ほろ苦いベルギーデビュー。STVV鈴木彩艶は浦和時代と変わらず、自分を徹底検証して本領を発揮。「さらに上のレベルに行けるかなという手応えも」
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それから3週間後の8月27日、サークル・ブルージュ戦。鈴木はSTVVのGKとして、初めてスタメンに抜擢された。本拠地・大王わさびスタイエンスタジアムのピッチは人工芝。浦和の育成時代を思い出しながら、彼はゴールマウスに立ったのだろう。
「労働ビザ取得に2週間くらいかかると聞いていましたが、幸いにして僕は1日で取れたので、すぐにトレーニングに合流できました。それは良かったんですが、アカデミー時代以来の人工芝ということで、そこに適応するのが最初でした。
もう1つ重要だったのが言語の部分。移籍に備えて結構前から準備をしていましたが、ゲームの中で単語を使いながら意思疎通を図っていきました。コーチングの部分は日本より伝わりにくいところが確かにありましたね。
『絞れ』とか『寄せろ』とか言っても、思った通りにはやってもらえない傾向があった。むしろ『ディフェンス陣はやってくれない』と割り切って、対応策を講じていくように意識して、試合への調整を進めていきました」と、鈴木は自分なりに工夫しながら適応を進めていったという。
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努力の成果もあり、前半は何とか無失点で乗り切った。しかしながら、後半に入ると失点を重ねてしまう。1失点目は64分。真ん中を割られてティボ・ソマーズに決められてしまった。その5分後には、ペナルティエリア内の左側からのパスに抜け出したケビン・デンキーにあっさりとゴールを割られる。
終わってみれば0−2の黒星。彼にとってはほろ苦いベルギーデビューとなったのだ。
「デビュー戦は思ったようにまったくできなくて、2失点してしまいました。失点シーンを振り返っても、自分が今まで取り組んできたことがまったくできなかった印象でしたね。ミスも目立ちましたし、本当に悔いの残るゲームだった。
やっぱり移籍して最初の試合ということで、緊張やプレッシャーもあったと思うし、何かいつもとは違う感覚でピッチに立っていた自分がいました。
もう1つの難しさは、今のチームスタイル。レッズの(マチェイ・)スコルジャ監督もビルドアップは大事にしていましたけど、(トルステン・)フィンク監督はレッズ以上に後ろからつないでいくスタイルを採っている。
ゴールキックに関しても、本当にプレッシャーがかかっているなかで明確につないでいくので難易度が高いんです。そのうえ、4バックではなく3バックですから、感覚的にも違います。そのあたりが思ったように実践できなかったのもあります」と、鈴木は神妙な面持ちで語っていた。
そこで彼が取り組んだのは、自分のパフォーマンスを冷静に分析すること。浦和時代にはジョアン・ミレッGKコーチのもと、GKグループで試合やプレー分析をするのが常だったが、その習慣が身についている鈴木は映像を繰り返しチェック。何が良くなかったのか、どうあるべきだったのかを徹底的に検証したというのだ。
「1失点目だと、まずワンタッチの予測が持てていなかったし、止まり切れなかった。そういう細かい部分を積み重ねていくしかないんです。2失点目のシーンは、自分が考えていたのと違うタイミングで、1つ前の選手が蹴ってきて、シュートを決めたフォワードは触らなくても入ったと思うんですけど、やっぱり1対1の対応の行き方、角度といった部分を改善していく必要があるなと感じました。
ジョアンコーチが来てから、周作さんのプレーに対して全員で感想を述べるということを日々やっていたので、分析する能力は確実に養われていると思う。それはベルギーに来てからもすごく役立っていますし、先輩後輩に関係なく意見を言うことの大切さも感じながらサッカーに取り組めています」
STVVのGKチームが分析・検証作業を重視していたことも、鈴木にとっての救いになった。指揮官筆頭にコーチングスタッフがガラリと変わった同クラブにあって、GKコーチのデニス・ルデル氏だけは残留した。
シュミット・ダニエルも昨季「ベルギー1部でトップのゴールキーパーチームを作ろうと日々、励まされ、切磋琢磨できる環境を作ってもらえたから、失点数を少なくできた」と語っていたほど、有能な指導者ということで、新加入GKにとって心強い存在なのは間違いないだろう。
「今のゴールキーパーコーチも、映像を使ってゲームの振り返りを個人的にしてくれます。最初の試合後も呼ばれて20〜30分くらい話をしましたね。指摘された問題点は僕が考えたこととほぼ一致していたので、すぐに前向きにトレーニングに向かうことができました」
こうしたトライの結果、1週間後の9月3日のシャルルロワ戦は1−1のドロー、9月のインターナショナルマッチデーを挟んだ同17日のメヘレン戦では2−0の勝利を収めた。
同24日のヘンク戦は3−3と勝ち切れなかったが、鈴木は「試合に出続けられているというのは、本当にポジティブなこと。より結果を出さないといけないという責任感も強まっています」と話す。
「先ほど言ったように、今のチームは最後尾からのビルドアップを重視していますが、まだまだ自分の中ではミスもある。それを減らして、質を高めていくことが必要だと思います。
それと同時に、自分の強みであるクロスへのアタックだったり、自分のキックからチャンスを作るってところをどんどん伸ばしていけば、さらに上のレベルに行けるかなという手応えも掴んでいます。
シュートストップや反応の部分は誰にも負けない自信があるし、それもベルギーで思い切りできているので、引き続き、試合の中で質を高めていければいいと思います」
最初こそ壁に直面したものの、潜在能力の高い21歳の日本人守護神は、確実にハードルを越え、本領を発揮しつつある。「日本サッカー界屈指の大器」と言われる若きGKが、異国でどこまで成長していくのか。それが非常に楽しみである。
※第1回終了(全3回)
取材・文●元川悦子(フリーライター)
