桜が咲く前に日本株は真っ盛りという感じだが、今後も日本株が上昇するカギは何だろうか(イメージ写真:Getty Images)

日経平均株価は2月22日に約34年ぶりに史上最高値3万8915円を更新、3月4日にはついに4万0109円と4万円台に突入した(終値ベース)。だが、この間の投資主体別の売買動向を見ると、実は昨年春の上昇時と同様、株価は海外投資家(現物+先物合計)の買いで上昇していることがわかる。現物だけで見ると、海外投資家は今年に入って、7週連続で買い越し、売り越しとなったのは2月の19〜22日の週になってからだった。

一方、残念ながら、個人投資家(現金+信用+先物の合計)は、逆にこの上昇局面では売却している。これも昨年春と同様だ。個人投資家の「現金」だけに限ると、昨年春からずっと売りが続いている。やはり、平成バブル崩壊後の株価下落に苦しんだトラウマがあり、今の株価上昇をバブルだと感じているかもしれない。

今の日本株はバブルなのか

読者の中にも、今の水準を見ると「バブルではないか」と思って、買い控えている人が少なからずおられるはずだ。

では、本当に今はバブル状態なのだろうか。まずPER(株価収益率)などのバリュエーション(企業価値評価)で割高か割安かを見ると、34年前の1989(平成元)年の日経平均のPERは50〜60倍と超割高だった。現在は15倍程度と、過去10年のレンジ内にとどまっている。

平成バブル崩壊前は、超割高な水準まで買われた日経平均を正当化するために、東京湾岸のウォーターフロント地域の開発が大きなテーマになった。土地の高騰が続くことを前提に、株価を簿価ではなく、時価ベースの1株当たりの純資産で計算した「Qレシオ」という新しい尺度(ものさし)まで作られたのである。

今回は、そのような状況にはなっていない。まだPERは正当化できる範囲だ。このように、今の日経平均やTOPIX(東証株価指数)など指数面から見た日本株は確かにもはや割安ではないが、過去のレベルなどから見てもまだ適正水準だと考えられる。

実際、PERが20倍超の米国株(S&P500種指数)と比較してみても、日本株はまだ割安に映る。このため、もし株価が下落したときには、個人投資家の押し目買いも入ってくるとみている。

一方、日経平均は確かに史上最高値を34年ぶりに更新したが、TOPIXは1989年12月18日の2884.80ポイントをまだ更新していない。日経平均は日本を代表する225社で構成されるが、もともと株価指数は一部の値がさ株(ファーストリテイリングや、東京エレクトロン、アドバンテスト、ソフトバンクグループなどのハイテク株)の影響を大きく受ける。

今年に入ってからの日経平均の株価急上昇は、アメリカ発の「生成AI銘柄」(エヌビディアやアームなどが主体)の急騰の恩恵を受ける、上記のような日本の半導体関連(同装置・同素材など)銘柄が主導している。

一方、TOPIXは東証プライム市場(旧東証1部)全体の加重平均の指数であり、日経平均対比では半導体関連の比率は低めで、輸送用機器(自働車など)や金融業(銀行・証券など)、内需株の比率が高い。日本の上場会社の経済状態を計る体温計のような存在であるTOPIXが、史上最高値更新までには至らず、青天井のような強気相場入りをしていないのは、そうした事情がある。

だが、日経平均もTOPIXも「配当込みの実質指数」で見ると、日経平均は2020年11月25日、TOPIXも2021年1月8日に更新している。つまり、1989年の平成バブル時の最高値の状態で日経平均やTOPIXの指数を買った人も、決算時に受け取った配当を再投資していれば、すでに3年前の2021年1月にトータルリターン(総利益)でプラスとなり、「誰も損している人がいない状態になった」ということだ。

今後の注目ポイントは「日経平均とNYダウの連動性」

では、ようやく皆が損をしていない状態がやってきたので、需給が改善して「今後の相場は青天井なのか」とも思いたくもなるが、そう簡単ではない。

今後の日本株はニューヨークダウ30種平均株価と連動するとみている。また、日米の株価指数がどこまで上昇するかは、1年先の企業業績予想のモメンタム(増益率などの改善の勢い)や、PERなどの水準次第だ。

