Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由

セレッソ大阪ヤンマーレディース ザーラ・ムズダリファ インタビュー

Jリーグでプレーする外国籍選手をインタビューする「Why JAPAN?」シリーズ。今回は「WEリーグ版」をお送りする。今夏、セレッソ大阪ヤンマーレディースに加入したインドネシアの女子サッカー選手、ザーラ・ムズダリファ。インスタグラムのフォロワー90万人の人気者はなぜ日本に来たのか。


セレッソ大阪ヤンマーレディースに加入したインドネシア人、ザーラ・ムズダリファをインタビューした

【インドネシアの国民的スポーツ・アイコン】

 FIFA女子ワールドカップのなでしこジャパンの活躍も記憶に新しいなか、WEリーグの新たなシーズンが幕を開けた。WEリーグは世界一アクティブな女性コミュニティであることを目指し、東南アジア圏からも積極的に選手を迎えている。2023−24シーズンは、マイナビ仙台レディースとAC長野パルセイロ・レディースがそれぞれタイから、また今季リーグ参入したセレッソ大阪ヤンマーレディースは、インドネシアから選手を新たに獲得した。

 インドネシアから日本へやってきたのは、ストライカーのザーラ・ムズダリファ、22歳。彼女はセレッソ大阪ヤンマーレディースの新体制発表会以降、早くもスポーツ紙に取り上げられ、その華やかな容姿と明るくオープンなキャラクターで注目を集めはじめている。

 それもそのはず。ザーラはもし今サッカー選手でなかったら、母国インドネシアのエンターテインメントの世界で芸能人として成功していたかもしれないほどの愛されキャラ。インスタグラムのフォロワー数は90万人を超え、インドネシアの国民的スポーツのアイコンなのだ。

「基本的にインスタは自分が楽しいからやってます! 以前は芸能界にも入ってて、モデルをやったり、CMにも出たりして、自分自身SNSが好きだから。私が活躍している様子をみんなに見てもらって、それで女性もサッカー選手になれるっていう印象を持ってくれたらより良いかなと思います」

 そう明るく話すザーラも、セレッソ大阪の入団を勝ち取るのはそう平坦な道のりではなかった。ひとたびサッカーの話になれば、努力家で負けず嫌いな一面を覗かせる。

【男子チームのなかの女子選手として活躍】

 インドネシアはサッカーが人気ナンバーワンスポーツで、歴史も古い。日本代表も1970年代まではインドネシア代表に勝つことができなかったほどだ。初めて来日したインドネシア人選手は、1988年に松下電器(現在のガンバ大阪)でプレーしたリッキー・ヤコビで、現在では東京ヴェルディのプラタマ・アルハンが日本における2シーズン目を過ごしている。そんな人気スポーツでさえも、女性となると、継続してプレーできる環境はほとんどないのが現状だ。


サッカーを始めてから来日までの経緯を語るザーラ・ムズダリファ

「サッカーを始めたのは7歳。私はアクティブで黙っていられない、動くのが大好きな子だったので、父が友だちとフットサルをやるのに一緒についていったのがきっかけです。そこで初めて父がボールを蹴っている姿を見て、マネしてやってみたら好きになりました。誰にコーチングしてもらうわけではなく、壁に向かってボールを蹴ったり、リフティングしたり。

 10歳の時に父が、私がうまくなっているのを見て、才能があるからサッカーアカデミーに入ってみない? と勧めてくれたんです。女子のアカデミーはないから、男子のアカデミーに入りました。女子がサッカーをするのは一般的なことじゃないので、女なのに何でサッカーやっているのか、ってちょっとネガティブな目線で見られたりもしました。

 最初はひとりぼっちで友だちもできず、それでも親からは、周りは気にせず頑張ってうまくなりなさいって言ってもらいました。その後いくつかの国際大会に出てすべて優勝して、ゴールも決めて、やはり男子チームに一人だけ女子というのは目立つからインタビューを受けて、メディアに出始めることになりました。

 他の国では、女子選手の参加は当たり前になってきていましたけど、インドネシアでは状況が違うので、大ニュースになっていましたね。サッカーは男性だけではなく女性にもできるよ、という印象を与えることになったと思います。それらの大会に出たのが12歳の頃です」

【プレー環境のないなか海外へ】

 ザーラは男子チームでプレーを続けていたが、FIFAの規定で男子と一緒にプレーできなくなる14歳からは、インドネシアには女子のクラブもリーグもなく、その後18歳までプレー環境を失い、自主練習とファンフットボールに明け暮れた。

「18歳の時にインドネシアがアジア大会2018のホストカントリーになりました。ホストになって、女子代表チームが編成されて、そこで代表チームに入りました。アジア大会の時にもまだ女子のクラブもリーグもなかったので、代表チームの活動だけです。それでアジア大会に出て、モルディブに6−0で勝つなど少し成績を残すことができたので、インドネシアサッカー連盟も注目してくれて、代表チームの選手をそのまま残して練習を行なうことになりました。

