水素を使った電動航空機「Vertiia」のテストが進行中で2027年に運用が開始される可能性も
気候変動を止めることが地球と人間にとって急務とされる中で、環境に優しい電気自動車のシェアが高まりつつありますが、航空機業界においては化石燃料から電気への移行がなかなか進んでいません。そんな中、オーストラリアの電動航空機スタートアップであるAMSL Aeroは水素燃料電池を動力源とする電動航空機「Vertiia」の商業注文を受け、すでにテストを始めていると報じられています。
https://www.abc.net.au/news/2024-05-13/hydrogen-electric-powered-aviation-net-zero-target/103728122
気候変動を食い止めるには化石燃料からの脱却が重要なため、自動車業界と同様に航空機業界も電動化を模索しています。しかし、航空機は機体のサイズが大きい上に重いため、既存のバッテリー技術では最小クラスの航空機でさえ200kmを超える程度の飛行が限界だそうです。
そんな中、「空の旅の脱炭素化」を掲げるスタートアップのAMSL Aeroは、水素燃料電池を動力源とすることで小型航空機の航続距離を1000kmに伸ばせると主張し、最大5人乗りの電動航空機「Vertiia」を開発しています。
すでにオーストラリアのニューサウスウェールズ州に本拠を置く地域航空会社のAir Linkは、AMSL Aeroに対してVertiiaの商業注文を行っています。Air Linkのマシュー・クラインCEOは、この取引が2050年までに炭素排出量をゼロにするという業界の計画を達成するための鍵になると主張。「水素の使用は私たちにとってゲームチェンジャーです。最大1000kmの航続距離を達成できることが、私たちの仕事に必要なのです」とコメントしました。
Vertiiaはオーストラリア民間航空安全庁(CASA)を通じ、Advanced Air Mobility(AAM)型式認証を申請した初のオーストラリア製航空機です。Vertiiaがヘリコプターと固定翼機両方の特徴を持っていることを考えると、認証の取得はエキサイティングだが気の遠くなるような作業だとのこと。CASAの航空機認証担当マネージャーのクラウス・シュヴェルトフェーガー氏は、「オーストラリアではこれまで誰もやったことがなく、その意味では新境地を開拓することになるでしょう」と述べています。
世界中の企業は既存航空機の燃費向上に取り組んでいますが、AMSL Aeroは水素燃料電池を使用した電動航空機をゼロから開発することを選択しました。AMSL Aeroの共同創業者であるシヴォーン・リンドン氏は、「固定翼機やヘリコプターを改造している会社もありますが、Vertiiaは白紙の状態から始めました」とコメントしています。
Vertiiaは水平に回転する8つのモーターと傾きを変更できる可動翼を使用して、3000mの巡航高度で飛行できるとのこと。
Vertiiaの大きな特徴は、本体を取り囲むように配置されている可動翼です。共同創業者兼チーフエンジニアのアンドリュー・ムーア氏はVertiiaの特殊な形状の翼をデザインする際、オーストラリアの発明家で航空工学のパイオニアとしても知られるローレンス・ハーグレイヴが開発した「箱凧(box kite)」にインスピレーションを受けたそうです。
ムーア氏は、「Vertiiaはハーグレイヴが発明した箱凧の進化形です」「私たちは実際に多くの構成について研究し、たまたまハーグレイヴと同じ結論に達しました。箱型の翼は本当にうまく機能しています」と述べました。
すでにニューサウスウェールズ州のウェリントン近郊の滑走路ではVertiiaの試験が開始されており、規制当局からの承認が得られれば2027年に運用が開始される可能性があるとのこと。Air Linkはまず貨物便とチャーター便にVertiiaを導入し、その後ダボやウォルゲット、バーク、ライトニング・リッジなどを結ぶ定期便にVertiiaを利用する予定です。
クラインCEOは、「今の私たちはバークまで飛行機を飛ばしたら、1日中そこに飛行機を置いたままにして午後に戻ってきます。しかし、Vertiiaはランニングコストが非常に安いので、機体を戻して他のフライトを行ったり、1日に何度か往復することもできます」と述べました。