平成バブルがピークだった1989年からの日経平均とNYダウを比較すると、非常に興味深い事実が浮かび上がる。まず1989年から、不良債権問題にようやく決着をつけた2003年まで日経平均は下落、NYダウは上昇とまったく逆の値動きをたどった。この間、日経平均の「N」をNYダウの「D」で割った「ND倍率」は、約14倍からなんと約1倍まで低下した。

だが、2003年から直近までは日経平均とNYダウはおおむね同じ動きをしており、ND倍率も1倍程度で推移している(3月6日時点では1倍超)。現在は日経平均が急騰してNYダウに追いついた局面で、2012年や2019〜20年の状況に似ている。

この2回とも株価は調整局面に入っており、今回も短期的には過去2回のように影響を受け、調整する可能性もあるとみている。決して弱気というわけではないのだが、やはり日本株は世界の景気敏感株であり、世界の中心であるアメリカ景気の影響を受けるのは仕方がない。

では、最も影響力の大きい米国株は今後どうなるだろうか。これはエヌビディアを中心としたAI相場(大テック相場)がどうなるかにかかっており、このAI相場に日経平均がついていけるかが、今後の日本株のカギを握りそうだ。

東証の改革は短期的には相場に織り込まれた

また、日本株のさらなる上昇には、東京証券取引所が主導する改革の成否も、やはりもう1つのカギといえそうだ。なぜなら、日本独自の株価上昇材料として注目されている「東証の企業改革(1月15日以降毎月公表予定)」は、足元では私が予想したとおり、停滞気味だからだ。

1月15日の公表分では、開示企業が20%から40%へと大きく上昇(昨年12月末時点)したことで海外投資家に好感されたと言ってよい。だが、2月15日の開示(1月末時点)では、この比率は44%となったものの、わずか4ポイントしか改善せず、改革のスピードは落ちている。8月15日の開示(7月時点)までは、月次開示してもガッカリするだろう。

米国株高と連動した株価上昇やこの東証主導の改革などで、日経平均などの指数のPBR(株価純資産倍率)はすでに過去のレンジの上限まで上昇しており、欧州株とほぼ同水準になった。ここからさらにPBRが上昇するかは、やはりこれからの改革次第だ。私は中長期では期待しており、日本株の魅力はさらに高まりそうだが、短期的には中身を精査するタイミングだと言える。

また、新NISA(少額投資非課税制度)で期待された日本株買いも、大盛況が伝えられているとはいうものの、期待が大きかっただけにそれよりは少ない状況だ。前出のように株価上昇局面で個人投資家は株式を売却しているし、新NISAについても世界株や米国株への投資の比率が高く、短期的には日本株買いはまだ増えない可能性が高いからだ。やはり、「ND倍率1倍」は、一時的には超えたとしても、少なくとも今年は大きく超えることはないとみる。

このように、海外投資家による東証のPBR改革期待は一巡しそうなものの、さらなる米国株高と円安が続くようなら、日本株の今年前半の上昇基調は続くとみている。

年前半にもう一段の高値の可能性、年後半は波乱も想定

日経平均の今年の高値予想株価については「3万8000円前後(3〜5月)」としていたが、今回は「4万円超〜4万2000円(3〜6月)」に上方修正する。また、安値も「3万4000円(10月)」から「3万5000円程度(10月)」に上方修正したい。

ここからは高値圏での短期的な調整局面も想定されるため、株価の値動きには一層注意したい。3月7日には日本銀行の中川順子審議委員の島根県の金融経済懇談会での発言で18〜19日に開催される日銀金融政策決定会合でのマイナス金利解除がにわかに意識され始めたが、その次の4月25〜26日の会合も含め、金融政策正常化のタイミングや、3月春闘後の中小企業を含めた賃上げ動向も見極めたいところだ。

今後の日本株の物色は、米国株の上昇局面ではやはり半導体・AI関連株が主導になるとみているが、3月の配当権利取りの買いも活発になっていることから、景気に左右されずに収益を稼ぐことができる「ディフェンシブ系高配当株」にも注目したい。

最後に、もし日経平均がこのあと上記のような高値に到達したとしても、今年は11月5日にアメリカの大統領選挙を控えており、年後半に向けては波乱も予想される。

同国経済はソフトランディング(軟着陸)の可能性がある一方で、景気後退リスクもくすぶっている。仮に、アメリカ企業の業績が極度に悪化するというリスクシナリオが実現すれば、影響を受けやすい日経平均は3万5000円を下回る場面もあると、頭の片隅に入れておきたい。

(糸島 孝俊 : 株式ストラテジスト)