国内の旅行事業者から「サステナブルな旅行商品」の企画募集が観光庁主催で4月4日〜8月31日の期間で行われました。有識者により持続可能な観光の国際基準である「GSTC-I」などに基づき総合的な審査を実施。10月27日に大阪で行われた「ツーリズムEXPOジャパン」にて大賞・準大賞・特別賞を受賞した旅行事業者への表彰式が開催されました。

 

大賞

【特別な許可を得て草原体験! 噴煙を上げる阿蘇中岳火口と「千年の草原」E-MTBライド】

〜「三方良し」の循環モデルの創出〜

見事、大賞に選ばれたのは阿蘇温泉観光旅館協同組合によるツアー。特別な場所を、クリーンなE-MTB(電動自転車)でサイクリングする内容です。

 

阿蘇カルデラに広がる日本一の広さを誇る草原は、千年以上の年月をかけて地元の人々が守り抜いてきたことから「千年の草原」と呼ばれており、普段は立ち入ることができません。そんな貴重な場所を、クリーンなE-MTB(電動自転車)でサイクリング。阿蘇を知り尽くしたベテランガイド集団「あそbe隊」が特別な許可を得て、草原の絶景ポイントを案内してくれます。阿蘇に何度も来たことのある人も、このツアーに参加すると『こんな阿蘇の絶景は初めて!』と驚きの声が上がるそうです。

 

準大賞

【Connecting to Yatsugatake】

〜旅行者と地域をつなぐサステナブルな意識〜

準大賞に選ばれたのはTricolage株式会社によるツアー。太古より自然環境と人間社会が共栄共存してきた八ヶ岳を訪れる内容です。

 

旅行者と八ヶ岳が生み出すシナジーこそ、サステナブルステイの真髄であることを体感できます。また、乗馬体験や循環型農業体験などの特別なアクティビティも充実しています。

 

準大賞

【漁村集落の小さなお宿交流と漁民が守りつなぐ海山体験】

〜サステナビリティをテーマに漁村の震災復興〜

同じく準大賞に選ばれたのは株式会社かまいしDMCによるツアー。自然や文化の「活用と保全」を両立させる観光体験コンテンツを楽しめる1泊2日の内容です。

 

町内住民が協力して収穫する新鮮な海の幸と地元の郷土料理で地産地消をかなえ、サステナブルかつ高質なおもてなしと、あたたかな交流を実現しています。

 

 

特別賞

【台東区の歴史・文化・魅力を再発見! “江戸の匠・職人”を撮る 〜第 3 弾〜】

〜旅行業者のノウハウが生む匠の新たな輝き〜

特別賞に選ばれたのはクラブツーリズム株式会社によるツアー。台東区の伝統文化や職人の技に触れられる「職人の技を撮影」する内容です。

 

職人の方々との交流はもとより、歴史・文化・芸能・暮らしにおいて江戸の面影を色濃く残す台東区の「多彩な魅力」を楽しむことができます。

 

特別賞【日本遺産・箱根八里で古の旅路の追体験】

〜地元民の語りが深める箱根の歴史と文化〜

同じく特別賞に選ばれたのは株式会社やまぼうしによるツアー。箱根八里の歴史を紐解きながら、多くの旅人たちが疲れを癒したこの地の魅力を再発見することができます。

 

宿場町である箱根が長い年月にわたり大切に培ってきた地域の歴史・文化・自然を通じて箱根の原点を感じることができる内容です。

  

特別賞【2泊3日十日町棚田トレッキング】

〜棚田がつなぐ雪国里山の暮らし〜

同じく特別賞に選ばれたのは株式会社 HOME HOME NIIGATAによるツアー。ブナ林トレッキング・古民家宿泊・伝統料理作りなどが体験できます。

 

持続可能な観光の実現を目指しており、ツアー収益の一部は地域の棚田基金や集落へ寄付されています。

 

特別賞

【気ままなバス旅「レールマウンテンバイク Gattan Go!!」プラン】

〜地域の足を守る新たな需要発掘〜

同じく特別賞に選ばれたのは濃飛乗合自動車株式会社によるツアー。廃線となった旧神岡鉄道の線路の上をマウンテンバイクで走る新感覚の乗り物を楽しめます。

 

まるで列車に乗っているようなレールの継ぎ目と振動を感じながら奥飛騨の景観を満喫。路線バスとタクシーを組合せたプランが人気を集めています。

 

以上が今回、受賞に輝いた旅行事業者7社のツアー内容です。海外では、旅行先を選ぶ判断基準になってきているという「サステナブルな旅」。その中で今回、これらの選ばれた決め手は何だったのでしょうか。「サステナブルな旅AWARD」が開催された背景と合わせて解説します。

 

背景にはインバウンド

インバウンドについては、コロナ禍で大きく落ち込んでいましたが、2023年9月の訪日外国人旅行者数はコロナ禍前と、ほぼ同水準となるなど急速に回復。今後もインバウンド市場は、高い成長率での拡大が見込まれています。

しかし、国内の旅行事業者における外国人旅行の取扱額は全体の数%程度しかありません。コロナ禍以前から厳しい状況にあり、インバウンド市場の開拓が進んでいないのです。

 

海外に目を向けると、サステナブル志向の高まりが顕著であり、旅行市場における今後の成長のカギを握っています。ヨーロッパにおいては、持続可能な観光の取組を行っているかが旅行者のプラン選択の基準となりつつあり、旅行事業者もサステナブルな旅行商品の開発に力を入れています。

 

こうしたグローバルトレンドを受けて日本の観光地においても、日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D※)への対応をはじめ、インバウンド市場の活性化に向けて国内の旅行事業者によるさまざまな取組が少しずつ広がりを見せています。

↑「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」とは、グローバル・サスティナブル・ツーリズム協議会(GSTS-D)が開発した国際基準である観光指標を基に策定された持続可能な観光を推進するためのガイドラインのこと

 

では「サステナブルな旅」とは何でしょうか。これまでの「旅」とは目的地に行って個人的に自由に楽しむものでしたが、その概念が変わりつつあります。旅先で単に楽しむだけではなく、旅先の地域資源を持続的に保ちながら、そこに暮らす人々の生活も豊かになるように考えられた「旅」。それが「サステナブルな旅」なのです。

 

旅先の文化や環境の保全を考え、現在および将来において持続可能な社会をつくることに寄与するような「旅」が世界的に注目されてきています。このような背景から開催されたのが今回の「サステナブルな旅AWARD」。この賞をきっかけに、サステナブル志向の高いツーリストにとって魅力的な「旅」の選択肢が広がることが期待されています。

 

賞の審査委員長を務めた、北海道大学・観光学高等研究センター客員教授の小林英俊先生による、大賞への講評には以下のような内容が書かれています。草原の保全料をツアー価格に組み込むことでの安定した資金還流の仕組みの実現。旅行者は美しい景観を楽しめ、地元は収入源の確保となり、草原の環境も保全されるという「三方良し」の循環モデルを創出している。その点が優れており決め手になったとのこと。

 

まさに、旅先の地域資源を持続的に保ち、そこに暮らす人々の生活も豊かになるように考えられた「サステナブルな旅」そのものです。今後は、このような「サステナブルな旅=サステナブルツーリズム」が観光・旅行のメインになっていくことは間違いなさそうですね。