男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。

出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで…この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。

-あの時、彼(彼女)は何を思っていたの…?

誰にも聞けなかった謎を、紐解いていこう。

さて、今週の質問【Q】は?

▶前回:デート帰り。タクシーで「家まで送るよ」と男が言っても、女が家のちょっと前で降りたら…




誰もいない玄関の扉を開け、「ただいま」を言ってみる。

もちろん、返答なんてない。

私は、手を洗ってうがいをし、コートを脱ぐ。仕事帰りに立ち寄ったスーパーで買った物を冷蔵庫に入れながら、スマホをチェックすると、LINEが2通入っていた。

「まさか…!!」

仕事終わりから、何度もチェックしていたスマホ。ようやく届いたメッセージを心を弾ませながら開く。

「違う…」

届いていたのは広告系のお知らせで、私が待ち侘びている洸平からの連絡ではなかったので肩を落とす。

ここ最近、パタリと連絡が来なくなってしまった洸平。いい感じだったのに、どうして急に連絡がなくなってしまったのだろうか…。


Q1:男は最初、どういう気持ちで挑んでいた?


洸平とは、女友達の由香里を介して出会った。

由香里は洸平と別の食事会で会った。でも「真央が絶対に好きな感じだから!!」と、すぐに食事会をセッティングしてくれたのだ。

「ひと目見た時からわかったの。100%、真央のタイプだから」

由香里が自信満々で勧めてくれただけあって、『W AOYAMA The Cellar & Grill』に現れた洸平を見た時は、思わずよろめきそうになった。




丸の内にある大手インフラ系企業に勤務している33歳の洸平は、とにかく私のタイプだった。

高身長で、薄めの塩顔。爽やかな雰囲気なのに、実はガッツリ体育会系だという、ピンポイントすぎる好みまで当てはまっていた。

― ヤバい…なんだこの人は。

全身を稲妻に打たれたような衝撃が走る。

しかも嬉しいことに、洸平は独身で結婚願望もあるという。

「洸平くん、そんなに若いのに結婚願望があるの?」
「いや、そんな若くないですから(笑)真央さんとほぼ変わりませんよ」
「いや、でも私もう36だし…」

しかも洸平には言えないけれど、早生まれなので来年2月で37歳になってしまう。

「年上とか、どうですか…?」
「僕ですか?年上、好きです!」

眩しい。洸平の顔がタイプ過ぎるからなのか、若さゆえなのか…とにかく眩しくて、私は思わず目を細めたくなってしまう。

「真央さんは?どういうタイプが好きなんですか?」

― あなたです!!

そう食い気味に答えそうになるが、私はグッとおさえる。「ポルチーニ茸のスクランブルエッグ」を一口食べて、冷静さを取り戻してから答えた。




「頼り甲斐があって、優しい人かな」
「頼り甲斐ってどういうところで感じるんですか?」
「ふとした瞬間かな。洸平くんは?どういうタイプが好きなの?」
「僕は明るくて笑顔が可愛い人、かな。あとリアルに、年上の方も好きです」

2回も「年上も好き」と言ってくれるのはどういう心理なのだろうか。

― これって、私のこともちゃんと恋愛対象に入っている、ということだよね?

前の彼氏と別れて、もう2年が経つ。胸が高鳴るけれど、むしろ「好き」という感情が久しぶり過ぎて、どうすればいいのかもわかっていない。

そしてお酒が入ってきたせいなのか、急に洸平が私を見つめてきた。

「真央さんって、めっちゃ肌綺麗ですよね。そもそも美人だし」
「そんなそんな」
「今度、食事に誘ってもいいですか?もちろん二人で」
「も、もちろん!」

― ヤバイ、好き過ぎる…どうしよう。

次に会う約束の日まで、私の心はずっとフワフワとしていた。でもその間も、色々と気を使ってはいた。

LINEの頻度も、重くならないように洸平から連絡が来た時だけ返すようにしたり、デート当日に向けて腹筋の回数を増やしたり…。

そんなことをしているうちに、あっという間に初デートの日がやってきた。


Q2:初デートで緊張した女。飲みすぎたのがやっぱりNG?


そして迎えた初デート。緊張しながら待っていると、洸平がやって来た。登場した瞬間から、今日もかっこいい洸平に目が眩む。

「お待たせしてすみません!」
「全然。早く来ちゃっただけなので」
「洸平くん、スーツなんだね」
「今日は仕事で人と会っていたので」

どこまで褒めていいものなのだろう。あまりにも好き好きオーラを発すると、逆にウザがられる気もする。

でも、次の洸平の言葉で、また私の平常心は吹き飛ばされた。

「真央さんは、今日も可愛いですね」

― これは反則でしょ…!!

どうしても、洸平とうまくいきたい。ただそう思えば思うほど、どうやって動いて良いのかがわからなくなる。

そんなことを考えているうちに、あっという間に時間が過ぎてしまった。

「真央さん、よければもう1軒行きませんか?」
「もちろんです!」

でも、ここで私は完全にやらかしてしまった。楽しすぎて、うっかり飲みすぎてしまったのだ。




2軒目のバーはいいムードのお店で、思わずペースも早くなる。

「真央さんって、今彼氏いないんですよね?」
「うん、いないよ」

本当にいない。だから私は洸平とどうにかなりたい。でも「ここで焦っても、いいことは何もない」と、経験上知っている。

それにさっきから、洸平は肝心なことは何も言ってきてくれない。何を考えているのか、わからない。

― 洸平は、私のことをどう思っているのだろう…。

この歳になると、傷つきたくない。

確実な勝負でないと、そもそも土俵にも上がりたくない。

恋愛で傷つくのがどれほど辛いか。そしてその傷を癒やすのに、どれほどの労力と時間を費やすのか…。

残念ながら、36歳の私は知っている。

恋愛で傷つくことに恐怖なんてなかった若い時の勢いは、今はどこにもない。




「真央さん、大丈夫ですか?」

洸平の声ではっと我に返る。

「うん、大丈夫。ちょっと酔ってきちゃったかも…」

気がつけば、ワインボトルが二人で1本空いている。お酒は弱いほうではないけれど、強いほうでもない。緊張してつい、飲みすぎてしまった。

「酔っ払った真央さん、可愛い」
「そんなことまた言って…。洸平くん、毎回女性にそんなこと言ってるの?」
「真央さんだけですよ!こんなこと、誰にも言いませんから」
「そうかなぁ〜なんか信じられない」

そんなことを話しながら、気がつけば手を繋いでいた私たち。距離も近いし、私の心臓の音がバレないか不安になるほど、ドキドキしている。

― あれ?これってかなりいい感じなのでは…?

そう思いながら、私たちは2軒目のお店を後にして一緒のタクシーに乗り込んだ。

でもそこからは何もなく、タクシーで家の下まで送ってくれた洸平。

「じゃあ真央さん、またね。気をつけて帰ってね」
「ありがとう。またね」

笑顔で手を振りながらも、次の展開を期待していた。このまま、もう付き合う流れかと思った。

でも蓋を開けてみればこの日以降、洸平からの連絡は急にそっけないものになってしまった。

だからといって、私が追いかけて、返信が来なくてひとりで悶々と悩んだり、惨めな思いをするのは耐えられない。

結局私は、ただひたすら洸平からの連絡を待っている…。

▶前回:デート帰り。タクシーで「家まで送るよ」と男が言っても、女が家のちょっと前で降りたら…

▶1話目はこちら:「あなたとだったらいいよ♡」と言っていたのに。彼女が男を拒んだ理由

▶NEXT:12月10日 日曜更新予定
酔っ払った女に対して男が思っていたことは