シーチキンに42年「ぶり」の新魚種。「シーチキン エブリ」はなぜ「ぶり」?
国民的ツナ缶といえば「シーチキン」でしょう。この同ブランドから、42年ぶりに新たな魚種を使った製品がデビューしました。その名は「シーチキンEvery(エブリ)」で、採用した魚はぶり。なぜこのタイミングになったのか、ぶりを使った理由は? などを担当者にインタビューするとともに、「シーチキン」各種の味比べやトリビアなども一緒にお伝えします。
ぶり採用には魚の需給バランスが強く関係していた
「シーチキンEvery(エブリ)」の特徴は、前述の通りぶりを使っていることですが、こだわりはそれだけではありません。主に3〜5月の九州・四国で水揚げされる、加工適性のある天然ぶりに厳選しており、味わい開発や製造ラインの調整などを含めると製品化の検討から5年もかかったそう。
味付けに関して、「シーチキンEvery」は大豆油とオニオンエキスを使い、コクのあるしっかりとした味わいに。そして「オイル不使用シーチキンEvery」は、オニオンエキスと独自の調味液のみでさっぱりとした美味しさになっています。魚種の選定で大切にしたことは、「シーチキン」としての美味しさやふさわしい味であること、とのことですが、ぶりの決め手はどこにあったのでしょうか。開発担当者に聞きました。
「そもそもの背景には、これまでの『シーチキン』の原材料であるまぐろやかつおの需給バランスに変動があるからです。その点、日本で水揚げされるぶりは国内で消費されるため、世界的なニーズの影響を受けにくいんですね。データでみても、直近10年間は年間10トン前後と安定(※)しており、ぶりを使った製品化は2018年より検討してきました」(辻さん)
※政府ポータルサイト「海面漁業生産統計調査」魚種別漁獲量(2011〜2021年)
同社では魚の頭は乾燥してフィッシュミールとして製品化。肥料や飼料などに使われるなど、原料すべてを使い切っています。一方、ぶりはまぐろやかつおより製品に使用できる部分が少なく、製造ラインのハンドリングなどの確立には苦労したとか。
「ぶりは頭が大きく、血合い肉も多い魚です。そのため原料加工のプロセスにも高いハードルがありました。そういった部分も含め、製品化に5年がかかったというわけです」(辻さん)
個人的に気になったのは、漁獲時季と産地です。「寒ぶり」で知られるように、ぶりは冬が旬なイメージ。なおかつ北陸近海が名産地という印象ですが、3〜5月の九州・四国産を採用している理由は?
「確かに寒ぶりは、脂がのった濃厚な味わいが魅力ですよね。ただ『シーチキン』の加工特性としては春ごろの脂のりが最適なんです。加えて、原材料調達の安定性や加工特性としても、原材料の状況により変動しますが春季の九州産と四国産が適正であると判断しました」(辻さん)
ちなみに、ぶりは出世魚としても知られ、いなだ、わらさなどを経てぶりとなります(地域によって呼称差あり)が、「シーチキンEvery」ではしっかり成長した正真正銘のぶりを使用。では味はどうか、ということで既存の「シーチキン」との食べ比べもしてみました。
エブリはふわっとやわらかくまろやかで上品な味
目の前に差し出されたのは4つの魚種ごとの「シーチキン」。こうして観察すると、色味だけでも違いがあることがわかります。新作の「シーチキンEvery」から食べてみました。
「シーチキンEvery」の第一印象は洋風のニュアンス。これはオニオンエキスによるものか、ぶりがもつ素材の味でしょうか。ふわっとやわらかい食感や、まろやかなうまみと相まって、上品な美味しさに感じました。
どんどんいきましょう。きはだまぐろの「シーチキンLフレーク」は、食感も味の強さもしっかりめで、どこかシャープな表情も。かつおの「シーチキンマイルド」も味はくっきりしていますが、かつお節などでも身近な魚だからか、カジュアルな印象があります。そしてびんながまぐろの「シーチキンフレーク(一本釣)」は、滋味深いうまみがふわっと押し寄せる、やさしくて貫禄ある味わい。4つのなかで鶏のチキンに一番近いのはこれかも、とも思いました。
65周年を迎えた「シーチキン」。なぜこの名称に?
そのほか、「シーチキン」に関するトリビアもたくさん教えてもらいました。例えば歴史。はごろもフーズは1931年創業(当時は後藤缶詰所)で、1958年11月に既存製品だったツナ缶を「シーチキン」と名付け、商標登録したのがブランドの始まりです。
また、魚肉の形状には「シーチキンファンシー」などで知られるソリッド(大きい形のまま/1931年〜)、「シーチキンL」に代表されるチャンク(大きくほぐしたもの/1976年〜)、最もなじみ深いフレーク(1983年〜)の3タイプがあり、実はソリッドが最も古株。そして調味液にも4種類があり、そこから様々な製品バリエーションが生み出されています。
そして「シーチキン」というネーミングには、1958年当時はツナ缶がいまほど知られていなかったことから「わかりやすいネーミングを」という理由で草案。蒸したびんながまぐろが味も食感も鶏肉に似ていることから、「海(シー)の鶏肉(チキン)」で商標登録されました。缶詰製品に名称を付けたのも、「シーチキン」が初だそうです。
ここで筆者は質問してみました。なぜ「シーチキン まぐろ(ツナ)」や「シーチキン かつお(ボニート)」といった魚種にしなかったのかを聞くと、「魚種の先入観をもたずに味わいを楽しんでほしい」という想いが込められているからだそうです。
また、「シーチキン」は地域によって魚種の嗜好性が違い、東日本一部のきはだまぐろが好まれるエリアでは「シーチキンLフレーク」がよく売れ、かつおが人気の西日本では「シーチキンマイルド」が台頭しているそう。そして特殊な例としては、まぐろのツナ缶が一般的な米国食文化の影響が入っている沖縄。ここでは「シーチキンフレーク」や「シーチキンLフレーク」が圧倒的な人気を誇っているそうです。
寿司ダネでは、まぐろやかつおよりもぶりが好きという人は少なくないでしょう。それこそ、ぶりが名産の北陸では「シーチキンEvery」が一番人気になるかもしれません。42年ぶりと、超久しぶりに登場したぶりの「シーチキン」、今後の戦いぶりにも注目です!
※「シーチキン」は、はごろもフーズ株式会社の登録商標です。
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