GoogleによるサードパーティCookieの廃止、コストの着実な増加、市場の飽和から、デジタル広告の世界はますます複雑化してきた。マーケターにとって、オンラインで目立つことは難しくなってきているため、D2Cの寝具ブランドのパラシュートホーム(Parachute Home)は対面販売で目立つよう、体験的なマーケティングを強化している。

「体験は、当社の基礎となるものだと信じている」と、パラシュートホームのブランド担当バイスプレジデントを務めるフォウジャン・フォルク氏は語る。「現実世界での体験は、パラシュートがブランドとして何者なのか、顧客が当社をどのように体験したいと望んでいるのかの礎石となるものだ」。

体験への投資を強化



フォルク氏によると、今年パラシュートホームの予算の30%は体験的マーケティング手法に割り当てられ、これは昨年の倍だ(ただし、同氏は実際の金額は明らかにしていない)。この投資は確実に増え続け、昨年のホリデー市場などを支えている。同氏によると、イベント後の調査から、オンラインの消費者と比べて、イベントに参加した消費者のほうがブランドへの好感度が高いことが示されたという。

体験の勢いは、2022年に多くの店舗内イベントが行われた頃から加速しており、これが売上、店舗への訪問客、はじめての顧客の増加につながったと、同氏は付け加える。今春は、母の日などほかの体験的マーケティングのイベントも数多く計画されている。

D2Cブランドである同社はそれ以来、全国で26の小売拠点を開設し、物理的な空間の活用を試みてきた。目的の一部は、ますます業者が増えていくマーケットプレイスにおいてブランドへの認知と資本を築きあげることだと、フォルク氏は話す。

体験的マーケティングの費用を増やすために、インフルエンサーマーケティングの予算がしわ寄せを受けて前年比で20%減少し、マーケティング予算の28%になった。これについても、フォルク氏は正確な数字を明らかにしていない。デジタル広告分析ツールのパスマティックス(Pathmatics)による有料ソーシャル広告に関するデータも含めたヴィヴィックス(Vivvix)によると、昨年パラシュートはメディアに550万ドル(約8億3100万円)を投じた。この数字は、2022年の1600万ドル(約24億2000万円)よりも大幅に減少している。これは、インフルエンサーマーケティング戦略で成功しなかったということではない。しかし、この分野が増大し、インフルエンサーと提携することがより高価になったため、パラシュートはインフルエンサーマーケティング戦略を再考し、長期的なパートナーシップへの依存を弱め、新しいオーディエンスとつながりを作るために新しいインフルエンサーと接触しようとしている。

「インフルエンサーはもちろん必要で、我々のブランドに不可欠な拡張だ。そのため、引き続きインフルエンサーと協力していくが、最終的な目標がブランドへの認知だということを踏まえて、誰と協力するのか、どのように協力するのかを最適化したい」と、フォルク氏は語った。

バランスのとれたメディアミックス



パラシュートがD2Cのブランドとして創設されたのはパンデミックより前の2014年で、フォルク氏によれば当時、対面のイベントによる体験的マーケティングはメディアミックスに不可欠だった。「そのあとでパンデミックが起き、何もかもが閉鎖された。当社の小売店舗も閉店した。予算はすべてデジタルに回された」と、同氏は話す。しかし、オンラインマーケットプレイスがより高価になり、プライバシーイニシアティブによってターゲティングや測定の能力に多くの問題が引き起こされるようになり、マーケターはパフォーマンスとブランドの両方のバランスをとるメディアミックスを模索している。

この現象は業界における振り子効果と呼ぶことができるが、パンデミックのときの経済的な不確定性に続いて、パフォーマンスマーケティングが強調される時代が来たとき、ブランド構築を優先してメディアへの支出を再調整しているのはパラシュートだけではなかった。広告主が飽和したオンラインマーケットプレイスで目立つために苦闘するなか、オレンジセオリーフィットネス(Orangetheory Fitness)のようなブランドは、ブランド構築のマーケティング戦略とパフォーマンスのバランスをとるためのより総体的なアプローチを模索するようになった。実際、代理店のエグゼクティブによると、最近はブランド構築戦略を求める声が殺到していると語っている。

「ほとんどのクライアントは、『重要なのはリードだけではない。パートナー、対話の量、イベントについてソーシャルでどれだけ注目が集まり話題になったか、そしてイベントで我々が作成したコンテンツが重要だ』と言う」と、独立広告代理店のゲレッカプラス(Geletka+)の創設者で最高エクスペリエンス責任者を務めるジョン・ゲレッカ氏は、体験的マーケティングの増加についての質問に答えた。

対面でのイベントが増加し、より「バランスのとれたメディアミックス」が求められるようになっていくことで、現実世界でのプレゼンスがますます重要になると、ゲレッカ氏は語る。

「さらにバランスのとれた方法として、より実験的な方法や体験的な方法が出現し、ミックスの一部として強化されていくだろう」と同氏は付け加えた。

ビジネスの成長を示す測定に目を向ける



しかし、パフォーマンス指標で成功を判断する経営幹部に受け入れてもらうのは簡単なことではない。経営幹部の期待を管理し、虚栄の指標ではなくビジネスの成長を指し示す厳格な測定を行うことが、ブランドのマーケターの仕事になった。

「ブランドの活動は、すぐに純益を押し上げるわけではないという事実に基づいて、期待をコントロールする必要がある。時間がかかるものだ。さらに多くのイベントについてより大きな規模でそれを何度も証明できれば、規模の拡大がすべてだという熱狂が覚めたあとでは特に、パフォーマンスマーケティングがブランドの構築につながらないということを理解してもらえるようになる」とフォルク氏は話した。

パラシュートホームは今年、ポッドキャストでの広告、ストリーミングテレビ、ブランドパートナーシップなどのメディアチャネルも、店舗内のウィンドウのディスプレイやサイネージなどによる屋外広告と併行して、メディアミックスに組み入れることを計画している。すべては、パフォーマンスとブランドのマーケティングの適切なバランスを実現するための努力だ。

「このための場所は常に存在すると考えている。D2Cブランドとして、需要を捕捉するコンバージョンベースのマーケティングは常に必要だ」と、フォルク氏は述べている。

[原文:DTC brand Parachute Home goes offline, doubles experiential investment amid changed digital landscape]

Kimeko McCoy(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Illustaration by Ivy Liu