角田裕毅「すべてが負のスパイラル」だった中国GP 後方からの追突→リタイアは「非常に腹立たしい」
試練というのは、思わぬ時にやってくる。
3戦連続で予選Q3に進出し、すでに競争力は十分と手応えを掴んだ矢先の、まさかの苦戦。そしてリタイア。角田裕毅とRBにとって、初めての中国GPは散々な結果になってしまった。
「今週はFP1の走り始めから、まったくリアのグリップがないフィーリングだった。昨日もQ1でソフトタイヤを3セット投入しても、18位まで0.2秒も差があったわけですからね。過去3戦は常に7位や8位争いをしてきたのに、急にここまで落ち込むというのはちょっと信じがたい状況です」(角田)
角田裕毅にとって初めての中国GPは厳しい週末となった photo by BOOZY
鈴鹿で投入した新型フロアは、全体的な空力安定性を向上させるものだった。上海に多い低速・中低速域ではより高い効果を発揮し、ラップタイムにつながるはずだった。だからこそRBは、この中国GPでダブル入賞を目指すほど期待値も高かった。
新造モノコックに交換したダニエル・リカルドは、鈴鹿で予選11位に入るなど復調の兆しをさらに強固なものとし、予選で12位とした。
「ようやく普通のレース週末といった感じだね。すべてがラクになったというわけではないけど、金曜の朝から調子はよかったし、うまく改善された感じだよ。速くなった理由がモノコックを交換したからかはまだ断言できないけど、僕は違いがあると思ったよ」
一方、角田はこれまでどおりのマシンで臨んだはずだが、リアのグリップはなく、セットアップをどう変更しても何も変わらない。コース特性や特殊な路面、路面温度、風の影響など、さまざまな要素は考えられたが、徹底的にデータを分析してみても、マシンそのものをチェックしてみても、原因は究明できなかった。
土曜午前のスプリントレースのあと、おそらくこれだろう、という答えを見つけて対策を施して予選に臨んだものの、何も変わらなかった。
【リアのグリップ不足「コーナーの出口で踏めない」】「セットアップ面でベストな妥協点を見いだせたと思って、かなり自信を持って予選に臨んだんですけど、それが機能しなくて何も変わりませんでした。
スプリント予選はアタックラップをまとめきれなかった自分にも問題がありましたし、50パーセントは自分のミスだったのでまだよかったですが、予選は自分自身としてはやれるだけのことはやりましたし、普通ならQ1で落ちるようなアタックラップではなかったと思うので、とてもフラストレーションを感じます」
中国GPでダブル入賞も期待されたRBだったが... photo by BOOZY
リアのグリップ不足を補うために、リアサスペンションを硬くする。そうすると、コーナリング時のしなやかさが失われて回頭性が悪化する。しかしリアのグリップ不足は改善せず、コーナーではアンダーステア、立ち上がりではオーバーステアという最悪の状態に陥ってしまう。
「予選に関しても、ロングランに関しても、全体的に問題はリアにありました。リアがスライドして、それを改善するためにリアを硬くすることによって回頭性が犠牲になる状態で、すべてが負のスパイラルに入っている状態でした。何周かダニエルのうしろで走っている時に彼の走りを見ていても、明らかにリアの挙動が違いました」
それは、パワーユニットにも影響を及ぼした。
当然ながら、全開率がわずかに下がるため、1周のなかでどう発電し、どうエネルギーを使うかというエネルギーマネジメントが違ってきてしまう。レース中に角田が「クリッピングしている」と回生ディプロイメント切れを訴えていたのはそのためだ。
ホンダの現場責任者を務める折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネジャーはこう語る。
「コーナーの出口で踏めない、というところですごく苦労していて、それはデータにも表われていました。全開率が大きく違ってくるほどではないのですが、それでもあのくらい(予選の0.303秒差)のラップタイムになるには十分な差だと言えます」
【ポジションを上げていこうとした矢先に...】これはモードを変更することで対処できたが、「パワーの出方が均一じゃない」という問題も訴えていた。マシンのリアがあまりに不安定であるがゆえに、ドライバーのスロットル操作に対するトルクの出方がわずかでもドライバー本人のフィーリングと違っていると、その違和感が如実に表われてしまうからだ。
「ドライバーがスロットルペダルを踏んで、このくらいトルクがほしいという要求に対して、エンジンが要求どおりのトルクをデリバリーできていないと、うしろから押されたり引っ張られて『ドライバビリティが悪い』という不満がドライバーから出てきます。
リアが安定しているマシンなら、多少エンジンのトルクの追従性が悪くても曲がっていけるので大丈夫なんですが、リアがナーバスなクルマだと、トルクデリバリーの精度が少しでもドライバーの要求どおりでないと、ネガティブな要素として不満が出てきやすいです」(ホンダ折原エンジニア)
それでも、角田はスタートからソフトタイヤでアグレッシブに攻めて、ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)、ケビン・マグヌッセン(ハース)、周冠宇(ジョウ・グアンユー/ステーク)を抜いて16位まで浮上。8周目という早めのピットストップでアンダーカットを仕掛けてアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)とリカルドを抜き、12位まで浮上してみせた。
22周目のバルテリ・ボッタス(ステーク)のリタイアによるセーフティカー導入で各車が2回目のピットストップをこなすなか、RBはタイヤが9周オールドのリカルドをステイアウトさせて9位までポジションを上げ、角田はここでタイヤ交換をして最後まで走りきる作戦と、2台で戦略を分けた。
角田はリスタートでタイヤの古いマグヌッセンをターン1〜2で抜いて、ひとつでもポジションを上げていこうとした矢先、ターン6の出口でラインが外にはらんできたマグヌッセンに追突され、右リア破損でリタイアを余儀なくされてしまった。
【次のマイアミGPでは再び10位前後の争いを】「彼が僕のリアを引っかけたのは明らかだと思いますし、僕としてはどうすることもできませんでした。僕としては、彼に対してかなりスペースを残してあげたつもりだったので、なおさらリタイアという結果にはフラストレーションを覚えますし、非常に腹立たしいです」
リカルドも再スタート直前に前方不注意のランス・ストロール(アストンマーティン)に激しく追突され、フロアに大きなダメージを負ってリタイアを余儀なくされた。
フラストレーションをクルマにぶつけるのは、決してよいことではない。それはすなわちチーム批判であり、チームと自分が一体ではないという意味になってしまうからだ。クルマを改善したいと願っているのはチームも同じで、一丸となって問題究明にあたってくれていることは角田自身もよくわかっている。
だからこそ、決勝では自分も全力を尽くし、苦しい局面においても光明を見出そうと前を向いてレースをした。
理不尽なかたちでレースを終えることになっても、感情を爆発させるのではなく、次に向けて状況を改善するためのプラスの要素に目を向けている。
「ポジティブな面に目を向ければ、過去数戦はコンスタントにポイント圏内にいて、次のマイアミでも本来のペースを取り戻せれば、また10位前後の争いができるはずです。そうやって力強く挽回することが重要で、今日のレースでもそれを念頭に置いて全力を尽くしました。
追突されるまでは、可能なかぎりハードにプッシュしたつもりです。スタートで5つもポジションを上げていましたし、最大限のことはやれたと思います」
苦境にあっても前を向き、チームとともに前に進んで行く。そんな姿を見せ続け、次のマイアミでは再び力強い走りを見せてもらいたい。