社会人1年目、伊勢丹新宿で買ったカルティエ時計「タンク」。上京して母親になり、新たに思うことは…
名品には数々の効力がある。
身に着けることで日々のモチベーションアップにつながったり、自分に自信をくれたり――。
まさに、大人たちのお守り的存在だ。
本連載では人々から愛され、流行に左右されることない一生モノの“ファッション名品”にフォーカス。
今回登場するのは、IT企業勤務の小池史奈さん。彼女が紹介してくれるアイテムとは?
▶前回:不動の人気ブランド、シャネルやヴァンクリ。29歳金融秘書が「早めに投資して」と語る理由は?
今回お話を聞いたのは、小池史奈さん
1993年生まれ、山梨県出身の30歳。社会人1年目から人事職に就き、2度の転職を経て現在はIT企業の人事部に所属。女性社員の活躍推進やエンジニアのキャリア支援に取り組む。
母の格言『安物買うより、残せる名品を』
『安物買うより、残せる名品を』。これは、小池さんのお母様が昔からよく言っていた言葉だった。
「一昨年の末、私自身も子どもを産んで母親になったことにより、その意味がさらに理解できるようになりました」
そう語る小池さんが取材の日に持ってきてくれたのは、バーバリーのトレンチコート。とても綺麗な状態のため言われないと気づかないが、実はその母から譲り受けたかなりの年代物だ。
さらりとめくった内側からは、1920年代からバーバリーコートのライニングに採用しているバーバリーチェック柄が覗く
「母が20歳の時に買ったと言っていたので、ざっと数えても今から40年前の、1980年前後で購入しているはず。でも、決して色褪せることなく綺麗に見せてくれるのが魅力です」
スラリとしたモデル体型が美しい小池さんの身長は168cm。うらやましい反面、丈感や全体バランスなど、洋服選びの際に頭を悩ませることもあるという。しかし「このコートは私の身長にも合った」のだとか。
「長身の私にもしっくりくるストンとしたシルエットがお気に入り。あと、ぱっと見ではバーバリーとはわからない、ブランドを主張しすぎていないところもいいですよね。こういう点が、時代を超えて長く愛用できるポイントなのかもしれません」
社会人1年目、伊勢丹新宿で買った思い出の時計
手元には、カルティエの名品時計「タンク フランセーズ」がきらりと光る。残念ながら2016年に生産終了し現在は販売されていないモデルだが、彼女にとっては今も唯一無二の特別な存在だ。
社会人1年目になる時に、カルティエ ブティック 伊勢丹新宿本店で約30万円で購入。薬指のリングも同じくカルティエのもの
「地元の山梨から伊勢丹新宿まで、友達と一緒に1日がかりの日帰り旅行で買いに行きました。まだ大学生だった当時、せっかく買うならいい物を!と思い、背伸びをして自己投資したのが懐かしいです。シルバーにピンクの文字盤が、女性らしく見えて。きっとスーツにも似合うだろうなあと」
小池さんの場合、プライベートで身に着けることはなく、完全に仕事時計と割り切っているという。その分、20代のキャリアの軌跡が詰まっているのだ。
「この時計を見ると、あの時、社会人になって仕事を頑張ろうと思っていた気持ちを思い出します。たくさんの仕事の縁を結んでくれました」
そこには、どんな物語があるのだろうか?
「社会人4年目で山梨から上京して、東京の会社に転職をした時のことです。当時の女性社長が『若いのにいい時計してるじゃん』と、突然話しかけてくれて。
地元では誰とも時計の話なんてしなかったので(笑)。やっぱり見ている人は見ているし、東京で、もっとこれに見合う女性にならなければと思いを新たにしました。
そんな20代の頃のことを思い出すと、30歳になった今も初心に返り、やる気がぶわーっと出るから不思議ですね」
地元の山梨で就職活動をしていた頃から「人事がやりたい」と明確な目標があった小池さん。その意志は変わらず、2度の転職を経験し、3社目の今の会社でもやはり人事として、女性向けのキャリア研修の講師をするなどして活躍している。
手元を眺めながら、「大学生の頃からやりたかったことがずっとできて嬉しいです」とはにかんだ。
27歳で受けた念願のプロポーズ。その証には……
彼女の薬指に輝くリングについても聞いてみると、「夫からのプロポーズリング」だという。時計と同ブランド、カルティエの「マイヨン パンテール ウェディング リング」だ。
2021年の夏の沖縄。夕日が沈む海辺で、念願のプロポーズを受けた際にもらったものだとか。
「山梨時代からお付き合いをしていた彼には、27歳までに結婚したいとずっと言い続けていて。27歳の最後の夏、私が生まれて10,000日目という日にサプライズでもらった、記念の品です。ちなみに10,000日目というのは、私は知りませんでした(笑)」
大きいダイヤが付いたものや目立つものは好みではなかった小池さんにとって、カルティエならではの豹のしなやかさが表現され、4粒の可憐なダイヤがさり気ない存在感を放つ「マイヨン パンテール」は“ドンピシャ”だったそうだ。
「私の好みを熟知してくれていたことに、とても感動しました。シンプルだけど輝きもあって気に入っています」
身に着けるシーンは、日常から特別な日まで幅広い。去年の誕生日には、久しぶりに子どもを預けて夫婦2人だけで恵比寿のレストランへデートに行ったそうだ。もちろん薬指にはこのリングが光っていた。
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ちなみにプロポーズリング「マイヨン パンテール」の「マイヨン」とは、フランス語で「つながり」を意味する言葉だ。
仕事の縁を結んでくれたカルティエの時計、夫との関係を昇華させてくれたプロポーズリング、そしてバーバリーのトレンチコートを通して築かれる時代を超えた母娘の絆。
これらのつながりを、彼女もまた次の世代へと託していく。そう語る彼女の言葉には、妙な納得感があった。
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写真/品田健人