「八海山」で有名な八海醸造が今年、100周年を記念した記者会見を開催し、新商品や今後のビジョンなどを発表しました。その方針を一言でいえば、まさにグローバル戦略。内容をレポートします。

↑八海醸造株式会社の南雲二郎代表取締役(右)と、南雲真仁取締役副社長/HAKKAISAN USA代表(左)

 

記念酒は750mlで13万円2000円!

八海醸造は新潟県南魚沼市で、1922(大正11)年に創業。2023年は101年目の船出の年であり、その取り組みのシンボルとして発表されたのが、アルファベットのコーポレートロゴです。デザインを手がけたのは、日本を代表するデザイナー・原研哉氏。

↑八海醸造の三代目当主・南雲二郎代表。モニターには新コーポレートロゴが映し出された

 

原氏からは「酒は、どんな種類の酒でも何かしらの癖があり、そこに愛着や親しみを覚えるものです。そういう個性の肌触りを、文字のかたちに込めました。」といったメッセージも寄せられました。

↑日本酒の「八海山」はじめ、全商品に「Hakkaisan」のコーポレートロゴが併記されます

 

また、登壇した八海醸造の南雲代表取締役は「日本酒を含め、幅広い領域において展開することを前提として、オリジナルの書体を作成いたしました。伝統的、現代的、洋風、和風など多様な場面に適応できて、印象にも残りやすいデザイン。我々が今後展開していく新商品方針や事業に関しても、このロゴイメージで統一することによって、お客様に八海山グループというブランドを認知していただき、当社のイメージ向上を図っていきたいと考えています」とコメント。

↑会場には同社の日本酒はもちろん、ジン、クラフトビール、スイーツ、化粧品といった多彩なプロダクトも展示

 

100周年を記念した商品も発表され、そちらのスケールもケタ違いでした。名称は「八海山 百」。精米歩合25%の大吟醸酒で、価格は750mlで税込13万2000円(税込)。氷点下3℃で6年間貯蔵されているのも特徴で、全国の百貨店や酒販店で販売されています。

↑「八海山 百」。100周年を記念した限定酒となります

 

NYの蔵元と協業し、
日本酒の生産と文化発信の拠点を新設

会見で印象的だったのは、「永遠に終わらない会社を目指し、挑戦と変化に積極的に取り組んでいく」「日本酒を世界飲料に」というメッセージ。海外展開への準備はすでに整っており、2021年12月に資本業務提携した米国NYのブルックリンクラとの取り組みをさらに強化。今後の具体的な事業内容が明らかにされました。

↑青いジャケットの方が、ブルックリンクラのブライアン・ポーレンCEO。同社は2016年に設立された酒造で、モニターの写真はタップルーム(醸造所に併設されているバースペース)です

 

目玉は、新しい酒蔵のオープン。タップルーム(醸造所に併設されているバースペース)を併設し、来訪者に向けた日本酒の啓発活動を行っていくそうです。しかも具体的には「サケスタディセンター」という教育機関を設け、日本酒の背景にある文化や食、歴史を総合的に学べるようにするとともに、啓発プログラムを活用して魅力を発信していくとのこと。

↑NYに今秋開業。酒造りに関しては、八海醸造の蔵人を派遣して協業するとのことです

 

また、酒蔵を新設することでより多くの量を造れるうえ、良質かつ新たなスタイルの日本酒やチャレンジングなSAKEも生み出されるようになるとブライアン氏は語ります。南雲代表取締役は、かつての日本でビールやウイスキーがそうだったように、自国の人々が現地の米と水を使ってSAKEを造り、そこで暮らす人々が楽しく飲むという文化醸成が大切であるとの考えから、この取り組みを実現させたといいます。

↑こちらはブルックリンクラのSAKE。正式には未上陸の希少酒のため、今回特別に持ってきたとか。テイスティングの感想はのちほど

 

注目集まる八海醸造のウイスキーは来春発売!

