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「警察に言っても全然動いてくれない!」。怒りをあらわに語るのは、都内で小規模の通販会社を営む40代男性。商品を送ったのに、代金後払いを選択した注文主が一向に支払ってくれないという。

「実店舗でお金を払わずに商品を持っていったら、警察は万引きとして対応してくれるじゃないですか。なんで通販のときは動いてくれないんですか。意味がわかりません」

通販での代金未払いは珍しくないといい、何度も繰り返す相手は要注意人物として記録しているという。しかし、名前などを微妙に変えて注文してくるため、たまに見落としてしまうことがあるのだそうだ。

業を煮やして、一度申し込み時に書かれた電話番号にかけてみたこともある。

「そのときに売ったのは化粧品。本当にお金がなかったようなのですが、『私も女なんです』と逆ギレされ、思わず怒鳴ってしまいました。でも、冷静に考えたら、録音されてネットに流されるリスクもあることに気づいて…。それ以来、もう購入者に電話はしないようにしました」

未払いに対し、顧問弁護士を通して督促状を送ることもあるが、それでも支払わない相手にはなす術がないという。代金を回収する以上のお金がかかり、費用倒れになってしまうからだ。

「お客さん全員が全員、クレジットカードを持っているわけじゃありません。通販業者は泣き寝入りするしかないんでしょうか」

通販業者はどう対応したら良いのだろうか。EC・通販の実務にくわしい三坂和也弁護士に聞いた。

●なぜ警察は動いてくれなかったのか?

商品をだましとっているようにも見えるが、どうして警察の対応がにぶいのだろうか。

「購入時から代金を踏み倒す意図で商品を購入した場合は『詐欺罪』(刑法204条1項)に該当します。

他方で、購入時は代金を支払う意思があって商品を購入したものの、商品を受け取った後に支払いをしたくなくなって代金を支払わない場合は『債務不履行』(民法415条)という民事の問題になります。

万引きと違って、代金を踏み倒す意図があったことの立証が難しいことから警察の対応がにぶいと考えられます」(三坂弁護士)

警察は民事不介入が原則。購入時の内心という目に見えない部分が問題になるだけに、よほどの証拠がない限り、なかなか動いてくれないようだ。

●通販業者を悩ませる回収の難しさ

では、通販業者としては未払い客に対して、どういうふう手段を講じたら良いのだろうか。

「電話やメールで支払いを催促することや、内容証明郵便で督促状を送付することが最初の手段となります。

それでも支払いに応じない場合は支払督促や少額訴訟といった、簡易な裁判手続で支払いを請求する方法があります。

しかし、商品の代金を踏み倒すような人は財産を持っていない可能性も高く、その場合は裁判手続で勝ったとしても代金を回収できない可能性があります」(三坂弁護士)

まさに冒頭の通販業者が悩んでいる状態だ。やはり回収は容易ではないといえる。

●警察に動いてもらうために必要な証拠は?

しかし、何も対策をとらなければ、悪質客が野放しになってしまう。なんとか警察を動かすことはできないのだろうか。

「警察を動かすためには、電話やメールでのやり取りの記録をとっておき、当初から代金を踏み倒す目的で商品を購入したことを示す何らかの発言が証拠として残っていれば有利です。

内容証明郵便で督促状を送ったにもかかわらず、何の返答もない場合も有利な証拠になります。

また、同一人物が複数回代金の踏み倒しをおこなっていれば、代金を踏み倒す意思が推認されるため警察も動いてくれやすいでしょう」(三坂弁護士)

このほか、予防の観点から三坂弁護士は次のように話す。

「代金の未払いを防ぐため、支払いをクレジットカードに限定したり、決済代行会社を利用して、未払いやチャージバックに対応した保険に加入しているEC業者さんも多いです。

また、未払いが起きやすい購入者の属性(注文の数が多い、住所が不審など)のリストを作る、後払いの上限金額を設定するなどの対策も考えられます」(三坂弁護士)

EC・通販業者にとって、「代金未払いについての悩みはつきない」という。未払いが発生してしまうことを前提に、予防や対応コストをどの程度に見積もるかも重要になりそうだ。

【取材協力弁護士】
三坂 和也(みさか・かずや)弁護士
日米の弁護士資格を有し、IT業界やEC業界の企業を中心に、著作権、商標、特許に関する知財戦略の相談や紛争対応、契約書作成、M&Aまで、幅広く対応している。著書『著作権のツボとコツがゼッタイにわかる本』
事務所名:山本特許法律事務所東京オフィス
事務所URL:http://www.shupat.gr.jp/index.html