みなさま、今年もお世話になりました。書評家の卯月 鮎です。2023年もいろいろとありましたが、どうにか完走といったところでしょうか。昨年に引き続き、今年も年間ベスト新書を選んでいきたいと思います。

 

5部門に分けて全5冊、どれも目からウロコ! 新しい扉を開けてくれる新書ばかりです。読み逃しているという方はぜひ!

 

■食文化部門

●『ソース焼きそばの謎』(塩崎省吾・著/ハヤカワ新書)

食べ物についての新書は、グルメ情報にとどまらず、食文化を深掘りすることで、その土地の歴史や時代の変化まで浮かび上がってきます。『ソース焼きそばの謎』はその最たるもの。

 

なぜ、焼きそばは醤油ではなくソースなのか?「ソース焼きそば戦後発祥説」を覆す、戦前からソース焼きそばを提供していたという浅草周辺の老舗3軒を訪ね、ソース焼きそばの成立を検証していきます……。明治以降の日本の近代化とも絡み、その背景は壮大。まるでミステリーのように楽しめる、食文化研究本の力作です。

 

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■科学部門

『新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!』(島野智之、脇 司・編著/岩波ジュニア新書)

専門家が自らの研究分野を読者にわかりやすく紹介してくれる科学系新書。大学の講義に潜り込んだかのような満足感があります。

 

『新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!』は、昆虫、植物、深海生物など新種を発見した研究者11人が、そこに至るまでの道のりを振り返るという内容。生物学における新種発見の意義がわかるとともに、夢を追いかけ、専門分野に全力を注ぐ人たちの人生ドラマともなっていて、ジュニア向け新書ですが、読めば大人も自分が信じる道を進もうという勇気が湧いてきます。

 

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■お仕事部門

●『ゲーセン戦記-ミカド店長が見たアーケードゲームの半世紀』(池田稔・著、ナカガワ ヒロユキ・聞き手・構成/中公新書ラクレ)

『ゲーセン戦記』は、毎日大会を開催し、配信し続ける個性派ゲームセンター「ゲーセンミカド」の経営者兼店長が、自らの体験をもとにゲーセン史を語っていくというもの。

 

「ゲーセンミカド」を軌道に乗せるまでの泥臭い奮闘ぶりはまさにお仕事ものの王道。普段は知ることのできないその業界ならではの慣習やお金事情もわかり、ビジネスパーソンなら仕事のヒントになりそう。久々に地元のゲーセンに行きたくなりました!

 

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■ルポ部門

『マイ遍路―札所住職が歩いた四国八十八ヶ所―』(白川密成・著/新潮新書)

『マイ遍路』は、四国八十八ヶ所・第五十七番札所の住職が自ら遍路を歩いてみた体験記。いつもは巡礼者を迎える側の住職が、逆の立場になって見えてきたこととは?

 

家庭的な宿で温かいもてなしを受けたり、海外から来たお遍路さんにうどんと七味唐辛子について教えたり、人口減の日本で寺院や僧侶はどう生き残っていけばいいのか悩んだり……。人はなぜ四国遍路にハマるのか、その魅力を感じることができました。

 

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■趣味が広がる部門

●『密室ミステリガイド』(飯城勇三・著/星海社新書)

著者がときに熱く、ときに理知的に、趣味や”推し”を紹介する新書は、私たちの興味の幅を広げ、人生を豊かにしてくれます。密室ミステリーに特化した『密室ミステリガイド』も、密室の沼にハマること請け合いのブックガイド。

 

元祖推理小説でもある『モルグ街の殺人』を皮切りに、密室ミステリーの名作50作を歴史順に紹介。前半は密室の概要と見取り図が見開き2ページにまとめられ、トリックが考察できる作りになっています。

 

そして後半はなんとネタバレあり! その密室トリックがいかに優れているかが解説されます。前半を読んで、気になった名作を手に取るのがオススメ。読了後、後半の解説を読みながら余韻に浸りましょう。気軽にパラパラめくれるのに中身はディープ。密室ミステリーの悦楽から出られなくなります。

 

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以上、とっておきの5冊でした。2024年も目からウロコが落ちる旬の新書を紹介していきたいと思います。ぜひこの新書コーナーをご愛顧いただければ幸いです。