八海醸造が手掛ける国内の新たな動きで注目なのは、ウイスキーづくりです。同社では2016年から米を主原料とするライスグレーンウイスキーの生産を魚沼の深沢原蒸溜所でスタートさせていますが、熟成を経た品質基準がついに納得のいくレベルに仕上がったとのこと。満を持して、2024年4月に発売することも発表されました。

↑同社ではグループ会社に北海道のニセコ蒸溜所があり、ここではモルトウイスキーづくりが進行中。魚沼×ニセコのブレンデッドウイスキーも、そう遠くない未来に誕生するでしょう

 

トピックスをもうひとつ。八海醸造といえば、甘酒のヒットメーカーとしても有名。代表作が「麹だけでつくったあまさけ」ですが、本商品はこの度消費者庁への届け出が受理され、麹菌で史上初の機能性表示食品となりました。これを機に、2024年3月から機能性表示食品としてパッケージを一新してリニューアル発売されます。

↑「麹菌HJ1株」という赤いアイコンが新パッケージ。その他は既存商品ですが、来春リニューアルとなります

 

クラフトビールに着想を経たNYのSAKEも試飲

会見後は別会場に移り、特別なペアリング体験へ。個性豊かな4種のお酒を、贅沢な料理に合わせました。

↑それぞれの酒質に最適なグラスで提供。日本酒だけでなく「八海山本格粕取り焼酎 宜有千萬」(写真右端)も

 

スターターは「瓶内二次発酵酒 白麹あわ 八海山」を、赤万願寺唐辛子とフルーツトマトをベースにしたガスパチョとともに。お酒のフルーティーな香りとキレを高める、スパークリングの心地よい爽快感がいいですね。それはさながらスペインの発泡ワイン、カヴァのよう。

↑あしらいのキャビア、焼きはも、加茂なすはリッチなうまみや繊細な滋味深さを演出。みょうがの清涼感もたまりません

 

米どころ・新潟の日本酒が得意とする味わいといえば、淡麗辛口だといえるでしょう。今回その魅力を特に感じたのは「大吟醸 八海山」です。まろやかで上品な甘みを感じさせつつ、総じてクリアで後口はすっきり。ペアリングのビーフコロッケのおいしさを、より際立たせつつ調和し、余韻できれいに昇華する素晴らしい食中酒だと思いました。

↑「大吟醸 八海山」に合わせた料理の正式名称は、「牛頬肉とパルマンティエのクロメスキ トリュフのクーリ」。いわゆる、ビーフコロッケのトリュフソースがけです

 

ペアリング会場では、その他のテイスティングも体験させてもらいました。ブルックリンクラのSAKEも用意されており、そのなかから定番銘柄のひとつ「NUMBER FOURTEEN」と、限定酒の「OCCIDENTAL」を試飲。どちらも実にアメリカらしさを感じる、ユニークな個性をもった味わいです。

↑「NUMBER FOURTEEN」(左)は、華やかな香味とライトな飲み口を調和させた純米吟醸。そして「OCCIDENTAL」(右)は、ビールに欠かせないハーブであるホップを使った柑橘感漂う果実味と赤い色味が印象的

 

ブルックリンクラは、クラフトビールにヒントを得た酒造りがモットーのひとつ。「OCCIDENTAL」は、そのフィロソフィーが遺憾なく発揮された銘柄だといえるでしょう。使っているホップは、昨今のクラフトビールムーブメントを語るに欠かせないビアスタイル「IPA」に頻用されるシトラホップ。このホップによって醸し出されるフルーティーなアロマが、「OCCIDENTAL」の個性を際立たせているのです。

↑ブルックリンクラのブライアン・ポーレンCEO。会見では緊張気味でしたが、テイスティング会場ではにこやかなスマイルが印象的でした

 

NYでの日本酒文化発信やウイスキーなど、酒好きにとって嬉しいニュースが満載だった本会見。ブルックリンクラの各銘柄も、そう遠くない未来に日本でも広まっていくのではないでしょうか。今後の展開から、ますます目が離せません。

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)