 翌年、初めて女子リーグ(10チーム)を行なうことになりました。リーグの開幕にあたって、小さい頃からの憧れだったクラブのペルシジャ・ジャカルタに入ることになりました。ただ、リーグは3カ月の期間限定のもので、さらに私は途中で代表チームの合宿に呼ばれたので、1つのタームしか参加できなくて、その後クラブの練習にも試合にも参加できていません」

 翌2020年、世界的なパンデミックが起こってからはリーグも行なわれることがなく、再びザーラの継続的なプレー環境がなくなってしまった。

「女子サッカーの見通しが明確でなかったので、このままでは成長できないと思って、2022年にイングランドに行くことにしました。ディビジョン5のサウスシールズFCでプレーして、ほかにはリバプールのU−21にも練習参加させてもらいました。

 その後インドネシアに戻ってビザの手続きをしているところで、エージェントからセレッソ大阪が私に興味を持っているよって話が来て。イングランドではリーグ戦も続いていたのですが、私はより自分を高められるプレー環境を欲していたので、いろいろと考えたうえで2週間、セレッソの練習に行くことにしました」

【日本のサッカーを見てショックを受けた】

 セレッソ大阪のウェブサイトには、ザーラの座右の銘として「Never give up on something that I always wanted in life(人生でずっと欲しいものを決して諦めない)」とある。これまで2度もプレー環境を失いながら、周囲の支えと好きなサッカーを続けたい一心で、ザーラは日本に辿り着いた。リッキー・ヤコビの来日から35年後、日本のサッカーリーグでプレーする史上初めてのインドネシア人女性となる。

「来る前は、日本サッカーの情報は知りませんでした。大阪に来て初めて日本のサッカーを見て、ショックを受けました。基本的な考え方が全く違う。日本は基本に忠実で、効率的にサッカーをする印象です。自分はボールを長く持たずに、素早くパスを回して、パスの質にもこだわり、ボールをもらう前にも次を考えて動き、コントロールする。チームプレーがより良くできる。そこに惹かれました。

 イングランドのディビジョン5は、インドネシアとそんなにやり方が変わらず、より個人的なプレーになります。フィジカルに頼るので、筋トレもすごくしました。自分がどれだけ長くボールを持てるかというのを求められたので、そこが日本との大きな違いですね」

 2週間の練習参加で、ザーラはここで練習できたら自分は向上できるはず、やはりここでやりたいと思っていた。同時にセレッソ大阪からも、さらに3カ月のトライアルの機会を打診される。その後、本格的に日本で練習を始めたザーラは、練習試合でもゴールという結果を残し、今年7月に無事セレッソ大阪への入団が決定した。

「実は子どもの頃、一度家族旅行で日本に来たことがあるんです。初めて寒い国に来たので、季節の違いをそこで初めて感じました。ディズニーランドでは迷子になりました。あとは綺麗な国だなって思いました。ただ私も小さかったので、ディズニーランドとか富士山とか、わずかな記憶しか残ってないんです。

 だから今回、日本に行くことになって、やはり新しい世界、言葉が全然違う国に行くので、少し心配がありました。ただ、私の性格的に考えすぎるとより多くの心配が出てきてしまうので、考えるのをやめました。インドネシアにいる日本人の友人はみんな礼儀正しくて親切でしたし、実際こちらに住んでみてもその印象は変わらない。考えすぎずにチャレンジしていこう! のマインドは、今も変わらずにあります」

【「たこ焼きが一番好き!」】

 ザーラのインスタグラムは、桜色のユニフォーム姿や、普段の何気ない生活をアップする数が増えてきた。日本のサッカー選手生活に馴染んできた何よりの証拠だろう。「たこ焼きが一番好き!」という日本食も問題なく、イギリスよりもむしろ日本の料理のほうが食べられると話す。

 最近のインスタグラムのストーリーでは、手に入れたギターを自室で開封する動画をアップしている。早々に日本の曲を歌い始めるかもしれない。根っからのエンターテイナー気質はインドネシアのみならず、これから日本でもファンも増やしていくことだろう。


「日本のサッカーに惹かれた」とザーラ・ムズダリファ。WEリーグでの活躍なるか

「今後の目標は、まず個人としてできるだけ多くの出場時間をプレーできるように。そしてチームとしては、自分も全く未知の領域ですが、最低限リーグのトップ3を目指したいし、そこに貢献したいなと思っています」

 育成に長けたセレッソ大阪ヤンマーレディースの日々で、ザーラがそのポテンシャルを開花させ、ゴールを決めるのはいつか。それまでの軌跡を、今季のWEリーグの注目ポイントの一つとして加えてみてはいかがだろうか。