルセットに切り替わる瞬間の心地よさ、そしてあったかいピアノの音色、この曲を構成する全部でとびきりの紫の夜を一緒に味わう。時空を超えた壮大な待ち合わせ=ライヴへと誘い出される。続きは、47都道府県を再びめぐる旅で。


文=山本祥子