コロナ禍を経て親が…。イタリアの子どもたちが「習い事」をすぐに変えるわけ
イタリアでは、多くの子どもたちが学校の放課後、習い事に通っています。コロナ禍を経てイタリア人は「子どもがやってみたいことはすぐにやらせる」ようになり、この傾向は習い事にも表れていますが、そもそも同国の子どもたちは何を習っているのでしょうか? 現地からイタリアの習い事事情をレポートします。
人気の習い事
イタリアで人気が高い習い事は、日本と同様にスイミングと英会話教室で、男女とも4〜5歳から開始。特に英語教育は親の関心がとても高く、放課後に幼稚園内で行われるネイティブスピーカー教師による教室の運営を保護者が担うほどです。
6歳から小学校に通い出すと、習い事の選択肢がぐっと広がります。イタリアのある企業が行った調査によると、スポーツでは、女子は器械体操やバレーボール、男子は国技ともいえるサッカーをはじめ、バスケットボールやテニスが多く、男女共通では柔道、空手、ボルダリングなどを始めます。日本で一般的ではない乗馬、フェンシング、水球、シンクロナイズドスイミングなども、イタリアが世界的に強い種目なので選択肢の一つです。
一方、文化系の習い事を見てみると、女子はクラシックバレエやダンス、男女共通では演劇、ピアノやドラムなどの器楽となります。イタリアらしいのはチェスで、日本の将棋のように子どもたちは昇級や大会にも挑戦。このゲームは学校の授業でも学年単位で取り組んだり休み時間に対戦したりと盛んに行われています。
日本では学習塾に通う小学生が目立ちますが、イタリアの小学校と中学校には日本のような受験システムがないため塾は一般的ではなく、学習の遅れがある場合には家庭教師で対処します。
送迎問題
また、日本と違い、イタリアでは誘拐が多いため、11歳未満の子どもが一人で外を出歩いたり、家に一人でいたりすることは法律で禁じられています。そのため、幼稚園生や小学校4年生までの放課後の習い事には保護者の送迎が必須。
幼稚園や学校外での習い事の送迎は、日によって時間の融通が利くほうの親が担当。両親とも帰宅が遅い家庭では、祖父母やキッズシッターが対応することが一般的です。
なかには送迎が難しくて習い事をさせられない家庭もあり、学校内での部活動がないイタリアにおいて子どもの課外活動は全員ができることではありません。
しかし、共働き家庭が多いミラノの場合、放課後は校舎を契約業者に開放して低料金の課外活動をしている小学校もあります。授業後、子どもたちはそのまま学校に残り、それぞれの習い事の教室や体育館に直接行くことができるので、保護者の間でとても人気です。
一番大事なことは…
イタリア人はコロナ禍でロックダウン(都市封鎖)を体験したことで、「できる時にやりたいことをする」「ヴァーチャルでは味わえないリアルな体験をしたいし、子どもにも経験させてあげたい」と考えるようになり、コロナ禍前よりも頻繁に家族で珍しい場所に行ったり旅行をしたりする人が増えました。
例えば、長距離バス会社・FlixBusの調査によると、コロナ収束後は単なる観光ではなく体験を重視する旅行者が増加。サファリ体験など、それまでやりたいと思っていたことやユニークな楽しみを優先する傾向が目立つそうです。
このトレンドは子どもの習い事にも表れています。親は子どもがやってみたいことをやらせてみて、練習がキツかったり、子どもに向いていなかったり、楽しくなかったりする場合はすぐにやめて、次のやってみたいことをやらせる。こんな傾向がコロナ禍前よりも顕著になりました。
コロナ禍を経て、もともと「楽しいことが一番」というイタリア人の考え方に拍車がかかったといえます。
イタリアと日本で人気の習い事は共通している部分もありますが、親が子どもに習い事を始めさせた理由が異なるように思われます。日本人の親の間では「受験に備えさせたい」「自信をつけさせたい」「夢中になれることを見つけてほしい」など、子どもの成長や将来への期待が一般的な理由のようです。
一方、イタリアでは「新しいスキルや興味を開発する」に加え、「友達を作る」「アクティブで健康的」「楽しむ」といった理由が挙げられると同国のニュースメディア・PISATODAYは述べています。どちらかといえば、イタリアでは今を楽しむことやフィジカルな成長が重視されています。
努力し継続して成長することを大事にする日本人と、楽しいことが一番というイタリア人の国民性の違いが、習い事にも表れているといえるでしょう。